第18話 司の日常、戦士の休息
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疲れも取れ、眠気も取れ、傷口も塞がり、俺は道場稽古を再開することにした。
ちなみに学校にも復帰するつもりだ。
長期間休むのはさすがにまずいからな。
さて、俺は今何しているかというと、レンと一緒に朝稽古である。
「あれぇ?」
俺は首を捻る。
「佐渡との戦いのときは確かに旋風が出来たのにな…」
「そうなのですか?」
俺は今、与那国流第二奥義、旋風の稽古をしている。
ちなみに旋風というのは、片足を軸に高速回転する攻撃。
特徴としては、全方位に対応している他、隙が少ないこと。
神速の後に放つことによって、神速の弱点もカバーできるのだ。
「ではやってみます」
レンは木刀を構えた。
彼女も周りに気が集まっている気がする。
「はぁ!!」
彼女は高速に回転した。
ちなみに、さっきの俺よりも速い。
パチパチパチ
「ん?」
俺とレンが道場の入り口に顔を向けるとそこに、父が立っていた。
どうやらレンの旋風を見て感心しているようだ。
「レン、ほぼ旋風を会得できているようだな。旋風は全包囲攻撃からの防御技であり、攻撃技でもある。風を起こして相手との距離を空けることも出来るし、神速の後に放つことによって神速の隙を無くすことが出来る」
やはりそうなのか。
俺は佐渡と戦ったとき、確かに旋風が使えた。
神速の隙を無くすことが出来たし、緊急離脱にも使えた。
でも何で今は出来ないんだ?
「で、司。お前も旋風の特訓をしているのか?」
「ま、まあ…」
今出来ないのに、前は出来たとか言ったら恥ずかしい。
何か自分はまだやれる、やれば出来る子なんだ…みたいなイタイ奴になりかねない。
「そうか。見せてみろ」
「あ、はい!」
俺は佐渡と戦ったときのことを思い出す。
軸足の左足に力を入れ…思いっきり回る!!
俺は全力で回転した。
「…」
しかし、父の目は冷めていた。
「ど、どうですか…?」
いや、ダメに決まってるだろ。
と思いながらも訊いてしまう自分がいた。
「お前はただ回転しているだけだ。攻撃ですらない」
父はそう言って自分の竹刀を取り出し、構えた。
「これが本当の旋風だ!!」
「何?!」
目の前に竜巻が起きた。
そんな感じ。
「何て風圧だ…!!」
回転と共に周りの空気が父へと誘い込まれる。
まさに竜巻。俺とレンはそれに巻き込まれないようにするのが精一杯だった。
「さすが…」
旋風が終わり、俺とレンは尻餅をついた。
ダメだ。核が違う。旋風はただの近距離攻撃じゃない。
近距離へと相手を誘い込む攻撃なのだ。
「まあこの域までに達しなくても良い。だが少なくとも、風が起きる程度までになっていろ」
父の言葉が道場に響く。
あのときの俺の旋風は確かに風も出ていた。
だから緊急離脱が出来た。
「何だ司。不服のようだな」
「いえ…」
やっぱり前に出来たことが出来ないのが悔しい。
悔しい? …随分と俺も変わったものだ。
「レンにも言えることだが、一歩ずつだ。初めから全てが出来る人間なんていない。だから、常に努力しろ」
「はい!」
「はい」
レンの返事に比べて、俺の返事はいまいち気合が入っていなかった。
俺の木刀は佐渡によって折られてしまった。
だから俺は今、別の木刀を持っている。
弘法筆を選ばず、とは程遠い俺にとっては大きなハンデとなる。
今まで慣れていた木刀とはやはり少し違う。
何せ、俺の木刀を作っているのは人だ。それぞれ違う出来である。
同じ木刀など、この世に一つも存在しないのだ。
だが、それを言い訳に出来るほど、SFは甘くはない。
「いや、司も風邪が治って良かったな!」
昼休み、ジョージが俺の背中をバンバン叩く。
ジョージには風邪で休んだ、と言ってある。
まあジョージだけではない。表向きはそうしているだけ。
「まあな。寧々は少し苦戦しているみたいだが」
寧々は全身の痣がある。
痛々しいほどに。
だからまだもうちょっとだけ休んでいる。
「よし!それじゃ早く食堂に行こうぜ!」
「そうだな」
俺とジョージとレンは3人で食堂に行くことになった。
「混んでるな」
そして案の定食堂は混んでいた。
ここだけはいつまでたっても変わらないものだな。
そして俺はさり気なく真理恵を探してみる…が、いない。
まあいつもここに来ているわけじゃないだろう。何確認しているんだ俺は。
「席はどうする?」
「私は若様と一緒に行くので、一条様はお一人でどうぞ」
「レンちゃんヒドッ!!」
ジョージが涙目になるが、レンは首を傾げるだけ。
レンに悪気は無いのがなお、タチが悪い。
「ま、そういうことでジョージは一人な」
「チクショウ!絶対彼女を見つけてお前に自慢しまくってやる〜〜〜〜!!」
ジョージは涙を流しながら走り去っていった。
しかも俺に彼女の自慢をすることで気が晴れるのかよ。
…ん?
何か視線を感じるな…
俺は周囲に気を配り始めるが…
「若様はどこに座ります?」
俺はレンの言葉によってそれを気にすることをやめた。
ここを見張られても平気であろうということだ。
「空いたらそこに座ろうぜ」
そのとき、席が二つ、目の前で空いた。
まさかこれはチャンスなのでは?!
俺は席に座ろうとする。が、横からすさまじい速度で来て、俺の前の席を誰かが奪った。
「な…」
「よう。与那国司」
「種貸先輩!!」
超スピードで俺の席を掠め盗ったのは剣道部の種貸主将であった。
この人なら超スピードで来られても違和感が無いのがすごい。
「この席が欲しければ剣道部に入るんだな」
「それだけのために俺の席を…」
「だって試合近いのにみんなヤバイんだもん! 主力が怪我をしちゃって!! 団体戦は5人だろ?! 俺は必ず勝つとして…」
必ず勝つんかい。
「残り4人で2勝が絶望的なんだ! 次期主将の近藤は大丈夫だが、その他の3人が…だから頼むぜ!」
つまり、確実に勝てる3人が剣道部に欲しいということか。
でもな…俺の道場は実際の斬り合いに近い剣道を教えてるからな…。
ちょっとだけ毛並みが違うんだよな…。まあ剣道部にもいたから普通に剣道出来るけど。
「でも俺も道場の方が…」
「一回だけでいい!」
種貸先輩が俺に深く頭を下げた。
「ちょっ…」
おいおい…これはまさか参加しないと駄目な空気か?
…まあ一度なら良いかな?
「いつですか?」
「おう!明後日だ!」
「早っ!」
「だから今、人生で一番頭を下げているんだ!」
「…」
俺は無言でレンを見た。
レンは仕方なしに頷く。彼女もこの熱意には負けたのかもしれない。
「分かりました。これっきりですよ?」
「助かった!!サンクス!」
種貸先輩は心底安心したような顔をした。
「それで、明後日のいつですか? 場所はどこですか?」
「明後日の放課後にここの体育館だ!」
「へえ。ここなんですか。分かりました」
俺は意外だな、と思いつつもそれを了承した。
まあ了承しない限り、この問答を繰り返すことになるかもしれない。
それにしてもウチの学校でやるなんてね…
「じゃあそれだけだ。約束破ったらどうなるか…」
「分かってますよ!」
種貸先輩は笑いながらそんなことを言いやがった。
さすがに俺は鬼畜じゃないから、約束は守る。
「ははは。じゃあ明後日」
種貸主将はそう言って去っていった。
「若様…」
気がついたら、レンが俺の方を心配そうな目で見ている。
「大丈夫だって。久しぶりの剣道の大会だからな。少しワクワクもある」
「いえ、そうでなくて、時間が…」
「は?」
キーンコーンカーンコーン♪
昼休み終了。俺は昼飯を食べ損ねた。
…最悪だ。
放課後…
昼食を食べ損ねた俺は、レンとジョージと普通に帰ることにした。
さすがに昼を抜いてSFは戦えない。
「なあなあ。今日はお前、暇か?」
「いや、俺は道場の稽古が…」
ジョージに遊びに誘われた。
確かに、最近はめっきり遊んでいない。
少し、息抜きをしたいところだが…SFがあるしなぁ…
「たまにはいいだろ? 最近のお前、付き合い悪ぃぞ!」
「う〜ん…」
俺はチラリとレンを見る。
一体どういう反応をするのか…
「若様のお好きにどうぞ」
「え?!」
今信じられない言葉を聞いたんですけど?!
レンが許してくれた…?
「レン…?」
「若様…私を若様の保護者だと勘違いしてませんか?」
「え、そうじゃないの?」
レンは俺を見て複雑そうな顔をした。
「そんな風に私を見ていたんですか…私は若様の護衛であって保護者ではありませんよ」
「そ、そうだな…」
だが、行動の節々が保護者みたいだぞ。
最低でも俺はそういう風に感じていたが。
「なので、若様が遊びに行くのならば、私も着いて行きます」
「いいいい?!」
ジョージが奇妙な声を上げた。
レンが来るとまずい事でもあるのだろうか…いや、そうだな。あるに決まってるな。
「な、なあ司…」
「お前、アレしに行くのか?」
「ひ、久しぶりに…」
どうやら久しぶりにアレをするみたいだ。
「レン、お前は俺の新しい木刀でも探してくれ」
「若様…」
「頼むぜ」
「分かりました」
基本的にレンに何かを頼めば、それをやってくれる。
まあダメな時もあるけど。
「じゃあなレンちゃん」
「気をつけて」
俺たちはレンに別れの挨拶をし、繁華街へと歩き出す。
「それで、やっぱりナンパか?」
「当たり前だろ! つうかお前もナンパ乗り気?」
「いや、俺はお前が断られるのを陰で笑う」
「ひどっ! お前チョ→陰湿!!」
「お前はギャル男か!」
俺とジョージはそんなバカな会話をしながら、繁華街へと到着した。
「じゃあ俺はゲーセン行ってる。ナンパに成功したら呼べよ。期待してないけどな」
「チクショウ…絶対成功するぜ!」
俺は適当にジョージをあしらった。
まあコイツのことだ。成功なんてしないだろう。
…これって成功フラグ?
4時間後…
「よっしゃあ! ナンパ成功したぜ!」
電話の向こうでジョージの元気な声が聞こえた。
「バカな…」
ジョージがナンパを成功させただと…?
ありえない…夢か? …いや、夢じゃない!
俺はわざわざ頬を引っ張って確認する。
「まあ相手は一人なんだけどさ…お前も…え?」
何か電話の向こうで話し声が聞こえた。
相手の女の子なのであろうか。
「あ、悪い! 俺一人がいいらしい。はっはっは、残念だったな司。俺は今日、大人の階段上るぜ!!」
「…はいはい」
俺は電話を切った。
ジョージがナンパを成功させるとはね〜…
少し複雑だ。アイツに先を越されたと考えると、すごく複雑だ。
プルルルル♪
「げっ!」
しかしその後、また電話が入った。相手は父親。
「も、もしもし…」
「バッカモン!!さっさと帰ってきやがれ!!」
「れ、連絡しなくてすいませんでした!!」
最近遊びに行くことがメッキリ減ったために、こういうことをするのを忘れてしまった。
今は…早く帰るべし!!
俺はゲーセンを出て、家へと歩き出す。
―某所―
「クックック…佐渡隼人…私のためによく頑張ってくれた」
薄暗い部屋で、怪しげなクスリを調合している人物がいた。
「アイツのおかげで私は水面下でコトを運べた…」
その人物はクックックと笑いながら作業を続ける。
SFはまだ序盤だということを忘れてはいけない。
活動報告で予告プレビューを行ってます…
次回は「木刀対拳!司の捜し物!」