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暗殺幼女  作者: 山田マイク
「最強幼女、参上」編
1/85

1 俺と幼女


「こーらー! カワカミー! てめー、チョコレートは切らすなって言ってんだろー」


 小さな女の子がテーブルの前で文句を言いながら暴れている。

 暴れているといっても、手足をバタバタさせているだけである。

 ほっぺを膨らませ、口を尖らせて。

 細くて白い腕と脚を、思いっきり大きく振っている。


 可愛い。

 圧倒的に可愛い。

 小動物が駄々をこねているようで、いつまでも愛でていたい。

 人間の本能に直接訴えかけてくる可愛さだ。

 言い換えるならキュート。

 加えて、この幼女はくっそ美形である。

 そんじょそこらの美少女ではない。

 白い肌。

 完璧に整った顔立ち。

 シルクのような黒髪。

 浮世離れした美しさを持つ女の子なのである。


「はいはい。ちょっと待ってくださいねー」


 俺は店内を掃除をする手を止めて、入り口脇の土間に置いてある麻袋を持ち出した。

 その中から一枚の板チョコを取り出して、幼女に手渡した。


「おー! てめー! ちゃんと買っといたのか! カワカミ! 偉いぞ! 偉いっ! 褒めてやるっ!」


 幼女はまるで宝石でも受けとるかのように大事にチョコレートを受けとると、それを胸で抱き締めるようにしながら、天使のようにえへへと笑った。

 俺はそれを愛でるように見つめると、掃除に戻った。


 俺は今、おもちゃ屋を営んでいる。

 街の外れにある商店街の一角。

 うらびれた商店の林立する長屋のど真ん中に。

 細くて狭い、とてもささやかな店舗を構えている。

 取り扱っているのは木製の玩具や布で出来たお人形など、子供のおもちゃである。

 ほとんどが幼女の好きなものを仕入れて並べているだけである。

 なので、これら商品はほとんど売れない。

 それでも、大事な財産には変わりないし、置物というのは放っておくと何故か急激に朽ちていくものなので、こうして毎日、掃除や手入れが欠かせない。

 おもちゃというのは不思議なもので。

 子供たちに遊ばれているときより、飽きられて放置されたときに、本当に壊れていくものなのである。


「おい! このチョコ! いつものじゃねーじゃねーか!」


 はたきでほこりを落としていると。

 背中から、幼女の不満声が聞こえてきた。


「あーごめんなさい。いつものやつ、売りきれてて。代わりにちょっと良いやつを買ってきましたよ。奮発して、メーカー品です。メーダモン・ルルとかいう」

「うるせー! あたしはいつものやつが好きなの!」

「あら。口に合いませんでしたか」

「ううん! めちゃくそウメー!」

「なら良いじゃないですか」

「うん! 別に良い!」


 幼女はそう言うと、口の周りをチョコでベトベトにしながら、俺に向けて親指を立てて見せた。

 俺はやれやれと肩を竦めた。

 この子は毎日、毎時間、なにか文句を言っている。

 だから店内が静かなことはあまりない。

 業務は店内整備以外特にやることはなくて、基本的に毎日ダラダラしてるだけなのだが、このワガママお姫様のおかげで、なんやかやと忙しい。


「……ません。す……いません」


 ふと、店先から声がしているのが聞こえてきた。

 俺は手を止めて「はーい」と返事をした。

 

 短い廊下を抜け、店舗の扉を開くと、細い妙齢の女性がいた。

 身なりは悪くない。

 しかし、どこか疲れた表情で、目はうろんだった。


 美しい。

 美しいが、どこか枯れている。


 一目見て、客だと判断した。

 無論、おもちゃ屋のお客さんではない。

 "本業"のほうの客だ。


「こちらで珍しいオモチャが手に入ると聞いたんですけど」


 女性は言った。

 俺は目を伏せ、はいと頷いた。


「どのような玩具をお探しで」

「えーと、それは」


 女性は少し思案するような素振りを見せた。

 それから俺をじっと見つめながら、


「……まるで空を自由に飛べるような」


 女性はそのように言うと、ごくりと息を飲んだ。 

 そして、手を胸の前で揉みし抱き、緊張した視線を向ける。


 やはりだ。

 俺は出来るだけ穏やかに「分かりました」と返事を返した。


「では、こちらの方へ」


 俺は彼女を奥へと促した。

 女性は会釈をしながら、そそくさと俺の前を通りすぎて行った。


 さて。

 どのくらいの金になるかな。

 俺はそのように考えながら、店に「close」の看板を出した。 



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