第24話 激しいタッグマッチ!剣士たちの戦い!
本格的にバトル小説になりました…
男度100%です。
俺とアーヴィンは一旦立ち止まり、周囲に警戒網を張る。
残念だが、俺は気配を察知できない。
でも頑張って察知してみる。
…なにも感じることができない。
「…何か感じるか?」
「…気配というよりは嫌な感じデス」
「嫌な感じ?」
「なんだかむな騒ぎが…!!」
「!!」
アーヴィンが言葉を言い終えると同時に、俺達二人は眼を見開く。
同時に感じたのだ、気配を。
「…アーヴィン、敵か?」
「友好的な感じはしませんネ…」
「前から一人、後ろから一人の計二人だな」
俺とアーヴィンは背中合わせになり、背後からの奇襲を受けないようにする。
すでに外は暗いので、姿は確認できないが、足音と気配は確実にこちらに向かっていた。
挟み撃ちなので逃げることは考えない方がいい。つまり、交戦は避けられない…!!
「へっ、アイツの言うとおりだったな」
そのとき、俺の後ろ…つまり、アーヴィンにとっては前から声が聞こえた。
ずいぶん野太い声なので、男だろう。
ちなみに聞き覚えはない。
「…」
しかし、俺の前にいる奴は声を出さずにゆっくりと近づいてくる。
…嫌な感じだ。いや、なんだか胸騒ぎがする。アーヴィンと同じ気持ちを俺は味わっているみたいだ。
俺は眼を凝らしてみるも、未だに姿は捉えきれず。
「本当ならこんな形で会いたくなかった…」
「?!」
聞き覚えのある声に俺は驚愕する。
どうして…?
どうして、いるんだ…?
「だがこれも俺たちの運命…」
なぜあなたが俺の前に立ちふさがるんですか?
なぜあなたが俺の前で剣を構えているんですか?
「与那国、試合だ。時間無制限のSFルールでな」
どうして…?
種貸主将…
俺は種貸主将に話しかけた。
「どうして先輩が?!」
「SF参加者だから。理由にそれ以外求められまい」
種貸主将はいつものおちゃらけた態度など全くなく、一人の剣士の顔になっていた。
俺達剣士に言葉は必要ない…そういうことだろうか?
だが…
「俺はあなたと戦う理由が分からない!」
「理由? SF参加者同士が戦うことの何がおかしい? 理由なんているのか? それともなんだ。お前は知り合いが相手だと戦えないとでも言うのか? それこそ理由が不明だな」
「でも…!!」
俺は声を大きくしてしまった。かなり興奮しているらしい。
なのに、種貸主将の声はいつもより格段に冷たい。
「俺達に必要なのは剣だけだ。さあ、やり合おうじゃないか」
「く…」
「覚悟を決めて下サイ、司クン!」
「…そうだな」
アーヴィンに背中を押され、俺は覚悟を決める。
剣を構え、俺は種貸先輩と対峙する。
「それでいい。それでこそ倒し甲斐がある」
種貸先輩もそれに答えるように構える。
「おっと、そういえば名乗って無かったな」
アーヴィンの相手である大男がしゃべり始める。
武器っぽいのは大きな鉄球だ。彼はそれを軽々と持ち上げている。
見るからに分かりやすいパワータイプだ。
「俺様の名は大島剛。3年生だ」
言い終わると同時に鉄球をドスンと地面に落とした。
それだけで学校全体が揺れる…そんな気がした。
「それじゃあ…始めるか」
俺達の激戦が今、始った。
俺はまずしっかり種貸先輩から間合いを取る。
武器は同じく木刀なので、武器の優劣、相性関係など関係ない。
ただ、俺もよく知っている通り、彼の突きは殺人技術に昇華できるくらいに鋭い。
下手に近づくと一発でゲームオーバーになりかねない。
しかし、こっちにも神速がある。どちらが速いかわからないが、結構な賭けになる。
俺の額を汗が横切る。なぜか辺り一面灼熱の暑さみたいに感じる。
「どうした? 来ないのか?」
種貸先輩が俺を挑発する。
だが、その手には乗らない。罠なのが見え見えだ。
「仕方ない。俺からいくか」
「?!」
種貸先輩は間合いの外から突きを仕掛けてきた。しかし、間合いの外であるので、俺は難なく横に避けられた。
「甘い!!」
「?!」
しかし、間髪いれず横薙ぎを俺に放ってきた。
突きから胴への連続技だ。ここらへんは剣道らしい。
「くっ…!!」
避けるのは不可能であったため、俺は自分の木刀でそれを抑える。
それにしても何という威力だろう。腕がしびれるくらいにその攻撃は鋭かった。
「これくらいは防いでもらわないと。面白くない」
種貸先輩は嬉しそうにニヤリと笑った。
今分かった。この人も、戦闘狂だ。
「そちらが仕掛けないならこちらからいくまでだ!!」
そしてそのまま混戦に突入した。
俺達は近距離で木刀で打ち合った。
多少の擦り傷は共に負っていたが、致命傷は受けず、互角の戦いが続いていた。
「剣道ならば俺の方に分があるが、さすがは与那国道場の実戦形式剣道だ。ここまでやるとは」
「種貸先輩こそすごいですよ。実戦でもこんなに戦えるなんて」
「見くびるなよ」
俺達は時に話しながらも、眼は真剣そのものであった。
後ろで戦っているであろうアーヴィンたちのことなど気にならないくらいに俺達は集中していた。
ただ、まだお互いに手は見せていない。
「種貸先輩。そろそろ切り札を出したらどうですか? このままじゃジリ貧ですよ?」
「お前こそ与那国流奥義でも出したらどうだ? このままやり合っても勝てまい」
俺たちは互いにけん制しながら、相手の出方をうかがった。
よく知っている相手だからこそ、慎重になってしまうのかもしれない。
「…ひとつ訊いてもいいですか?」
「何だ?」
俺はある程度間合いを取った後、気になったことを訊いた。
「先輩は誰かに操られてますよね? でも…」
「そうだな」
種貸先輩はなぜか簡単に自分の状況を俺に話した。
「だが、お前と戦っているのは俺の意志だ。たとえ操られてなくても俺はお前と戦った」
「…先輩らしいですね」
俺には先輩が操られているようには見えなかった。
もうひとりの大男は目がイっていたので、すぐに分かったが、先輩の場合はそんな感じがなかった。
操られてもしっかりと自分を保っている。なんて強い人だろう、そう思った。
だからみんな彼に憧れる。俺もその一人。
「じゃあ俺も質問するぞ。こういう風に話している間に俺が攻撃したらどうする?!」
そう言って先輩は隙だらけの俺に突きを放つ。
だが。
「それは予測しているので避けます!」
「ちっ!!」
俺は攻撃を完ぺきに見切り、避けることに成功する。
彼は恐ろしいくらいに手を抜かない男だ。
たとえ相手が格下でも全力で戦う。それは常に油断はしないということの裏返しでもある。
だから彼には隙がない。そこのところも含めて厄介な人だ。
「先輩のことはよく知ってますから。何するかは分かります」
「ふっ、しょうがないな。俺のとっておきを見せてやるか。だが、この突きをまともに食らうと死ぬかもしれない。急所は外して撃ってやるが、お前も全力で来い!!」
「…分かりました」
俺は受けて立つことにした。神速で。
一方、アーヴィンも大島という大男と激戦を繰り広げていた。
大島は本当に高校生なのか? と思うくらいの大男だった。
身長は2メートル近く、アメフト選手みたいな体格をしており、かなり頑丈そうであった。
ただ、種貸とは違い、目は正気ではないため、心はそこまで強くないとアーヴィンは分析していた。
だが、心の強さだけで勝負が決まるほどSFは甘くないことも理解していた。
「ヘッヘッヘ…粉々にしてやるぜっ!!」
「ク…」
実際、この大島という男の実力は予想以上にあり、あの巨大な鉄球に当たれば確かに粉々になるだろう。
アーヴィンは軽いフットワークでそれをかわし続けた。
そう、相手の攻撃が大ぶりなのがせめてもの救いだ。ただ迂闊に懐に飛び込むことは出来ない。
アーヴィンは慎重に相手の戦い方、癖、武器の射程範囲など全てを分析し、そのうえで一発で勝負を決めにかかろうとしていた。
この戦いは自分一人の戦いではない。仲間である司に背後を任されている戦いだ。
つまり、自分が敗れたら共倒れだ。それだけは何としても避けたかった。
だから、今のアーヴィンはいつもよりも集中力が高く、動きが神懸かってていた。
「ボクは負けるわけにはいかなイ…!! 司クンに背後を任されているんダ!!」
「こっちだって同じさっ!! 最後のバッジなのだからな!!」
大島もアーヴィンも胸のバッジは一つだけ。つまり、この戦いの敗者はSFから消えることを意味する。
まあアーヴィンの場合は覚悟のために司に自分のバッジを預けているだけなのだが。
「アナタの攻撃は確かに強い。当たれば、確実に骨をクダクでしょウ…ですが、当たれば、の話です!!」
「何?!」
攻撃を完全に見切ったアーヴィンは、大島の見せたわずかな隙を見逃さなかった。
アーヴィンの突きは神速に匹敵するスピード。大男の大島にかわせる筈もなく。
「これで決めまス!!」
「グッ…!!」
アーヴィンはすさまじいスピードで鳩尾に強烈な突きを入れた。
これを受ければ気絶は間違いなし…つまり、自分の勝利が決まる、そう思っていた。
だが…
「…何だ? そのヘナチョコ攻撃は?」
「Oh?!」
アーヴィンは平然としている大島を驚愕して見つめた。
それもそのはず、鳩尾を突いたはずなのだが、アーヴィンの右手は分厚い鉄板を突いたみたいな感触を感じていた。
「俺様の肉体にそんな細剣で傷を付けられると思っていたか?」
「Shit…」
「隙だらけだっ!!」
アーヴィンの硬直を見逃さなかった大島はアーヴィンがレイピアを持っている腕…右腕を鉄球で狙った。
「あぐっ…!!」
アーヴィンは完全に硬直していたために、右腕にまともに鉄球を受けてしまった。
その際、骨が潰れるような、砕けるような、そんな嫌な音が耳に響いた。
確かに、一発で粉々であった。
「ガッハッハ!! 利き腕を失った貴様など怖くもないわ!!」
大島はアーヴィンを見ながら大笑いをする。
確かにこの状況では誰もがこう思う。大島の方が圧倒的に有利だと。
「確かにこのままではボクの負けですね…一つ訊きましょう…。あなたのボスは誰なのですカ?」
「へっ。本来なら言っちゃいけないんだがな。虫の息の貴様に冥土の土産として教えてやろう。ウチのボスは南…あぐっ!! 悪かった! 悪かったって!!」
大島は途中で頭を押さえて苦しみ始めた。
どうやら言動を制限されているらしい。
それでもアーヴィンは聞き逃さなかった。黒幕の名前は「南」から始まる誰からしい。
「ま、悪いが教えられないんだな。土産もなしだが、これで止めだ」
「それはどうでショウ?」
アーヴィンは左手でレイピアを構える。
「おいおい…無駄な足掻きはよせよ」
しかし、アーヴィンはニヤリと笑う。
「随分と頭の回らない人なのデスネ」
「あ゛?」
どうやらアーヴィンの発言に気が触れたようで、大島の顔に怒りの色が出始めた。
彼にこの発言は禁忌であったようだ。
「ボクは左利きデスよ」
「何だと?! …へっ、ただのハッタリか」
「ボクの構えを見ても分からないとは…チセイが無いんデスカ?」
「んだとテメェ!!」
大島はアーヴィンの挑発にまんまと乗り、鉄球をぶつけにかかった。
だが、そんな単調な攻撃に当たるアーヴィンではない。
「もうあなたの攻撃を見切ったと言ったハズデス!!」
アーヴィンは大島の攻撃すべてを避け、優位に立った。
対する大島は、怒りに任せての単純な攻撃しかしないので、当たる筈もない攻撃を繰り返すのみだった。
「いくら俺様の攻撃を避けようが貴様の攻撃は俺様に効かねぇんだよ!!」
「何を言うかと思えバ…あなたは本気でそう思っているんですカ?」
「テメエこそいきがってんじゃねぇよ!!」
大島は顔を真っ赤にし、唇を震わせながら渾身の力を込めた鉄球をアーヴィンに投げつけた。
アーヴィンは難なくそれを避け、すごいスピードで大島に近づいた。
「頭だけはキタエられないデスよ?!」
「んな?!」
アーヴィンは渾身の突きを大島の額にお見舞いした。
どうやら物理的にも大島の頭は固かったようで、アーヴィンの手は少しだけ痺れた。
だが、相手を気絶させるには十分な威力だったようで、大島は脳震盪を起こしたのか、そのまま後ろに倒れていった。
「ハァ…ボクの勝ち…デス!!」
アーヴィンは大島のバッジを胸からはずし、自分のポケットにしまい込む。
しかし、彼はそこでふと気がつく。
「嫌な予感が消えナイ…Why?」
アーヴィンの後ろではまだ戦いが繰り広げられている。
アーヴィンは司の身に何かあるのではないかと心配する。
だが…
「?!」
何かを感じてアーヴィンは瞬時に横に跳んだ。
「…新手デスネ」
アーヴィンがさっきまでいた地面は見事なまでに抉れていた。
強敵出現…そう感じた彼の眼に映ったのは、薙刀をもった女子生徒であった…
とうとう彼女が戦闘に参加?