25 死者
俺はアランと別れてから、調べ物をした後にクルッカと会い、情報交換などをしてついでになんやかやと溜まっていた些事をこなしていると遅くなったのでそのまま安いモーテルで1泊した。
朝靄が煙る早朝一番に宿を出て、朝飯代わりに途中の屋台で買った揚げた小麦粉の蜂蜜漬けを食べながらスクワード家に着くと、何やら屋敷は大変な騒ぎになっていた。
礼服姿の貴族連中に混じり、軍服姿の軍人や白衣を着た医者のようなものまで、たくさんの人間が慌ただしく屋敷を出入りしている。
その周りには野次馬たちまで現れており、何やら不穏な空気が漂っていた。
俺が帰っても使用人たちは誰一人迎えには出てこず、少し見回ってみたがスクワード家の人間も見当たらなかった。
仕方なくその辺でうろついている見知らぬおじさん幾人かに適当に何があったのかと声をかけてみても、みな忙しいのか誰もろくに答えてくれなかった。
しょうがなく部屋に戻ると、マチルダが床でうつ伏せで寝ていた。
手には木製の人形を持っていた。
どうやら一人で人形遊びをしていてそのまんま眠ってしまったらしい。
俺は彼女をベッドに移動させようと仰向けにして抱き上げた。
すると、マチルダはいきなり、ぱっちりと目を開いた。
「おはようございます、マチルダさん」
俺はにこりと微笑んだ。
「あ、カワカミだ。おはよ」
マチルダはにゅーと可愛らしく唸り、眠そうにごしごしと両目を擦った。
それからスンスンと鼻を動かして、俺のほっぺたの辺りをペロリと舐めた。
予想外の動きに、俺は思わずひゃっと小さく悲鳴をあげて目を見開いた。
「な、何するんですか」
「カワカミからなんか良い匂いがしたから」
「あ、ああ、先ほど蜂蜜漬けを食べたんで、それですかね」
「あたしも欲しい」
「すいません。もうないです」
「欲しい」
「後で買ってきますから」
そこでベッドについたので、そのまま彼女を降ろした。
しかしマチルダは降りるどころか、俺の首に抱き着いてきた。
「離して下さい」
「やだ」
「これからまだ用事があるんです。それが終わったら相手しますから」
「やだ。もうちょっとこうしてる」
俺ははあと息を吐いた。
どうやら昨日戻らなかったので、少し拗ねているようだ。
「しょうがないっすね」
俺は彼女を抱っこしたままベッドにぼすんと腰掛けた。
「しかし、なんか屋敷が騒がしいんですけど、マチルダさん、何か知りませんか」
「よく知らねーけど」
「はい」
「なんか、死人が出たらしい」
耳元で囁かれたその言葉に、身体が強ばった。
「な――なんですって」
「朝一でおばちゃんがやってきて教えてくれた。剣でぶすりだってよ」
「剣でって――それって、被害者はやっぱり女中さんですか」
「知らねー」
「ライラって名前じゃなかったです?」
「だから知らねーって」
しまった――と、俺は下唇を嚙んだ。
やはり、彼女は避難させておくべきだったか。
「カワカミさん、いらっしゃいますか」
と、その時、扉を叩く音と共に、そのような声が聞こえた。
マチルダを引っ剥がそうとしたけど矧がれなかったのでそのままの格好で扉をまでいき、それを開くと、外には青い顔をしたエマが立っていた。
「エマさん。一体、何があったんです」
俺は聞いた。
すると彼女は怯えたような瞳をして、
「フランシーヌ様が、フランシーヌ様が――」
お亡くなりになりました、と言った。




