第23話 本格的な活動開始!立ちはだかったのは…
展開が速くなります。
眠い。
欠伸が出そうだ。
全ては昨日のせいだ。
夜中にマジバトルをした後にSFの作戦会議…眠くもなるもんだ。
いくら明日から学校が休みでも、羽目を外しすぎたかもしれない。
ああ…黒板の文字が霞んで…
そんなとき、俺の額めがけて白いものが飛んできた。
チョークか?
俺はそれを平然とキャッチして握りつぶした。
「な…?!」
教師が驚いた顔をしているが、俺は無視。
アーヴィンの突きの方がよっぽど速く鋭かった。
俺は眠りの態勢に入ってしまった。
「な、なぁ…あいつ、今何やった?」
「飛んできたチョークを片手でキャッチして、二本の指で粉々にしなかったか?」
何やら教室内が騒がしいが、それは無視しようと俺は思った。
気にしすぎても仕方がない。
「若様」
「…」
後ろからツンツン背中を突つかれた。
そういえば後ろの席って誰だっけ?
…レンか?
「若様」
「…」
しつこいな。一体何の用なんだ?
俺はゆっくりと体を起こして後ろを振り返った。
「何?」
「若様。上」
「上?」
俺の頭上にバケツがあった。
教師が俺の頭上にバケツをかざしている。
「…何しているんですか?」
「お前を起こそうとしている」
「ま、まずは落ち着きませんか? そういうことをしても何の解決にもなりませんよ?」
やることが大体読めたので、俺は教師を宥めることにした。
「今はそんなものより、お前に水をかける方が重要だ」
「な、なんて教師だ…!!」
「貴様こそなんて生徒だぁぁぁぁぁ!!!」
「う、うわ~~~~!!」
俺は頭上から大量の水を浴びせられてしまった。
一つだけ言おう。今は10月だ。
つまり、寒い。
「冷たっ!! メッチャ冷たっ!!」
俺は濡らされた教科書やノートなどを全く気にせずに、自分の体を抱いた。
まずは体温を上げなければならない…
「今日はこれで終了!」
「ひ、ひでぇ…」
授業中に寝てしまったとはいえ、この仕打ちは無いんじゃないでしょうか…。
俺はゆっくりとため息を吐いた。
“裏でSFを操っている奴がいる”
アーヴィンのこの言葉は俺の心に深く入り込んだ。
佐渡を命がけで倒したにもかかわらず、それはまだ戦いの幕開けに過ぎなかったらしい。
アーヴィンによれば、その“裏でSFを操っている奴”はSF参加者を率いているらしい。
佐渡が率いていたのは一般生徒なので、佐渡より強力な奴となる。
しかもすでに3人ほどそいつの下で働いているらしい。本人の意志があるかどうかは分からないが。
「それを裏付ける証拠は?」
レンがアーヴィンに尋ねた。
「ボクが18番の男に勝った後、彼の口から虫が這い出てきたのデス」
「虫?!」
気持ち悪いな…そんなものを体内に入れて何してるんだ?
「おそらく、その虫で参加者を操作、監視などをしているのでショウ」
「そんな奴が…」
SFは一筋縄でいかないような連中が揃っていると聞いていたが…これは完全にプロだ。
戦争を知っているプロだ。
「貴方達二人は何かおかしいところが見つかりませんカラ、安心して尋ねられたのデス」
「やっぱりそいつらはおかしいのか?」
「ハイ。自分の意志が希薄に見えマス」
「そんなこと分かるのか?」
「ハイ」
「…」
このアーヴィンも只者じゃないな…。
「分かった。とりあえず今はその情報を信じて、行動しよう。いいか?」
俺はレンに訊くと、レンは大きく頷いた。
どうやら作戦の方針は決まったようだ。
俺たちはまずその黒幕の突き止めを優先することにしたのだった。
そうして今に至るわけである。
「早速、情報集めを開始しよう」
俺はレンと共に教室に残り、情報収集を開始する。
しかし、その前に俺は確認したいことがある。
「歯舞、ちょっといいか?」
俺はクラスメートの歯舞武を呼んだ。
「え?どうしたんだい?」
歯舞は俺に呼ばれてやってきた。
結構平然としているのだが…
「お前に確認したいことがあるんだよ」
「え?まさか…」
心当たりがあるのか、場所を変えようと提案してくる歯舞。
「SFのことだったら人気のないところのほうがいいんじゃない?」
「いや…お前に確認するだけだ」
俺の真剣な目を見て、歯舞も真剣になった。
「お前、奄美寧々からバッジを獲ったか?」
「奄美ってウチのクラスの?」
「ああ」
歯舞は少し考える素振りをする。
「うーん…記憶にないなぁ…それに、僕はもう脱落したからSFとは無関係だし」
「へ?」
俺は自分の耳を疑った。
脱落した?歯舞が?
「僕はもうバッジを全て獲られてしまったんだ……それに、僕じゃ戦いもろくにこなせないしね」
だが、エアガンで歯舞はレンと戦ったはずだ。
どういう矛盾だ?
レンが虚偽の発言を?それとも歯舞が?
というか言うまでもなく後者だよな…
「お前はレンと戦ったはずだ。その後にやられたということか?」
「僕が西表さんと…?」
何故か歯舞は考える素振りを見せた。
「ああ…そういうことね…彼女がそう言うならそうなんじゃないかな?」
「何だそれ」
歯舞は妙に含みのある言い方をする。
何が言いたいのかさっぱり分からない。
「とにかく僕は帰るよ。戦いに巻き込まれたくないからね」
「本当にお前は脱落したのか…?」
「うん。僕はもう戦わない」
歯舞はそう言って教室から出て行った。
アイツの言っていることが俺には理解できない。
「レン…」
「怪しいですね。ですが…私には彼の意図が分かりかねます」
「そうだよな」
俺はとりあえずレンと学校を見て回ることにした。
俺とレンは、アーヴィンと合流し、また作戦会議をすることにした。
とりあえず、今は慎重に物事を運ぶべきだと、俺は判断した。
「目下の敵はSFを裏で仕切っている奴でいいんだよな?」
「そうですネ。ボクの見立てでは相手は集団デス。ただ、仕切っているのは一人だと思いマス」
「理由は?」
俺は訳を求めた。
「相手を操れる能力ならば、敵はもう結構な参加者を仲間にしているでショウ。それに、リーダーが複数だとトーセイをとりにくいデスからネ」
「なるほど」
つまり、敵に遭遇する確率は結構高いな。
慎重に動いて正解だな。
「で、今日から残って調査か?」
「そうですね…出来るだけ早めに動いた方がいいと思います」
俺はレンの賛同で腹を決めた。
「じゃあ俺とアーヴィンで行動する」
戦力はレン>俺=アーヴィンだと思うので、妥当なグループ分けだと思う。
だが、レンとしては自分が俺と行動しないことに不満らしい。
本当に過保護な奴だ…
「そうと決まればさっそく行くぞ」
俺は立ち上がり、教室の外に出ることにする。もちろんアーヴィンとともに。
「…分かりました。お気をつけて」
レンは廊下のところで俺と別れた。
「…ぐ…!!」
そしてレンは誰もいない廊下で左胸を押さえる。
苦しみながらも彼女は先に進んでいったのだった…
アーヴィンと二人、俺は廊下を歩いていた。
今考えてみれば、俺達二人になったのは今回が初めてな気がする。
まあだから何なんだと言われればそれまでなのだが…
周りに敵の気配がないことを確認してから俺はアーヴィンに質問をした。
「なあ、お前ってどうして日本にやってきたんだ?」
アーヴィンはちらりとこっちを見た後、上を見る。
そして、呟くように言い始めた。
「ボクは強さを得るために日本にキタ…。Eulope全土を渡り歩いてタンレンし、経験を積むためにこのジャパンにやってきたんです…なので、このSFはボクにとってワタリニフネだったのデス」
渡りに船…日本語の勉強も頑張ったんだな。
俺はアーヴィンを少し羨んだ。何というか、俺より前に進み、俺が目指すものに俺より近い感じがしたからだ。
「騎士は気高く、強くなければならなイ…ボクの家は昔よりも没落してしまった…ダカラ! ボクが必ず復興させるのデス!! そしてまた世界に名をとどろかすような家にする…そう、Grandpaに約束したから…」
アーヴィンの眼は真剣そのものだ。SF参加の覚悟がすごい。
真理恵の言った通りだ…真剣参加がこんなに多いなんて…
俺もこれが終わったら海外修行でもしようかな…
最近は修行も嫌いじゃないし、やるなら早い方がいいだろう。
そう思ってしまった…っと、まずはSFだ。
目の前のことに集中しないと、足元を掬われる。
「そうか…」
俺は相槌を打ち、SFに集中する。
「…見られてイル…そんな気が…」
「?」
アーヴィンは突然そんな言葉を呟いた。
「見られてる?」
「…いや…気のせいかもシレマセン」
「…」
気のせいじゃなかったら…やばいな。
「一応様子見しよう」
「分かりましタ」
俺とアーヴィンは一旦立ち止まり、周囲に警戒網を張る。
残念だが、俺は気配を察知できない。
でも頑張って察知してみる。
…なにも感じることができない。
「…何か感じるか?」
「…気配というよりは嫌な感じデス」
「嫌な感じ?」
「なんだかむな騒ぎが…!!」
「!!」
アーヴィンが言葉を言い終えると同時に、俺達二人は眼を見開く。
同時に感じたのだ、気配を。
「…アーヴィン、敵か?」
「友好的な感じはしませんネ…」
「前から一人、後ろから一人の計二人だな」
俺とアーヴィンは背中合わせになり、背後からの奇襲を受けないようにする。
すでに外は暗いので、姿は確認できないが、足音と気配は確実にこちらに向かっていた。
挟み撃ちなので逃げることは考えない方がいい。つまり、交戦は避けられない…!!
「へっ、アイツの言うとおりだったな」
そのとき、俺の後ろ…つまり、アーヴィンにとっては前から声が聞こえた。
ずいぶん野太い声なので、男だろう。
ちなみに聞き覚えはない。
「…」
しかし、俺の前にいる奴は声を出さずにゆっくりと近づいてくる。
…嫌な感じだ。いや、なんだか胸騒ぎがする。アーヴィンと同じ気持ちを俺は味わっているみたいだ。
俺は眼を凝らしてみるも、未だに姿は捉えきれず。
「本当ならこんな形で会いたくなかった…」
「?!」
聞き覚えのある声に俺は驚愕する。
どうして…?
どうして、いるんだ…?
「だがこれも俺たちの運命…」
なぜあなたが俺の前に立ちふさがるんですか?
なぜあなたが俺の前で剣を構えているんですか?
「与那国、試合だ。時間無制限のSFルールでな」
どうして…?
種貸主将…
ー某所ー
厳島真理恵は実験をしていた。
お世辞にも褒められるようなことではない。
なぜなら人体実験だからだ。
「…この虫は私の能力をフルに使ってやっと抑えられるくらいなの…?」
目の前には男子生徒が横たわっている。
とある日、彼女に声を掛けてきたので、実験素体として使うことにしたのだ。
おかげで汚らわしい虫への対抗策を考えられている。
ただ問題なのは、目の前の男子生徒は彼の友達であることだ。
最初は知らずに彼を自分の実験体にしたのだが、今は多少後悔している。
だが、その甲斐はあった。うどんから彼の体に入った虫のことを調べることができる。
「…お母さまのため、必ず勝たなくちゃ…!!」
彼女は夜の曇天を見上げる。
その眼には強い光が宿っていた…
駆け足みたいな展開になるかもしれません。