第19話 木刀対拳!司の捜し者!
リニューアル版はいまいち使いにくいんですが…
俺に勝負を挑んできた男がいた。
どうやら拳法部の男らしい。
今は放課後、そして場所は学校。
そしてその男の胸にはSFのバッジ。
俺の胸にも17と彫られた3つのバッジ。
つまり、これはSFとしての勝負だ。
「お前の噂は聞いている与那国司」
「どういう風に?」
「佐渡隼人を倒した男、という風に」
どうしてそのことを知っているんだろうか?
意外と噂されていたのであろうか。
それとも…
「さて、おしゃべりはここまでだな」
男は戦闘態勢に入った。
それより時間は朝まで遡る。
朝起きて、俺は朝稽古をしに行った。
前日にレンが用意してくれた木刀を持ち、感触を確かめる。
…やはり前のより違和感はあるな。
「それで大丈夫ですか? 若様」
「う〜ん…」
「ほ、本来ならば若様が一緒に来てくれなければいけないんですよ?!」
レンが珍しくうろたえている。
「そ、それなのに若様はナンパなんて…」
「はい?」
ナンパしているのを何で知ってる?
というか俺はナンパしていない。
「もう少し師範代としての自覚をですね…」
レンが俺に説教じみたことを言い始める。
「…やっぱり保護者じゃん」
「何か言いましたか?」
「いや、何も」
やっぱり遊びは程々にしようと密かに決めた俺がいた。
そんなこんなで学校に行く時間になった。
寧々はまだ休養。痣はほぼ消えたので、学校に行くのはもう少しだ。
トモ姉もいつものように俺たちの朝食を作り、俺とレンと一緒に学校に行く。
「そういえば朝練は無いの?」
俺はトモ姉に訊く。
「うん。今日は無いって」
「そっか」
そういえば登校している今になって気づく。
一人足りないことに。
「そういえばジョージ来ないな…」
ナンパ成功の後にも電話は来なかったし。
何かあったのだろうか…
あ、そうか。ナンパに最終的に失敗したんだな、うん。
だから恥ずかしくて、俺に連絡もしないのか。
俺は自己完結した。
「ま、いいや。あいつのことは心配ないだろう」
俺たちはそう言って学校に行った。
ちなみに俺の荷物の一つに新しい木刀もあった。
…ところで、視線を感じるけど、シカトするべきか?
どうやら最近の俺は人気者らしい。
そして、放課後の今に至る。
この新しい木刀での戦いは初めてだ。
だが…
「お前、武器は持っていないのか?」
「拳法部だからな」
「そうか」
父の教えの一つ、武器の持たぬ者に剣を向けるな、がある。
彼は武器を持っていない。
つまり、俺は木刀を向けられない。
俺は木刀を床に置いた。
「何のつもりだ?」
当然ながら俺に質問を浴びせてくる男。
「父の教えでな、武器の持たぬ無防備な者に剣を向けてはならないって…」
「ほう」
すると男は俺を挑戦的な眼差しで見る。
「それは立派なことだ。だが、お前は勘違いをしている」
「?!」
男はしゃべり終わったと同時に俺に殴り掛かってきた。
間一髪避けたのだが、俺の後ろの壁は15センチほどへこんでいた。
「俺は武器を持っていないんじゃない。俺自身が武器なのだ」
男は自分の拳を見ながらそう言った。あれほど強力なパンチを繰り出し、壁をあれだけへこませた彼の拳には、ダメージがほとんど無いようだった。あの拳は異常だ。まともに当たったら一発で失神する可能性もある。
俺はその男と少し距離を取り、さらに、落ちていた自分の得物を拾った。
「確かにその拳は強力だな。分かった、俺もこれで戦う」
「へっ」
男は妙に嬉しそうだった。彼はとても武人のような性格をしているらしい。
「佐渡を倒したその力…見せてもらうぞ!!」
男は俺に向かって走り込み、拳を振るう。その攻撃を木刀で弾くのもいいのだが、あの強力な拳で木刀が壊れない保証はない。
したがって、俺はサイドステップでそれをかわす。とにかく、近距離に入られたら負ける。
俺があの男に優っているものといえば、武器のリーチに他ならない。つまり、ある程度の距離を保つのが俺の必勝条件だ。幸い、剣道において間合いは相当重要な要素なので、俺にとってそれは苦ではない。しかし…
「逃げるだけか?」
男による両拳の連続打は止まることを知らないらしく、俺は間合い取りにえらく苦労していた。
予想以上に相手の攻撃スピードが速い。リーチがないのがせめてもの救い。このままでは、そのうち俺が追い詰められるのが目に見える。とにかく相手の攻撃を一時的に止めさせなくては。
「少しは応戦しないかっ!!」
男の拳が頬を掠める。
それだけなのに、頬が切れた感じがした。…何てバカみたいな威力なんだ、その拳は。
俺のように反射神経に特化した人間じゃないと中々対応出来ないぞ。あ、自慢じゃないけど。
「分かった。期待に応えてやる」
そろそろ俺も反撃をしたい。やられっぱなしは流石に悔しい。
俺は距離を取って態勢を低くする。
「ようやく本領発揮ってところか」
男も構えをとる。どうやら俺の攻撃を真っ向から受け止めるらしい。
俺は腕と足に力を込める。この技は必殺。今の俺はこの一撃で相手を仕留めなくてはいけない。
与那国流奥義…神速!!
「?!」
男に目を見開く暇を与えずに、俺は相手との距離を一瞬で詰め、横薙を払った。
「ぐうっ…!!」
男は守りが間に合わず宙に舞った。今の神速は俺の中でも最高の出来だったかもしれない。
「がっ!!」
男が地面に叩き付けられ、うめき声をあげながら血を吐く。どうやらこの木刀の方が神速をしやすい、という面白い結果が生まれたらしい。
「はぁ…」
俺は軽く息を吐いた。さすがに回避しつづけると足にくる。もう少し基礎トレーニングを積んだ方がいいかもしれない。
「早速バッジを貰うぞ」
俺は男に近づき、バッジを手に取った。
番号は18番。何気にエース投手の番号…それはともかく、随分と参加者の様子が分かってきたようだ。
俺は速やかにその場を去り、レンとの合流地点へと向かった。
…それからまもなく、倒れているこの男に一つの影が近づいた。彼がその後にどうなったのかは…後で俺は知ることになるのだった。
合流地点には、すでにレンがいた。
少し、制服が汚れているので、戦闘をしたらしい。
「レン。そっちはどうだった?」
俺は少し明るめに話し掛けた。
「戦果はあります」
そう言って彼女は俺に2枚のバッジを見せてくる。
一つは25であった。
確か25は…
「レンは歯舞と遭遇したのか?!」
「はい。ですが、少しおかしいので、帰ってからお話いたしましょう」
「分かった」
俺はこれ以上の追求をここでせず、帰ることにした。俺もレンもバッジを獲れたことだし、一週間ルールもクリア。先週とは大違いだ。
家に帰り、夕食を摂り、お風呂にも入った俺とレンは、俺の部屋で向かい合っていた。
しつこいが、甘い雰囲気など微塵も無い。
「先程の話の続きを言います」
レンは語りはじめた。
「25番の歯舞という者ですが、前と様子が違いました」
「どういうことだ?」
俺はレンの話に聴き入った。
「私が戦った彼は、妙に好戦的な男でした」
「は?」
俺の知っている歯舞は、気弱で、真面目で、争いには不向きな男だ。なのに何故?
「何故かは知りませんが、とにかく好戦的でした。あ、それと、武器なのですが、えあがん?と言っていました」
「よくその武器相手に戦えたな」
俺としては、エアガン相手に怯まぬレンも凄いが、自分の武器を公表する歯舞もある意味凄いと思う。いや、罠かもしれないけど、今は信じてみよう。
「で、見間違いじゃ無かったのか?」
「確かに歯舞という男の顔をしていました」
レンが少しムッとしながら言った。
ちょっとかわいいところもあるんだな。
「分かった。それと、もう一つのバッジなんだけど…」
「はい」
俺に見せてきたもう一枚のバッジ。そこに彫られていた数字は8。
「8番か…って8?!」
確か8は寧々の番号だったはず。
「このバッジはどうしたんだ?」
俺は少しだけ声が震えていた。
もしかしたら…という気持ちがある。
「歯舞という男が落としました」
「…そうか」
確定したわけじゃ無いが、歯舞が手負いの寧々に引導を渡したかもしれない。
つまり、俺が追っている相手の可能性があるということだ。そう考えると、俺は自然と拳を強く握りしめていた。手負いというか、気絶している人間を狙うという卑怯なことが俺は許せない。いくらバトルロワイアルでも、幼馴染みが被害者だから、感情が抑えにくい。俺の心はやっぱり、結構熱くなりやすいらしい。いつから?
「若様」
「あ、悪い」
考え事をしていた俺をレンが現実世界へと連れ戻す。
「気持ちは分かりますが、今は抑えてください」
「あ、ああ…分かってる」
まだ歯舞だとか確定したわけではない。俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。今は現状把握…参加者整理が先だ。
「では書きます」
2 佐渡隼人(大鎌) 敗退
3 宮島先輩(薙刀)
6 厳島真理恵 (鎖)
8 奄美寧々(木刀) 敗退
13 択捉光世(ナイフ、双剣)
16 謎のくの一 (武器不明)
17 司 (木刀)
18 拳法部の男 (拳)
20 レン (木刀)
23 国後大樹 (?) 敗退したらしい
25 歯舞武 (エアガン)
「すいません、若様。拳法部の男って…」
「あ、ああ…」
そういえば説明するのを忘れていた。
「いやさ、今日はその男に遭遇してさ、まあ勝ったんだけど…」
「まあ若様が無事なら何よりです」
レンはあまり深くはきかなかった。俺はその後、ちょこっとそいつの特徴だけを教え、眠ることにした。明日は剣道の試合がある。睡眠はきちんと摂っておかねば。
あれ?
おかしいな…
俺は寝たはずなんだけど…
気がつくと、占い師ドレミの部屋に俺はいた。
俺は瞬時に後ろを向く。
「ようこそ…」
眠そうな声でドレミが声をだした。
「眠いんですか?」
「今何時だと思ってるのよ…」
妙に声が若い。実は結構俺と歳が離れていないのかもしれない。いつもは芝居じみた口調だし。
「えーと…すいません」
「ま、いいわよ…それで、どんな悩み?」
口調がいつもと違う。素が出ているのか?
「えーと…」
この人にはもうSFのことを言っても問題無いだろう。つうかもう知っているだろうし。
「SFのことなんですけど…」
「それで?」
彼女はやはりもう驚かないらしい。
「俺の幼馴染みに引導を渡した奴がいて…そいつは誰か、って悩んでます」
「そうね…」
彼女は水晶玉に手をかざす。だが…
「眠くて無理。以上。おやすみ」
「は?!」
ちょっ!口調がいつもとかなり違うよ!しかも寝るの?!
「早く出ていきなさいよ。女性の寝る部屋にいつまでいるの?」
「へ?」
つうかここで寝るのか?
「ふあ〜あ…残念だけど布団は一つしかないの。それとも一緒に寝る?」
「し、失礼しました!!」
俺は急いで背後のドアを開けて部屋から出た。
気がつくと布団の中。時刻は午前二時半。こりゃ確かに遅い。いや、ある意味早すぎる。
ー某所ー
「政府は何か言ってたか?」
十字がその薄暗い部屋にいる者達に話し掛ける。
「いや、好きにしろ、と」
チャラは髪を掻き上げながら言う。言うまでもなく、格好つけだ。
「そうか…SFは第二段階に入った。これからも我らは監視と…」
「排除だね」
モデの言葉を遮ったのは、少々幼めの女の子だった。
「では早速、仕事といこうじゃないか」
その幼めの女の子と瓜二つの顔をしている女が皆の顔を見渡しながらそう言った。
「了解」
「承知」
「OK」
「分かってるって〜」
彼ら5人は、一人ずつこの部屋を出ていった。
次回は第20話、「レンとの出会い…そして剣道!」です。
半分は過去編でお送りいたします。