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第3話 まともに考えれば女奴隷の需要なんて少ないに決まってる



 冒険者のランクは上はAから下はFまで。冒険者パーティとしての実績、貢献度、人格などを考慮して振り分けらる。

 当然上位ほど信用があり、尊敬され、ギルドからのサービスも手厚くなる。


 ランク分けはは、パーティ単位で行われている。

 『Aランクの冒険者』がいるのではなく、『Aランクパーティに所属する冒険者』がいるという形式だ。

 ギルドに登録したばかりの新人であっても、Aランクのパーティに入ればAランク相当の扱いを受けられる。


 当然、ランクの降格も頻繁に行われる。

 特に、複数の新人が加入したり、メンバーが抜けたりしたパーティは降格しやすい。


 とはいえ基本はFランク同士でパーティを組み、ノウハウを積んで昇格していくのが王道。

 ランクは上の方が少なく、下の方が多いピラミッド型――に近いが、Fランクだけは例外だ。

 Fランクは新人が最低限の技能を得るまでのランクで、簡単にEランクに昇格できるので数が少ないのだ。

 長期間Fランクにとどまっているのは、登録だけして形だけ冒険者になったモグリか、壊滅的に才能が無い奴。

 そして、俺たちみたいな素行が悪すぎる奴。



●●●



「この街で奴隷市場が開かれてるって噂を知ってるか?」


 いつも通り酒場でくだを巻いているヴァージニアとハモンに、俺は話を切り出した。


「違法だろ。」


「もちろん違法だ。

 だけどこう……使えそうな気がしないか?」


「何に?」


「拙僧はピンときたでござる。

 キズモノで安売りされてる可哀想な亜人の娘を買うのでござるよ。

 魔法によって服従させられていた少女は、自由や食事、奇麗な服を与える拙僧の優しさに少しづつ心を開いていき……」


「ンな都合のいい話あってたまるかい!

 服従魔法解いたら速攻逃げられるに決まってるし、そもそも金がねえ!

 あと安売りされてる女がいるとしたら、それは多分半端ないブ……」


「やめるでござる!!

 まったく、ヴァージニア殿は浪漫がわからぬのでござるな……」


「ンなクソみてえな浪漫は便所に流してこい!!」


 変な方向にテンションの上がったハモンが静かになったので、本題に入る。


「で、話を戻すけど、奴隷市場で一儲けしようと思いついたんだ。」


「……? どうやってだ?」


「売るんだよ。奴隷を。」



●●●



 ほの暗いホールに、欲望が渦巻く。

 立派なスーツを着ていても性根の卑しさを隠せないツラをした、奴隷を売る裏社会の連中。

 まっとうな手段で儲けたとはとても思えないようなきらびやかな装いの、奴隷を買う金持ち。

 手枷首枷をかけられ、残飯ザンパン入れの中の魚みてえな目をした奴隷。


 俺の作戦はこうだ。

 まず、奴隷に扮したヴァージニアを適当な金持ちに売る。

 本来奴隷には服従魔法がかけられているが、当然ヴァージニアにはそんなものはない。

 金を受け取って奴隷を引き渡した後、ヴァージニアが勝手に逃げだす。

 なんだかんだ言ってヴァージニアは斥候スカウト。鍵開けも逃走もお手の物だ。

 奴隷売買は違法なので、買った野郎も番所に駆け込むこともできず、泣き寝入りって寸法だ。


「ぶふ~ぅ……ほう、女奴隷か。」


 早速カモがやってきた。

 ぶくぶく太った体で、ごてごてした金の指輪なんぞつけてやがる。絵にかいたような悪徳商人って雰囲気だ。

 ヴァージニアは顔を引きつらせ、用心棒に扮したハモンは笑いをこらえている。

 客はボロキレのような服を着たヴァージニアをじろじろと嘗め回すように見て、


「体つきは悪くないが……顔にケバケバしさを感じるのう。

 ……ふむ、要らぬな。」


 そう言って、あっさり踵を返していった。


「アタシは別にあんな野郎に買ってほしかったわけじゃないけど……

 なんかすごくムカつくぅ……!」


「ぼやくなぼやくな。

 もっと奴隷っぽく、しおらしくしてないと怪しまれるぞ。」



●●●



「トウが立ってる。ババアじゃねえか。」


「太りすぎ。スレンダーなのがいい。」


「高すぎる。元娼婦の奴隷につける値段じゃない。

 ……え、処女? いやいや、嘘ならもっと上手くついてくれよ!」



●●●



「…………売れねえ。」


「いっそ値下げした方が良いのではござらんか?」


「絶対ヤダ! 値下げなんてしたら負けだよ!」


 目的を見失いかけているヴァージニアの表情は鬼気迫るものになりつつある。


「負けと言ってもなぁ……」


 奴隷しょうひんが売れた奴隷商は店じまいしていき、残っているものは半分以下。

 ほとんどが労働力としての奴隷ばかりで、女で残っているのはヴァージニアくらいのものだ。

 すなわち、もうスケベ目当てでこの場にいる客自体がいないということ。


「……帰るか。」


「……で、ござるな。」


「ちょ、まっ……まだ、まだワンチャン……!」


「ワンチャンねえよ。」



●●●



 翌日。


「あの奴隷市場、ガサ入れされて潰れたってさ。」


 開口一番、ヴァージニアがそう言った。


「危なかったな。長居してたら一緒にしょっぴかれてたところだったぜ。」


「早々に帰って正解だったでござるな。」


 ヴァージニアは複雑な表情だが、失敗した金儲けを振り返っても仕方がない。


「いえ、普通に貴方たちもアウトです。」

 

 そこに、背後から声をかけられた。


「あ? なんだ、ジェミィか。

 ギルドの職員が俺たちに何の用で?」


「番所からの要請で、ギルド所属の犯罪者を引き渡すようにと。

 奴隷売買の罪で、貴方達に逮捕状が出てます。」


 ジェミィの後ろから、警察兵がなだれ込んできた。



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