第16話 終わった演奏!終わらない希望!
疲れがピークに達す。
睡眠時間が2時間を切ることに…
あと少しの踏ん張り…力を…力を…
佐渡によって俺は仰向けに倒れていた。
それを沈みかけた満月が照らす。
ドクン…
「?!」
な、なんだ…?
俺に流れている血が沸騰するように熱い。
この感覚はどこかで…
ドクン…
間違いない!真理恵との2度目の戦いのときの感覚だ。
自分の中に語りかけ、勝ちたいと願ったときの感覚だ。
でも今は何で…?
俺は自分に語りかけていない。
ドクン…
「うっ…」
俺は胸を押さえる。
心臓が無理矢理俺の体全体に血液を送っているみたいだ…
「さて、起き上がらないならもう俺は去るよ。バッジは貰うけどね」
佐渡が俺に近づいてくる。
俺は未だに立ち上がれない。
「さて、バッジは全てもらうよ。勉強代にしては安いぐらいだよ」
佐渡が俺の胸のバッジに手を伸ばした。
だが、俺は伸ばしたその手を掴んだ。
「何だ?」
「邪魔だ」
そしてそのまま俺は佐渡を思いっきり投げ飛ばした。
倒れたままで。
「何?!」
佐渡は思いっきり尻餅をついた。
「まだバトルは終わっちゃいねーぜ」
俺は立ち上がり、佐渡を見下ろす。
何故だか知らないが力が湧いてきている。
「ほほう。その気骨だけは認めてやるとしよう」
佐渡は俺を見てフフンと笑った。
まだ余裕があるようだ。
「?!(あの血の匂い…あの時と同じ…)」
ぐったりとしていた真理恵はボロボロの体を起こし、司を見て目を見開いた。
「(何?…このケダモノのような血の臭いは…)」
「お前が余裕をもてるのはさっきまでだぞ?」
「クックック…たかが一回攻撃をヒットさせただけで…」
佐渡は俺を見て笑う。
完全に俺を舐めている。
だが、今の俺は何故か、あいつに負ける気はしない。
「そうかな?」
俺は態勢を低くする。
「クックック…またそれとは…芸のない奴だ」
与那国流第一奥義…
「神速!」
「ふん!」
俺は神速を佐渡の足を狙って放った。
「効かぬ!」
佐渡はきっちりと俺の攻撃をガード。
相変わらず反射神経も早く、中々攻撃を当てさせない。
「ふん。攻撃後の隙が…」
「与那国流第二奥義!」
「?!」
俺がそう叫ぶと、一瞬驚きで佐渡が硬直する。
「旋風!!」
俺はその叫びとともに、神速で着地に使った前足の左足を軸に高速回転斬りを放つ。
「何?!」
佐渡は俺の攻撃を読みきれず、旋風をまともに食らった。
「ぐあああ!!」
しかし、着地の衝撃と回転の軸足にした俺の左足にも結構なダメージだ。
ちなみに、旋風は多分完璧ではない。
所詮は父の見よう見まねでやっただけ。
それがたまたま上手くいっただけのこと。
次はないだろう。
「ぐうっ…この俺が…貴様のようなゴミに…」
腹部を思いっきり叩かれた佐渡は口から血を吐いていた。
どうやらそれ相応のダメージを与えられたらしい。
「(あいつ…あんなに強いの?!)」
真理恵も俺の予想以上の強さを目の当たりにして驚いている。
まあ自分でも驚いているのだが。
「許さん…!貴様はもう地獄に送ってやる!!」
佐渡は怒りを露にし、俺に猛スピードで突っ込む。
「地獄への狂想曲を奏でてやる!!」
「?!」
佐渡は前よりも素早く俺に近づいてくる。
確かこの技は初撃を受けると大変なことに…
「死ね!!」
佐渡は鎌を振り下ろす。
俺はそれをサイドステップで避ける。
「掛かった!」
佐渡は振り下ろした鎌を途中で止め、横になぎ払う。
「しまった!」
俺はその攻撃を「受け」てしまった。
「クックック…受けたな」
柄が歪曲し、俺の右足を攻撃する。
「ぐっ!」
そしてその隙に刃も歪曲して木刀を切断しようとする。
「やらせるかっ!」
与那国流第2奥義…旋風!!
「何?!」
俺は高速回転して佐渡から距離を取った。
「ちっ…緊急脱出にもその技は使えるのか…」
佐渡は苦々しげに呟く。
俺もこれは大発見だ。マグレが当たっただけ。
それにしても相変わらず恐ろしい技だ。地獄への狂想曲は。
「暴走への円舞曲を奏でてやる!」
佐渡は俺に高速突進してきた。
俺はそれを左に避けて回避する。
「っと…」
俺はすぐに後ろを振り向く。前はこれでやられた。
「いない?!」
しかし、後ろには誰もいなかった。
「甘いな!」
声は上から聞こえた。
「しまった!」
俺は急いで上を向く。
「地獄への狂想曲を奏でてやる」
「しまっ…!」
俺は受けることが出来ず、そのまま相手の鎌が俺の右肩を直撃した。
グサッと刺さった音がした。
「あぐっ…!!」
俺の右肩から血が滲む。
いくら刃が鋭くないとはいえ、尖っているものが刺されば痛いものだ。
「くそっ…」
血が肩からボタボタ垂れる。
右肩に上手く力が入らない。しかし、俺の頭はまだ妙に冴えていた。
「ほう…音を上げないとはなかなかだ。しかしその出血では勝ち目もないだろう?」
「はっ。言ってろ」
俺は気だけは負けたくなかった。
こんな奴に気で負けてたまるか。
俺の目にはまだ闘志が宿っている。
さっきよりも熱く炎が燃え上がっている。
だが、どうすればいい?
「すぅ〜…はぁ…」
俺は一旦深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
もう少し冷静になろう。
暴走への円舞曲は高速突進からの連続攻撃。
地獄への狂想曲は初撃を受けさせ、歪曲による2段攻撃。
この二つを組み合わせてくると非常に厄介だ。
ならば、どうすればいい?
「さて、次こそ仕留めてやろう」
佐渡は大鎌をクルクル振り回して俺に向かって構えた。
「くっ…」
「暴走への円舞曲と地獄への狂想曲のハーモニーを奏でてやろう」
どうやら初めから二つを組み合わせてくる気だ。
俺は身構える。最初に来るのは暴走への円舞曲だろう…
「はぁ!!」
佐渡は俺に向かって高速突進をした。
俺はそれを左へ軽々と避ける。
止まってはいけない。常に走り続けろ。
俺は相手の気配を感じながらひたすらランとステップを繰り返した。
「ちっ!ちょこまかと!」
佐渡も俺の回避行動にイライラしていた。
だが、俺が勝つにはまず攻撃を避け続けるしかない。
「小賢しい奴だ!」
佐渡はスピードを段々と上げてくる。
俺は先ほどの神速と旋風の連続攻撃のこともあり、左足に限界が来ていた。
「くっ…保ってくれよ…」
「うっとうしい!」
俺は何を言われても、左足が悲鳴を上げても攻撃を避け続ける。
まだだ。まだ機ではない。
俺は佐渡の足の疲労を待っているのだ。
しかし、奴は意外と鈍くならない。
「くそっ…」
そんなこんなで俺はとうとう佐渡に追いつかれてしまった。
「ふん!ザコが!」
佐渡は俺に地獄への狂想曲を見舞おうとする。
それと俺が佐渡の足を見たのは同時だった。
佐渡の足は…少し震えていた。
「今だ!」
俺は佐渡の軸足に向けて足払いを払った。
「何?!」
佐渡はバランスを崩して倒れ掛かる。
「そこだ!」
俺はそんな佐渡の鳩尾に突きを放った。
「ぐううおおお!!」
クリーンヒットしなかったものの、佐渡はかなりの距離を飛ばされた。俺に。
上手くいけば一発でノックアウトだろうが、その自信は無い。
「はぁはぁ…」
俺はフラフラであった。
もう正直あんまり動けない。
あいつの足に限界が来てるのと同じく、俺の足にももう限界が来ていたのだ。
「いてぇ…」
俺はゆっくりと真理恵と光世さんを起き上がらせた。
「やったの?」
「…これでやられてなければ、勝てる自信は無いな…」
真理恵の質問に弱気に答える俺。
いくら佐渡は倒れているとはいえ、震えた手で胸を押さえているので、意識はまだある。
「早く止めを刺すべきだ」
光世さんが俺にそう話す。
彼の眼鏡はすでに、用途を失っていた。
「そうだ…な…」
俺はゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫?」
真理恵は俺の右肩を見る。
ひどい流血だ。これは重傷に近いかもしれない。
「ぐ…お…」
「「「?!」」」
そんなとき、佐渡が苦しそうに起き上がった。
俺達3人はそれを絶望的なまなざしで見つめる。
「何で…?!」
「貴様ら…絶対に許さん!!!!!!!!!!!」
佐渡はすごい形相と気迫で俺達を睨みつけた。
それだけで体が吹っ飛ばされそうな威力が秘められていた。
「この俺が気絶しかけたんだ…!!これほどの屈辱は無い!!」
「くっ…何よこいつ…ゾンビ?!」
「笑えない冗談だ」
真理恵の切羽詰った声での冗談に笑っていられる場合ではない。
俺も真理恵も光世さんもみんなボロボロである。
「おしゃべりしている場合では無いようですね…」
光世さんは真剣な顔で二対の剣を構える。
俺も真理恵も続いて戦闘態勢に入る。
「貴様ら全員に絶望への鎮魂歌を奏でてやる!」
佐渡は俺達3人に高速突進をした。
狙いは…俺か?!
真理恵と光世さんはサッと横に避けるが、俺が逃げられない位置にいた。
「しまっ…」
「死にたまえ!」
鎌の連撃が俺を襲う。
あまりにも早い攻撃に、俺は受けるのがやっとだ。
「く…」
「私達も支援しないと!」
真理恵と光世さんが後ろから佐渡を攻撃する。
「カス共が!」
しかし、佐渡は体を高速回転させ、俺達3人を吹き飛ばした。
「うがぁっ!」
俺たちはそれぞれ違う方向に吹っ飛び、俺も背中から監視塔にぶつかった。
それと同時に大量の血が口から吹き出る。
こんなに血を吐いたことなんて生涯で一度もないだろう。
「く…」
そして佐渡が俺に近づく。
「貴様をただ倒すのは生ぬるい!地獄を味あわせてからにしてやる」
佐渡は俺の髪の毛を掴んだ。
「放…せ…!!」
俺はもがくが、佐渡は口元をゆがめるだけだった。
「痛いか?苦しいか?」
そう言いながら俺のボディに蹴りを入れ続ける佐渡。
俺は叫びながら耐えるしかない。
「ふん。カスのくせにうるさい奴だ」
俺は鋭い痛みに耐えていた。
だがもう…限界だ。
「情けない奴」
「司に手を出すなぁぁ!!」
そんなとき、怒りの表情の真理恵が佐渡に襲い掛かる。
「黙れゴミ!」
佐渡は真理恵の放つ鎖を全て防ぎ、反撃をする。
「何でこいつ…こんなに…」
佐渡は真理恵の腹に膝蹴りを思いっきり入れた。
「ぐっ…!強いのよ…」
真理恵はそのまま遠くに飛ばされてしまった。
「く…」
俺はゆっくりと立ち上がる。
こんなところで…負けてられるか…!
「まだ立ち上がるか」
俺の心はまだ折れてはいなかった。
月が沈みかけ、日が昇りそうになる。
それと同時に俺の体にも前ほど力が入らなくなる。
「掛かったな!佐渡隼人!」
そのとき、光世さんが佐渡に向かってナイフを何本か投げた。
そして自分も突撃する。
「何に掛かったんだ?」
だが、佐渡はそのナイフを次々と落としていく。
そして光世さんも突き飛ばされてしまう。
「くっ…」
しかし、突然佐渡が動かなくなる。
それと同時に飛ばされた光世さんが俺にニヤリと笑った。
「しまった!」
佐渡の大きな鎌はその大きさゆえ、屋上の柵に引っ掛かってしまった。
光世さんはそれを狙っていたらしい。
だが、鎌から手を放せば問題は無い。
「させるかっ!!」
しかし、遠くから真理恵の声が聞こえ、それと同時に異様に長い鎖が佐渡を巻いた。
「何だ?!この長い鎖は!」
その鎖は佐渡をグルグル巻きに出来るくらいに長かったのだ。
一体何故…?
「まさか…残ってる鎖全てを繋げ合わせたというのか?!」
そうか!
真理恵は残された鎖を繋ぎ合わせて鎖を異常に長くしたのか!
おかげで佐渡は武器も使えず、体も動けなくなっている。
「ぐおおお…この程度の鎖…!!」
佐渡は必死になって鎖を壊そうとする。
しかし、中々壊れない。
「何してるの司!!」
「はっ!」
何で俺は呑気に見ているんだ。
今が最大のチャンスじゃないか。
「き、貴様ら…!」
俺はフラフラと木刀を構える。
神速を放てるのはこれが最後だろう。
「ま、まさか…?!」
佐渡が俺を見て目を見開く。
どうやら恐怖を感じたらしい。
「与那国流第一奥義…」
「や、やめろ…やめろ…」
佐渡は俺を見ながらそんな風に呟く。
「神速!!」
俺は持てる力全てを佐渡に叩き込んだ。
「がああ!!」
佐渡は口から思いっきり血を吐き、倒れこむ。
それと同時に俺も足が限界に来て尻餅をつく。
もう今日は動きたくない。
「…気絶しているみたいだ」
こっちにやって来た光世さんが俺に言う。
「そうみたいね」
続いて真理恵もやって来る。
「俺達の…勝利だ…!!」
それと同時に太陽は東から昇って俺達を照らし出した。
俺達は…勝ったんだ。
次回は「突然の敗退!戦いは続く…」
これで第1部は終了です。
あともう一踏ん張りなのです。