第9話 自分を信じろ司!神速炸裂!
さあバトルフェイズがやって来ました。
寝覚めは普通。いつもと同じ朝。ただ、今は天気が晴れているため、朝の日差しで起床できた。
俺が住んでいるのは日本家屋。洋室というものは全く無いので、ベッドをホテルと保健室でしか知らない。
ただ、それを不満に思ったことも無い。俺はやっぱり和風が好きだ。
だが…
「この日本人形だけはやめて欲しいよな…」
俺は父にお守りだから、とゴリ押しされて飾ってある日本人形を見る。
髪の毛が伸びたり、瞬きをしたり、口が動いたりしそうだ。
元々怖い話なんて苦手ではないのだが、昔寧々がこの日本人形のことで俺を散々脅かしたせいで、この人形についてのみ、苦手である。
そんなことを思いながら、俺は朝の支度を整えるために着物を脱ぐ。
あ、俺は寝るときはパジャマじゃなくて着物だ。
それはともかく、俺がパンツ一丁のとき、襖が開かれた。
「?!」
「おはようございます若様」
「いいいい?!レン!ノックぐらいしてくれよ!!」
「あ、申し訳ありません」
レンはペコリとお辞儀をする。
本当にレンは非常識と言うか…なんか常人とはかけ離れているな。
「まあいいよ…おはようレン。先に道場に行っててくれ」
「はい」
俺は胴着に着替える。早速昨日の続きをしなくては。
結局昨日の稽古で俺は、「神速」を受け止められたのはわずか1回。
しかも、やりすぎるとレンの足に負担が掛かるため、あんまりやってない。
そして受け止められたのはマグレ…もう少し頑張らないとな。
俺は傍らにある、愛用している木刀と竹刀を手に取る。
そして自分の部屋に一礼して道場に向かう。
部屋にあるゲーム機は埃を被っていた…
「ハッハッハハハハ!!バッカじゃないの〜〜!!」
俺は昼休み、寧々に大声で笑われた。
「うるせー。たかが宿題忘れたくらいでそんなに笑うな!!」
俺は昨日の特訓のせいで、出された宿題をやるのをしっかりと忘れていた。
そのせいで、俺は授業中にスクワットし続けることになったのだった。
…あの教師、意味わかんねぇ…
「ですが筋トレになりましたね」
「そういう基礎トレはもういいって…」
あんなの子供の頃に何度もさせられた。
あ、一応言っておきますが、授業中に最後までスクワットをし続けましたよ。
確か1745回くらいか…?
まあ神速を習得するにはこれくらい出来なくては…
「じゃ、俺は外に行く」
「若様?!」
俺はみんなと食堂には行かずに適当に人気のあるところをうろつくことにした。
人気がなかったら襲われる可能性があるし…
それにしても、いくらなんでもみんなSFのことを気にしなさすぎの感が…
何か違和感あるなぁ…
それに俺も早く強くならなくては…
「?!」
そのとき、俺の体が強烈にどこかに引っ張られた気がした。
そうだ、この感覚はどこかで…
「ああ!!」
気づくと、薄暗い部屋の中に俺がいた。
背後には一つの扉。
「占い師ドレミ…?」
「よく来ましたね」
「いや、来たくて来た訳では…」
やはり、ここは占い師ドレミの部屋だったか。
何でまたこんなところに…
「悩みがあるのでしょう?」
「悩み…」
そうだ、俺は神速についての悩みがある。
「俺はとあることを習得したいんです。でも…中々上手くいかなくて。時間もあまり無いんです」
俺はダメ元で相談してみる。答えが出ても出てくれなくても、どちらでもいい。
「そうですね…」
彼女は自分の前にあるオーブに手を添える。
そして何かをブツブツ呟いて、俺の方を見た。
「どうかしたんですか?」
「あなたはまだ自分の中に眠る力に気がついていないのですね」
「俺の中に眠る力?」
俺は占い師ドレミに訊き返す。
「はい。ですが、己の力を信じればいずれ…解放できます」
「…」
何かありきたりな答えだな。どういうことだ?
「具体的に言えば…自信を持ってやって見よ、ということです」
「全然具体的じゃねえなオイ」
「フフフ…私はあなたを応援していますよ」
…この人は何を考えているんだ?
相変わらず不気味な笑みとか浮かべるし。でも何故か不快ではないんだよな。
「それと…夜になっても自信が出ないと破滅しますよ」
「はぁ?」
何を言っているんだこの人は?
「ではお帰りください。次のお客がお待ちですから」
「はぁ…」
最後まで訳の分からない人だな…
俺は後ろの扉を開ける。
そしてその先の真っ白な空間へと足を踏み出した…!
「?!」
気がつくと俺はさっきまで自分がいた場所にいた。
あの時と同じだ。一体どういうトリックなんだ?
「若様!」
「おおレン」
そしていつの間にかレンが俺の背後にいた。
「お昼を抜きますと力が出ませんよ」
「そうだな…」
俺は時計を見る。
「?!」
時計はさっきより30秒ほどしか進んでいなかった。
俺はさっきまであの占い師の部屋にいたんだぞ?!
なのに時計がこれだけしか進んでいないって…どういうことだよ?!
「どうかしたんですか?」
「いや…」
俺は平静を装い、レンについて行くことにした。
今は考えるのを止めよう…
俺とレンは今夜は道場に帰らなかった。
今は多分激戦になっているのだろうから、様子見をするためだ。
つまり、情報が集めやすいというレンの魂胆だ。
ただ、その分リスクも大きい。いつ戦闘になるか分からないからだ。
「今回は二手に分かれたほうがいいよな?」
「…そうですね」
レンは不安そうに俺を見る。
「大丈夫。もう絶対にへまはしない。危なくなったらすぐに逃げる」
一応足には自信がある。
「…分かりました。1時間後、この部屋で合流しましょう」
「分かった」
ちなみに、今俺達がいる部屋は家庭科室である。
教室はいろいろと危ないからだ。
「では、気をつけて」
「レンもな」
俺達は別行動を開始した。
しばらく散策するが、やはりうろうろしている男子生徒が異常に多い。
ただ、幸いにも彼らはそこまでの手練でないため、気配を消していれば気づかれることはない。
俺は気配を消しながらも、情報収集を再開する。
戦いがあったら幸いなのだが、意外にも、戦いが見られなかった。
そしてそのまま1時間過ぎるかと思ったとき、敵の気配を感じた。
「?!」
俺は廊下の曲がり角あたりを睨む。
あの先に誰かがいる。ただし、宮島先輩では無いだろう。
彼女はもっと恐怖を感じる。
俺はそっと近づいてみる。向こうも気づいているだろう。
そして…
「「誰?!」」
俺とその相手は同時に曲がり角で声をあげ、武器を構える。
「お前は…」
「あなたは…」
なんと、相手はあの鎖使いであった。
「何だ…お前か…」
俺は少し安堵をした。が、それも束の間であった。
「死になさい!!」
「え?!」
彼女は問答無用で俺に鎖を投げつける。
それを俺は咄嗟に防いだ。
「何するんだ!」
「それはこっちのセリフ!!私達は敵同士なのよ?!攻撃して何が悪いの?」
そうだった…俺達は敵同士だった。
つい最近、一緒に昼を食べたりしたせいで、その意識がすっかりと希薄していた。
「だ、だが…」
「問答無用よ!!」
彼女は前のときと同じように俺に何本もの鎖を放ってくる。
どうやら指一本につき、一本の鎖を取り付け、操っているようだ。
俺的にはこんなことをしている場合ではない。
早くレンと合流しなければならないし、それに、情報収集したいので、こんなところで戦いたくない。
「ちょっ!話を聞けって!」
「あなたを倒したら聞いてあげるっ!!」
彼女は攻撃をやめず、俺はまたステップと捌きをする羽目になる。
このままではまた追い詰められてしまう。
「覚悟を決めなさいっ!!」
「ぐう…」
俺の左腕を鎖がかする。
そしてその腕に鎖の先に付けられている刃で切り傷が付けられた。
その傷口から血が滲み始める。
こいつ…本気だ。俺を殺すかどうかはともかく、俺を本気で倒すつもりだ。
俺は鎖使いの次の攻撃に身構える。とにかく、ここは何とかしなければならない。
「分かった…俺も覚悟を決める」
「そう。そっちの方が倒しがいがあるわ」
俺は鎖使いと対峙する。
そして思い出す。気剣体の一致を。どれかが欠如してしまえば、完璧な斬撃が繰り出せない。
「さあ!避けられるものなら避けてみなさい!!」
「なんだと?!」
鎖使いは狭い廊下の壁に鎖を反射させて、俺の方へと攻撃を仕掛ける。
狭い廊下のせいで、鎖は何回も反射して俺のところへとやって来る。
しかもその蛇行する鎖が十本。確かに防ぐのは至難の業。
狭い廊下を上手く使った素晴らしい戦法であった。
「くっ…」
攻撃の軌道が読めない。一本なら何とかなるが。
俺は迫り来る鎖を辛うじて防ぎ続ける。しかし、このままでは埒が明かない。
「やっぱりあなたは予想以上に強いわ」
「どうも…」
そんな俺の声には余裕なんて含まれていない。
何せこのままでは近づくことが出来ない。リーチの長さは相手のほうが上だし、闇雲に突っ込んでも、あの蛇行する鎖の餌食になりかねない。
「どうすれば…」
レンだったらこういうとき、どうするんだったか?
俺は前のレンと鎖使いの戦いを思い出した。
確かあの時レンは鎖を1本ずつ断ち切っていた。
俺にも同じことが出来れば…
「さあもっと踊りなさいっ!」
鎖使いが再び鎖を放ってくる。
俺は一番前の一本のみを凝視する。眼球が素早く左右に動かして軌道を見極める。
「そこだ!」
俺は手前の一本に木刀を一気に振り下ろす。
「?!」
ガキンという音がしたものの、鎖は断ち切れなかった。
「まずい!!」
その間に2本目の鎖が俺の右足に刺さってしまった。
「ぐあああっ!」
「これでさっきのようには動けないわよ」
「くっ…」
そして続いて3本目の鎖が俺の右腕を狙う。
これは何とか阻止。しかし、足が思い通りに動いてはくれない。
「はあっ!」
そして4本目と5本目、6本目が同時に俺を襲う。
俺はやっぱり弱い…
俺は自分の負けを悟る。偉そうなことを言っといてこのザマは何だ。
足には自信がある?怪我しちまったらお終いじゃないか。
そんなとき、俺は占い師の言葉が甦った。
自信が出ないと破滅しますよ
まさかこれはこのことを言っていたのか…
でも、どうすればいいか…分からないんだ…!
そのとき、周りの風景が一瞬にして変わった。
「?!」
「お困りのようね」
「あなたは!!」
俺の目の前にいたのはあの占い師であった。どうして彼女が俺の目の前に現れたのか。
「私の言うことを聞かなかったでしょ?」
「そんなの分かりっこないって!!」
あんな意味深な言い方じゃ何も分からないって!
「それで、どんな悩みなのかしら?」
「う…」
悩みと言うか…しかし、今はもう形振り構っていられない。
「俺、どうすれば自分に自信を持てるのかわからないんだ…」
「…あなたは今、深刻な問題に直面しているのね」
彼女はフッと微笑んだ気がした。
何故だろう、何でこんなに懐かしい気がするんだ?
「あなたの中に語り掛けなさい。力を貸してくれって。そうすればあなたの習得したいものが習得できるかもしれないわ」
「?!」
俺の中に語り掛ける?
どういうことだ?
「自信を持ちなさい。いい?あなたは強いのよ。心から勝ちたいと願えば、結果はついてくるわ」
彼女の言葉は占いと言うより、応援…エールに近いものだった。
俺はそんな言葉に心を強く打たれた。
「じゃあそろそろ行きなさい。どの客よりも優先にしてしまったから、お客さんが詰まってしまうわ」
「あ、すいません…それと、ありがとうございます!」
「期待しているわ」
彼女のその言葉を背に受け、俺は扉からこの部屋を出て行った。
そして…目の前には3本の鎖。
つまり、現在の状況に戻ったということだ。
「俺は…勝つ!」
俺は3本もの鎖を横薙ぎで一閃した。
「3本の鎖、全てを断ち切った?!」
俺の横薙ぎは3本全ての鎖を見事に断ち切れた。
そして語り掛ける。俺は勝ちたいと。
すると、俺の全身の血が沸騰するように熱く感じた。
一体この感じは…?
しかし、それに気にする間も与えてくれず、鎖使いは次の攻撃を繰り出す。
相手の鎖はあと7本。そして相手の手元には4本だ。
その4本の鎖の攻撃を俺は前よりも軽くなった体でかわすことに成功する。
「何で?!急に動きが変わった?!」
足の痛みを気にせず、俺は次の態勢に入った。
相手に攻撃の準備が出来ていない。そう、この鎖を10本放った後、鎖使いには隙が出来る。
だが、距離が遠すぎて、近づく間にまた餌食にされるのが普通。
彼女もそれを分かっているのか、焦った表情はしていない。
だが、それは普通の近づき方の話だ。
「これでも…」
彼女は攻撃の態勢に入る。
だが、それより早く、俺は態勢を低くする。
そう、この状況を打開するにはあれしかない。
与那国流第一奥義…
「神速!!」
「えっ?」
俺は彼女の攻撃よりも早く攻撃をスタート。
5メートルの距離を、俺は1歩で詰め、横薙ぎをする。
「きゃあっ!!」
鎖使いの声が後ろから聞こえた。
俺は神速を成功させたのだ。
「どうして…この距離を一瞬で…?」
どうやら攻撃する瞬間に彼女は鎖でダメージを軽減させたらしい。彼女はまだ立っていられた。
だが、ほとんどの鎖を俺は断ち切ることに成功し、彼女も足には相当ダメージを負った。
…俺の勝ちだ!!
「どうだ…はぁ…俺の勝ちだ…ぐっ!」
俺は片膝をつく。怪我した足での神速は予想以上に俺の右足に負担をかけたらしい。
「はぁはぁ…あなただってその状態で勝ったとはいえ…?!」
彼女が息を切らせながら何かを言っていたが、途中で目を見開いて固まった。
「どうし…しまった!!」
「へっへっへ…」
どうやら俺達が激しく戦っていたせいで、例の男子生徒達が10数人も俺達を囲んでいた。
俺は片足を負傷。鎖使いの彼女は鎖がほとんど無くなっている。
つまり、絶体絶命。
「くっ…」
「私としたことが…戦いに集中しすぎて…」
俺も目の前に集中していたせいで気がつかなかった。
このままでは共倒れだ。
「なぁ…この量を相手に勝てるか?」
「…無茶を言わないで」
彼女が弱気な発言をするとは…だが、俺もさすがにこれは…
「ちょうどいい。お前らのバッジを貰うとしよう」
「くっ…!!!」
周囲全てを囲まれ、俺達に逃げ場は無い。
こいつらは初めからこれを狙っていたのかもしれない。
くっ…どこの誰だか知らないが、完全にやられた。
そのとき…
「え?」
一本の閃光が俺達の目の前を通り過ぎた。
「ぐあっ!!」
それと同時に俺達を囲んでいた男の一人が吹っ飛ばされた。
何が起きたんだ…?!
俺の頭は混乱するばかりであった…
次回は「脱出せよ!闇夜の学校!」
何か物語が本格的に動き出しましたね。