第21話 うどん争奪戦と突然の訪問者
まさかの連日更新!!
剣道の試合を久しぶりに行なった。いや、この場合は同世代と、という意味だ。レンとは試合というより練習なので、尚更実感する。練習内容はもちろんSF対策だ。神速と旋風の練習を始め、基礎トレーニング、気剣体の統一練習、掛かり稽古…まあとにかくやれるだけのことは全てやることにしている。いくら佐渡を倒したとはいえ、俺の実力はまだまだ未熟だと思う。せめて一人で佐渡と戦える程度のレベルに持っていかなくては。というか、あの戦いで俺は実力以上の力をたまたま発揮していたので、そう簡単なことではない。
話は変わるが、寧々が学校に復帰した。表向きは豚インフルエンザということになっている。SFでの負傷も出席停止扱いなので、ほとんど誰も疑わないだろう。それよりも彼女の体の痣が消えてよかったと本当に思う。彼女も嬉しいみたいだし、一応ホッとした。
「若様、前より気合が入っていませんよ!」
「あ、悪い」
考え事に耽っていると、レンからの注意を受けてしまった。今は稽古中なのに、何たる失態だ。
「司ちゃん、レンちゃん。もうすぐ朝ごはんだよ~」
トモ姉が道場に来てそんなことを言った。
いつもの日常に帰ってきたみたいだ。居心地の良さを感じる。
「わかった。それと…おはよう、トモ姉」
「うん!おはよっ!!」
トモ姉は元気だ。やっぱり元気というのはいいことだ。
「じゃあレン、支度するぞ」
「はい」
「って俺についてくるなぁぁぁぁ!!」
どうやらレンのこの癖はどうにも直らないものらしい。
昼休み。俺たちは一緒に食堂に行く。
「さ!司っ!行こっ!!」
「あんま引っ張るな…」
寧々が俺の腕を引っ張る。
元気になって本当に良かった。
「若様、食堂は混みます。急ぎましょう」
「そうだぞ司!混み合うとどうせ俺がハブにされるんだからな!急いでくれよ!」
レンとジョージも俺を急かす。
それにしても久しぶりだな。4人で食事も。
そんなこんなで俺たちは食堂に到着。そして…
「やっぱ混んでるな…」
「司のせいね」
「俺かよ」
どうやら別れなければいけないか…?
「司~!」
ジョージが泣きそうな顔で俺を見る。
しょうがない奴だな…
「俺はジョージと食べるから、一応別れようぜ」
「司ぁぁぁぁぁ~~~!!」
ジョージが泣きながら俺に抱きついてくる。
「ああもう暑苦しい!!俺にはそんな趣味は無い!!」
俺は無理矢理ジョージを引き剥がした。生憎俺はそんな展開など望んでない。
周りの生徒達も俺たちのことを奇妙な目で見つめていた。
その中に最近感じる視線も含まれていることに俺は気がつかなかった。
「じゃ、またな」
俺はジョージを連れ、席を確保する。そして荷物を置く。
ちなみにこの荷物は席とり用の荷物であり、それ以外の用途は無い。
「じゃあ…行くぜ」
「お前またうどんかよ」
「悪いか? うどんは和食の誇りだ」
「そうかいそうかい。お前も相変わらずだね~。ま、俺は適当にカレー頼むわ」
俺とジョージは別々の列に並んで、待った。
それにしても並ぶのってしんどいものだな…
「若様」
「おうレン」
後ろにレンが並んだ。どうやらレンもうどんを食べるらしい。
いや、さすがはレン。分かっていらっしゃる。ちなみに今日のうどんはかき揚げうどんである。
日本人たるもの、お米は重要な食料だ。だが、忘れてはならない。うどんも重要だ。
米を食べるべきか、うどんを食べるべきか、それが問題だ。
そんなどうでもいいことを考えているうちに、俺の番がやって来た。
「はい、何だい?」
「うどん大盛で」
「その後ろのお嬢ちゃんは?」
「私も同じく普通盛で」
ちなみにうどんとそばは同じ列だ。その隣はラーメンで、その隣は焼きそば、パスタ…と続く。
とにかくマンモス校なだけあって食堂は広い。だが、すぐに混んでしまう。そう、つまり、ウチの食堂は味がいいということだ。とにかく人気があるということだけが分かっていただければ幸いだ。
あれ? 俺は誰に話してんだ?
「はい、かきあげうどん大盛。そしてこっちは普通盛ね」
俺は大盛の方を受け取り、レンは普通盛の方を受け取った。
「じゃ、俺はこっちだから」
「では」
俺はレンと別れ、ジョージと一緒に確保した席に着くことにする。
だが…
「あ」
「…」
俺の席の向かいに座っていたのは、真理恵だった。
何で食堂でよく会うのだろう。
「…あなた、私に気でもあるの?」
「誤解だ。俺はお前がここの席に座っているなんて知らなかった」
「まあいいけど…またうどんを頼んでるのね」
「好きだからな」
俺は箸を割ってうどんを食べようとする。
「待って!」
「は?」
真理恵は「また」俺がうどんを食べようとするのを止める。
何だそれ。嫌がらせか?
「そのうどん、危険よ」
「はい?」
意味不明。彼女が何を言っているのか理解しかねる。
「というわけでそのうどんは私がもらうわ」
「はああああ?!」
真理恵ってそんなにうどんが好きなのか?
うどんが好きなのはいいことだが、勝手に人のものを奪うのはどうかと思うぞ。
「OK?」
「そんなわけねえだろ!」
「よっ! 司!」
そんなとき、ジョージが俺たちの元にやって来た。タイミングがいいのか悪いのか…
「ジョージ、お前もこいつに何とか言ってくれ」
「こいつ…?」
ジョージは真理恵のことを見つめる。
「なあ司。そのうどん、俺のカレーライスと交換しないか?」
「は?」
ジョージは何を言っているんだ?
俺のうどんと自分のカレーを交換したいだと?
「頼む司! この通りだ!」
ジョージが手を合わせる。
「お前ってそんなにうどん好きだったっけ?」
俺はジョージに疑問を言う。いきなりそんなことを言うなんて、意味が分からない。
というか最近うどんって流行っているのか?
「お前ら、何考えてんだ?」
「お前、カレーは嫌いだっけ?」
「そうじゃないけどさ。お前らはどうして俺にうどんを食わせないのか、と思っただけだよ」
「おかしいか?」
「…まあ別にいいや」
俺は空腹に負けてジョージと昼飯を交換した。
真理恵は俺たちの会話など聞いていない風に自分の食事に夢中だ。
つうかさっきまでの話はもう終わりなのか。
「ごちそうさま」
真理恵はさっさとそんなことを言って席を立ち上がった。
もう俺たちのことに興味が無いみたいだ。
「あ、ああ…」
俺はそんなことを言いながら真理恵を見る。
そういえば話したのは久しぶりな気がするな。
俺も急いでカレーライスを食べて、レンたちと合流することにする。
放課後になった。
普通なら俺はSFに参加するのだが、俺は今、急いではいない。
なので、帰ることにするが…
「今日行こうよ~!」
「う~ん…本当?」
「そうよ! 当たるって有名なんだから!」
教室でクラスメートの女子達が何やら話していた。
当たるって何のことだ?
俺の頭には宝くじしか浮かんでこなかった。
「でも遠いでしょ? 占い研究部」
占い研究部?
「まあね。東塔の頂上だしね~」
東塔というのは校舎から少し離れた地にある離れの塔のことである。
特別授業でしか行くことがないので、少し東塔って何か考えてしまった。
それにしてもそんなところにそんなものがあるとは。俺の頭の中に一人の女性が浮かんだ。占い師ドレミだ。彼女について俺はまだ何にも知らない。でも俺のことはかなり知られているみたいだ。少しだけ嫌な感じがする。
「なあ寧々。占い研究部って知ってるか?」
「へ?」
俺は一応その占い研究部っていう奴を手近な知り合いに聞いてみるとする。
「占い研究部だよ」
「司…知らなかったの?」
「は?」
「占い研究部のことよ。結構有名よ。ね、レン」
「はい。私も存じています。何やらよく当たるらしいと評判だそうです」
レンも知っていたのか?
「つうかそんなことを初めて知った~、みたいな顔してる司に驚いたんだけど。ね、レン」
「い、いえ…そ、そんなことは…」
誤魔化しきれてないぞ、レン。
「司も一度行ってみれば~」
寧々が勝ち誇ったような笑みを俺に向ける。
悪かったな、どうせ俺はそういうことには疎いよ。
「そうだな」
俺は寧々に悪態は突かずに、素直に返事をした。
だがとりあえず今日は…
「帰るか」
俺の言葉にレンと寧々が頷いた。
「はぁ~」
帰宅後、俺は夕食を終え、お風呂に入っていた。
今日はちょっと疲れたな…レンの可愛がりが。
強くなるとはいえ、これを続けていると、そのうち体を壊しそうだ。
「はぁ~」
ガラガラ
それにしてもレンはあれだ。何というか未だに俺を異性だと思っていないらしい。
「あ、若様。お背中をお流ししましょうか?」
「ああ…」
そうなんだよね、未だに俺が裸でも平然なんだから…
ん?
ゴシゴシ
「若様、たくましくなられましたね」
「ってお前が何でここにぃぃぃぃぃ?!」
俺の背中を洗っている一糸纏わぬ姿のレンがそこにいた。
「お背中お流しいたしましょうか? という質問に若様が肯定したからですが」
「うぇ?!」
そんな質問されたっけか?
俺はレンの身体を見ながら考え…
「って早くお風呂から出てってくれ~~!!それかまたはタオルを巻いてくれ~~~!!」
「?」
「いいから!!」
俺は目を瞑りながらレンを外に出した。
やべぇ…思いっきり見ちゃったよ。レンの身体を…
やばい…なんか胸がドキドキしてきた…動悸か? まさかのぼせそうなのか?
「はぁ…はぁ…」
おかしいな…なんか身体が熱いぞ…
ガラガラ
「お待たせしました若様」
そんなとき、バスタオルを巻いたレンが風呂に入ってきた。
「あ、ああ…」
どうしちまったんだ、俺?
「…立派になりましたね」
「下半身見ながら言わないでくれ~~~~!!」
俺の下半身は元気だった。
「はぁ…」
動悸は治まってきたようだ。
原因はやっぱりレンの裸か?
…やだなぁ…まさか俺ってレンで興奮したんじゃないだろうな?
俺はレンを異性として見ているけど、欲情の対象には絶対にしたことがないのに…
「あの、若様、大丈夫ですか?」
「あ、ああ…心配しないでくれ…」
「司」
そのとき、俺の部屋に父親が入ってきた。
「はい?」
「何かお前に客だ。外国人みたいだぞ」
「外国人?」
そんな知り合いって俺にいたか?
「道場が見たいって言っていたから道場で待たせてるぞ」
「つうかこんな遅い時間の訪問客を家に入れたのかよ!!」
「司ぁぁぁぁぁ!!」
「ひいっ!!」
突然父親が俺に叫ぶものだから俺はびっくりして震え上がってしまった。
俺って何か悪いこと言ったか?
「これはチャンスだ!道場が見たいって言ってたということは…剣道に興味がある!それはつまり、我が道場に入ってくれるかもしれない!!」
「…」
そういう魂胆なんですね。
まあ別に悪いとは言ってないけど。
「じゃあ一応俺とレンで行ってきます」
「おう。無礼な態度を取ってカモを逃がすんじゃないぞ」
「…」
何て悪役のセリフなんだ、今の発言は。
俺とレンは道場まで行き、道場に入る。
「どうも…」
「こんにちワ。与那国司サンですネ?」
そこには少し訛った日本語をしゃべる外国人がいた。
「え? 俺の名前をどうして…」
「学校が同じですヨ」
「え?!」
そういえばこの人、どこかで見たような気が…
「まあ覚えていないのも無理はありません。ボクらは会話らしい会話は一度も交わしていませんカラ」
「じゃあどうして…」
「ボクはケンドーに興味があるんデス」
「へえ…」
日本の武術に興味がある外国人か…
「ボクの名前はアーヴィン・シュナイダー。ドイツの騎士の家に生まれましタ。君と同じ高校2年生で、SF参加者デス」
「な…」
「?!」
俺とレンの顔がその言葉に強張った。
この男、何をしにここまで来たのだろうか…
次回、スピードとスピードのぶつかり合い!
「西洋の神速?!恐るべし最速の剣!」
と、いうわけでさようなら~。