第22話 西洋の神速?!恐るべし最速の剣!!
何と2話目更新です!!
勢いだけでどこまでいけるのか…
「ボクの名前はアーヴィン・シュナイダー。ドイツの騎士の家に生まれましタ。君と同じ高校2年生で、SF参加者デス」
「な…」
「?!」
俺とレンの顔がその言葉に強張った。
SFは学校でしか戦えないと言うルールだ。
だからここで勝負を挑むことはないだろう…
だが、真意が読めない。
「貴方達がSF参加者だと言うことは知っていマス」
俺とレンがさらに警戒をする。
何しに来たんだ?
「というか参加者はみんな知っていると思いマス」
「は?」
「剣道部でもないのに木刀を学校に持って来ている時点で怪しいデス」
「う…」
そういえば俺たちは何でそんなことに気がつかなかったんだ?
結構アホじゃないですか?
「そ、それであなたは何をしに?」
少し動揺しながらレンは質問をした。
「貴方達と手を組みたいのデス」
「俺たちと…?」
何故俺たちと組みたいのか、という疑問はすぐに浮かんだ。
しかし、レンが先にその質問をした。
「何故ですか?」
「貴方達はまだ正常だからです」
「正常?」
何だそれは。異常者がSFに参加していると言うのか?というか何が異常で何が正常なんだ?
俺の疑問に丁寧な言葉で話すアーヴィン・シュナイダー。
「ハイ。誰だか知りませんが、SFを裏で支配しかけてる人間がいマス」
「え?佐渡じゃなくて?」
佐渡の他にそんな人間がいるのか?
確かに、俺はまだSF参加者を半分も知らない。だからまだSFの全貌を俺は把握できないので、その疑問は少しおかしいかもしれない。
「そうデスネ…多分そのときから水面下でコトを運んでいタのかもしれマセん…」
「そうか…」
「若様、彼の話を信用するのですか?!」
「え…いや…」
レンに怒られてしまった。まあ確かに証拠もない話ではある。
でもなぁ…
「いえ、当然の疑問でショう。とりあえず、ボクのエントリーナンバーは15番です。それと、今まで獲ったバッジも見せマス」
アーヴィン・シュナイダーは懐からバッジを何枚か取り出した。
合計で7枚。彼のバッジは3枚残っているので、どうやら獲ったバッジは計4枚。俺より多い…
そして並べた4枚のバッジ。右から8、18、23、24であった。
その中で気になったのは8番のバッジ。なぜならそれは…寧々のバッジだからだ。
寧々にSFのことをあまり訊きたくないので、未だに俺は寧々のことで苦戦をしている。
「!」
レンが4枚のバッジを見て息を呑んだ。理由は明白だろう。
「な、なあ…この4枚のバッジをそれぞれ着けていた相手のことを教えてくれるか?」
「? イイですよ」
彼は少し首を捻りつつも、俺の言ったことを了承してくれた。
「18は最近、拳法部の男から獲りマシた」
どうやら俺と同じ相手と戦ったらしい。
「8と24と23はうろうろしていた男子生徒から奪いましタ…多分彼らは正規の参加者ではナイでしょウ…」
「そ、そうか…」
彼の発言にも証拠は無い。だが…どうすればいい…?
「疑う気持ちも分かりマス…とりあえず、ボクのバッジ2枚と、そのバッジを全て差し上げマス」
「ええ?!」
「ボクは勝つためにSFに参加したんではありませン…ただ…強くなりたい…」
彼は強くなる、というその気持ちの部分だけは妙に饒舌であり、本心が垣間見えた。
結局彼も俺と同じで、勝つために参加しているわけではない。だが、勝たなくては強くなれない…そういうことなのだろう。
「分かった。お前の誠意を証明する一つの方法がある」
「え?」
「?!」
レンが俺を驚愕した表情で見る。
「大丈夫。俺と剣の勝負をしよう。剣は…嘘をつけないからな」
「ナルホド…それかサムライソウルという奴ですネ!」
「いや、ちょっと違うけど…」
俺は適当に一つ木刀を選んだ。そして彼は自らの荷物からレイピアを取り出した。
「レイピアか…」
レイピアは西洋の細剣であり、突き専用の剣である。
主に相手の鎧を貫通させ、相手を殺すのがレイピアの攻撃方法である。
つまり、突きだけなら他の何よりも優れている剣であることは確かである。
「レン、審判を頼む」
「はい」
レンは俺と彼の真ん中に立った。
「ルールは相手の急所を先に当てた方が勝ちだ。あ、もちろん寸止めで」
「分かりましタ」
俺たちは共に一礼して向かい合って構えた。蹲踞は剣道でないのでしないことにする。
「準備いいですか?」
「ああ」
「Yes!」
俺はまっすぐ相手を見つめる。そして彼も俺をまっすぐ見つめる。
俺の目に一転の曇りもない瞳が映った。
もう信じられるが、折角なので剣を交じわしたい。
「初め!」
「イャァ!!」
「Ohh!!」
俺と彼はスタート直後から激しい打ち会いを演じた。
俺は縦薙ぎ、横薙ぎ、袈裟、突きなどを不規則に連続攻撃をした。
対するアーヴィン・シュナイダーはひたすら突き攻撃のみ。
だが、これが中々に厄介だ。
突き一本のみだと防ぎやすそうに見えるが、実際はそうではない。
突きのスピードが半端なく速いのもそうだが、それよりも重大なことがあった。
レイピアは細い…つまり、突き中に揺れるのだ、剣筋が。
ぶれた剣筋による速い突きは防ぎ難い。目と足に全てを集中させなくてはダメなのだ。
おかげで俺は攻撃が疎かになってしまい、中々勝つことが出来ない。
「くっ…」
少し息が上がってきた。
ぶれた剣筋を捉えるのに必要な動体視力と回避に必要な敏捷性がそれなりにあって助かった。
だが、このままでは俺の負けが目に見える。だが、性質の悪いことに、この剣筋のブレはわずかなもので、当事者たち以外は気づきにくい。つまり、レンには俺がどうして攻撃に転じられないのかと思っているかもしれない。少し考えれば分かることかもしれないが、生憎レンはお世辞にも頭は良くない。
「どうすれば…」
突き攻撃というのは、全ての攻撃の中で一番リーチの長い攻撃。
つまり、離れれば相手が有利になる可能性が高い。
だが、近づいたからといってこっちが有利になるとは思えない。
ここはアレしかない。
「ヤリマスネ…」
「お前もな…」
相手の息も上がってきた。今がチャンスかもしれない。
俺は隙を突いて距離を大きく引き離した。
「?!」
突然のことに相手は突きの追い討ちをしてこなかった。
助かった…
「悪い。一発で決めさせてもらう」
「?」
俺は態勢を低くして構えをとった。
「なるほど…抜刀術ですカ。日本の全ての剣術の中で最も速いと言われている抜刀術デスか…」
どうやら日本の剣道についてそれなりに勉強をしているらしい。
「イイでショウ。受けて立ちまショウ! 西洋剣でもっとも速い攻撃を繰り出す剣、レイピアで!!」
「日本の神速対西洋の神速か…面白いな…」
俺はこの戦いのおもしろさを実感した。
こんなに楽しい勝負になるとは思わなかった。
だが、そんな時間もこれで終わりだろう。速いのは俺か…彼か…
「勝負!!」
俺の狙いはただ一つ、突きを繰り出させる前に相手の首筋に木刀を寸止めさせる。
だがそう上手くいくか? いや、そのためには…
「「先手必勝!!」」
俺と同時に相手も前に出た。考えていることは同じらしい。
後はスピードの勝負!
俺の首めがけてやって来る一筋の光。何十にもぶれて向かってくる光。
俺はそれをそれを横目で見て越えた。しかし…
「曲がった?!」
その光は俺の心臓めがけて向きを急速に変えてきた。
もう振り返っていられない。狙うは相手の首筋のみ!
「「ハッ!!」」
俺と彼が同時に叫んで動きを止めた。
「…」
「…」
俺の木刀は相手の首筋を斬る一歩手前の状態。
相手のレイピアは俺の心臓を貫く一歩手前の状態。
判定は審判のレンに委ねられることになる。
「審判!!」
「ジャッジプリーズ!!」
「はっ!!」
レンはキョトンとしていたが、すぐに眼を覚ました。
彼女はこの戦いに夢中になってしまったらしい。
「えーと…正直、私の目では同時にしか見えませんでした…」
レンが項垂れる。自分がきちんと判定できなくて悔しいのだろう。
だが、レンほどの者が分からなかったとは、本当に互角だったのかもしれない。
「わずかに司の方が速かったな」
「え?」
そんなとき、道場の入り口から聞き覚えのある声が聞こえた。
「今の勝負、誠に素晴らしいものであった」
「父上!!」
どうやら観戦していたのは与那国道場師範である俺の父親であった。
「本当に僅かな差であった。実際の戦いであれば引き分けだ。だが、勝負は司の勝ちだ」
「残念デス…でも、いいタタカイが出来ました」
「そうだな。西洋の神速も大したものだよ。普通の突きでこのスピードとはね…」
俺は彼と握手をした。
剣で語り合うというのはこういうことを言うのだろう。
彼の剣筋はぶれていたが、真っ直ぐな思いは俺に伝わった。
「お前の言葉を信じる。改めて自己紹介するよ。俺は与那国司。与那国道場師範代で、エントリーナンバーは17番だ」
「ボクはドイツからの留学生、アーヴィン・シュナイダー。アーヴィンとキガルに呼んでくれればいいよ」
「ああ。分かったアーヴィン。それで、SFのことを詳しく話してくれ」
俺とレンとアーヴィンは俺の部屋に行ってこれからのことを話し合うことにした。
「さて、話しましょう」
アーヴィンの言葉に俺とレンは頷いた。
これからどんな言葉が彼の口から出るのだろうか。
―某所―
校内で何やら戦っている音がする。
しかし、男装の麗人はただ実験室に篭って机の上のものを見ながら意味深な笑みを浮かべているだけだった。
「フフフ…始まった…」
「入ってよろしいでしょうか? 南鳥さん」
「ああ」
そんなとき、実験室に一人の女性が入ってきた。
身長は高い方で、薙刀を持っているのが印象的だ。
「どうしたんだい?」
「はい。いつもの「アレ」を下さい」
「アレね…」
南鳥と呼ばれた麗人は懐から薬瓶を取り出した。
「これを飲めば大丈夫さ」
「ありがとうございます」
女性は無機質な声で薬瓶を受け取って飲み始めた。
「フフフ…風紀委員長がもうボクの虜か…」
「南鳥さんは何を見ていたのですか?」
女性が麗人の机の上にあるものを見る。
どうやら何かの写真のようだ。
「これは…」
「ボクの愛しい彼さ。与那国司。ああ…早く純粋なその瞳をボクの色に染めたいよぉ…ボクの虜にしたいよぉ…ああ…」
麗人の瞳は狂気の色を帯びていた。
あふれ出るのは歪んでいる愛情のみ。
「彼は気がついていないだろうね。仲間に裏切り者がいることに…。フフフ…そしてボクの目の前で絶望に歪んだ顔をするんだよぉ!! ああ! 楽しみでしょうがない!!」
狂気は止まない。
戦いの鐘も止むことは無い。
そうして戦いは続いていく…
次回から激闘の開始です。
展開が早くなる気がします。
次回は「本格的活動開始!立ちはだかるのは…」
悲しき再会。敵同士になった二人…