表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺幼女  作者: 山田マイク
「首ハネのヴィーナス」編
42/85

42 罠


「というわけで」

 と、俺は言った。

「クルッカ。お前、男娼やってくれな」


 そのように頼むと、はぁ? と、クルッカは少し声を裏返らせて返事をした。


 再び、「人形屋」である。

 俺はクルッカとパルテノを前にして、作戦会議をしている。

 丸椅子の上で胡座をかいてるクルッカ。

 勘定台の中で腕を組んでいるパルテノ。

 その前で、俺は彼らと共に今回の計画を練っている。


「なんだよ、それ。どうして俺が立ちんぼなんかやらなきゃならねぇんだ」

「実際にやれとは言ってない。フリだよ、フリ」

「フリでもやだよ」

「しょうがないだろ。今回はどうにも確証がない。いや、恐らくは間違いないねぇんだろうが、動機がイマイチ曖昧と来てる。こうなったら、現場を抑えるっきゃねぇ」


 今回の事件。

 俺の予想では、十中八九、犯人――"首ハネのヴィーナス"はガロワだ。

 会話したときの彼の"色"。

 目撃証言。

 そして、ガロワの家にあったトワイライト人形。

 血塗れのドレスたち。

 どう考えても、彼がやったように思える。


 しかし。

 一つだけ、気がかりなことがあった。

 肝心の"動機"が無いのだ。


 クルッカの調査では、ガロワはマグノリア教の信者ではなかった。

 であるなら、彼には男娼を狙う動機がない。

 俺の"目"から見ても、快楽殺人者でもない。

 動機があやふやな以上、"仕事"は出来ない。


 あとは、"罠"を仕掛けて現場を抑えるしかない、というわけである。

 俺たちの内の一人が囮となり。

 ノコノコやってきた犯人を待ち構えてやろうという魂胆だ。


「だからって、なぁんで俺なんだよ」

「お前が一番華奢だから。それっぽいから。髪もピンクだし」

「いや、言っとくが、男の好みなんて人によって千差万別だぞ。華奢だからモテるとか、ピン毛だからどうとかって、そういうもんじゃねえんだ。むしろ、パルテノのおっさんのような、ガタイがよくていかついオヤジの方がモテるってこともある」


 クルッカはそう言って、パルテノに水を向けた。

 パルテノは目をぱちくりさせて、「わ、私が?」と胸に手を当てた。


「そうだよ。その業界にゃジジ専ってのも結構いるしよ」

「私が、男娼をやるのか」

「無ぇ話じゃねえ。つーか、リアリティーを出すには、一番いいかもしれねぇ」

「わ、私が、身売りを」


 パルテノは少し目を潤ませた。

 なんで乙女の顔になってんだ。


 いやいや、と俺は手刀を作り、それを横に振った。


「パルテノさんは困る。今回、この人には、また別の役割があるから」

「役割?」

「ええ」


 俺は頷いた。


「ただま、それについてはまた後ほど」

「ほんじゃあ、テメーがやりゃいいじゃねぇか、人形屋」


 クルッカは今度は俺に向かって言った。


「俺?」

「そうだよ。つかよ、この3人なら、お前が一番需要多いぜ。一番見た目がノーマルなんだから」

「んなことないだろ。俺みたいに特徴のないやつが」

「んなことある」


 クルッカは大きく頷いた。


「いいか。確かに人間にゃあ性癖ってもんがある。巨乳が好き貧乳が好き、ロリが好きババアが好きロリババアが好き。ネトラレが好き背徳が好き禁忌が好き。色々ある。みんな変態だ。けどよ、やっぱり一番需要があるのは、フツーなの。フツーのおっぱい。フツーの肉付き。フツーの体位。結局、そういうのに一番ムラムラくんやつが最大公約数なの」


 いやいやいや、と俺はさらに手を横に振った。


「性癖とかそういう問題じゃねーから」

「じゃあどういう問題なんだよ」

「だから、リアリティーが」

「だから、リアリティーを出すならテメーだって話だろ」

「いや、ともかくここはクルッカ。お前がいい。お前がやろう」

「だからなんでだよ。説明しろっつってんの」

「カワカミ殿。この不肖パルテノ、その男娼役、やってみても構わんのですが」

「だからアンタは別の役割があるって言ってンだろ。つか、なんでやりたがってんだよ」

「あたしがやってやろうか?」

「いやマチルダさんは女の子じゃないですか。女の子に男娼なんて出来ないでしょーが。つか、なにナチュラルに参加してるンすか。いつからそこにいたんですか」


 俺ははあと長い息を吐いた。

 ボケが多すぎてツッコミが追い付かない。


「それじゃー多数決取ろうぜ」


 と、クルッカが言った。


「誰がやるべきか。ここは挙手で民意を募ろうじゃねーか」


 嫌な予感がした。

 嫌な予感がしたが――ここは同意せざるを得なかった。


「うーし」


 クルッカはぺろりと唇を舐めて、少し生き生きとして言った。


「うーし、それじゃあ、人形屋(カワカミ)が囮になるのが面白ぇーと思う奴、手を挙げろ」


 ∇


 で。


 結局。

 俺がやることになった。


 パルテノは自分がやると手を挙げた。

 それに便乗して俺も手を挙げた。

 これで2票。

 俺にはクルッカとマチルダが入れた。

 それで同じく2票。

 俺はやりたい奴にやらせるべきだと主張したが、結局、じゃんけんで決めることになった。


 こういうとき、俺には致命的に運が無い。


「つか、なんでマチルダさん、自分に入れなかったんですか」


 クルッカが帰った後。

 俺はマチルダに言った。


「マチルダさんが自分に票を入れたら、票が割れてパルテノさんに決まったのに」

「決まってんだろー。カワカミのお化粧が見てーから」

「いや、別に化粧とかしませんけど」

「しないの?」

「しませんよ」

「すればいいじゃん」

「そこまでリアリティは要らないっす。どうせ暗がりだし」


 マチルダはむー、と口を尖らせた。


「でも、どちらにしても、マチルダさんは俺の男娼姿、見られませんよ」

「は? なんで?」

「今回、マチルダさんはお休みです」

「は? どゆこと?」

「犯人討伐は、パルテノさんに頼むつもりです」

「は?」

「あの人も十分強いですから。多分、なんとかなります」

「は?」


 マチルダは綺麗な眉を寄せて、俺の胸ぐらを掴んだ。


「おい、カワカミ。どーゆーことよ。なんであたしは除け者なんだ」

「すいませんね。ちょっと事情がありまして」

「説明せー。説明せんと分からん」

「すいません。全部終わったら、説明します」

「あたしも行きたい」

「駄目です」

「どーしてもか?」

「どうしてもです」


 マチルダはむーと不機嫌そうな顔になり、足をバタバタさせた。


「我慢してください。その代わり、今回の事件が終わったら、我慢したご褒美に人形を一体、買いましょうか」 


 俺が提案すると、マチルダは「ほんと!?」と目を輝かせた。


「ほんとです」

「よっしゃ! じゃーあたし、我慢する!」


 マチルダはそう言うと、「ゴネ得! ゴネ得!」と言いながら、嬉しそうに奥へとスキップしながら戻って行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ