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男装令嬢の夜のすごしかた

 夜は自習をしている。

 アレクシアは夕飯をエリウスをとったあと、自室で過ごす。

 もう少しくらい一緒に過ごしてもいいのにとよく言われるが、アレクシアの自習の勉強の邪魔をすることはない。


 自室の机の上に教科書をノートが開かれている。

 今日の復習と明日の予習をするのだ。


 今日はそれに追加でキーツ先生にもらった紙を眺めている。

 わかりやすく要点がまとめられていて、そのままノートに書き写してもいいくらい。

 アレクシアは教科書と紙を眺めながら、問題を解きながらノートに記していく。


 今日はあまり授業に集中できなかった。

 事情を察していた先生はそれを咎めることななく、アレクシアはおとなしく授業を聞いていた。

 今日授業でまとめたノートの中身は、あまりよいできではなかった。キーツ先生からもらった分で理解できなかった分を理解していく。


 さらさらとペンを走らせていたが、メイドが少し休憩をしたらどうかとすすめてきた。

 ふと時計を見ると自習を始めてから一時間以上過ぎている。詰め込みすぎは集中が欠けてしまう。適度に休憩を挟んでいる。


 アレクシアは座ったまま背筋を伸ばす。ぐーんと腕を上に伸ばすと身体がすっきりする。

 ずっと座ったままなので、身体も少しは動かさないと身体に悪い。


 一度椅子から立ち上がり軽く身体を動かしながら、今度はソファに座って息抜きをすることにした。

 準備がいいのか、アレクシアが座るや否やお茶とお菓子が用意される。


 お菓子は最近のお気に入り。

 セイル先輩にいつももらっていたお菓子。ずいぶん気に入ってしまったので、どこで手に入れるか聞いたのだ。

 買いにいってるのは自分ではなくメイドに頼んでいるが、アレクシアの希望どおりのものを手に入れてくれた。

 夜にたくさんお菓子を食べるのはよくないので、少量を用意してもらっている。


 お茶に口をつけて、ふうっと息をついた。


 そういえば、とアレクシアはお菓子に食べながら思った。

 授業以外で指導を受けていたノールのことを思い出す。

 サボりすぎともいえるが、わざわざ放課後に直接指導をしてもらっているとはそれなりに期待されているということなのかと考える。

 今日の授業を集中して聞けなかったアレクシアが、その日の内容まとめた紙をもらえたように、素質はあるということなのか。


 特別授業が受けられることは知っていたけれど、どの程度の成績なのかまでは知らない。

 いや、定期的に行われる試験の成績は掲示されるので、まったく知らないということはないのだが、普段の成績以上はできるのかもしれない。


 あまり他人のことを考えるのはどうかなと思い、残ったお茶を全て飲みほして休憩を終える。

 よい気分転換になったのか、再び机に向かったらとても集中できた。


 復習が一通りすむと、次は予習を始める。

 ぱらぱらと教科書を眺め、もらった紙のほうも確認しながら明日の予習を進めていく。

 わからないところがあったらメモをして、なにか分からないところがあれば、それもメモをする。

 授業を聞いても分からなければ質問をしに行く。


「……さすがに、分からなかなこれは」


 キーツ先生にもらった紙で一年先の内容の書かれたものを見てアレクシアはつぶやく。

 今の内容の発展型ではあるが、少し複雑に感じ今はうまく解けそうにないなと感じる。

 このまま勉強を続けたらこの内容も理解できるのだろうか。



「お嬢さま、そろそろお休みの時間です」


 勉強に集中していたアレクシアにメイドが声をかけてきた。

 ふと時計を見るとさらに一時間が経っていた。

 集中すると時間の流れが分からなくなる。


 特別寮ということもあって、消灯の時間をきっちり守る必要はないのだが、明日に響くので寝る時間は規則正しくしていたい。

 それにアレクシアは朝がほかの生徒たちよりも早いのもある。


 机の上に広げられた教科書類を片付けて、アレクシアは立ち上がる。

 寝るとき以外は常にアレクスの姿で過ごしている。

 男物の姿をしているだけで、アレクシアだとは気づかれない。

 寮の中にいれば他のひとに見られることはないので、もとの姿に戻ってもよいのだが、なにがあるか分からないので念の為。


 寝間着に着替えて、長い髪をみつあみにしているリボンをほどく。

 するりとほどかれると、髪がふわりと広がる。

 編み込んでついたクセがしっかりとついている。


 鏡台の前で髪をといてもらう。

 毛先をのぞいてまっすぐな髪質なので、髪をすいてもひっかかりはない。

 ゆるやかにウェーブした自分の髪が、鏡にうつる。


 アレクシアはそれを無表情で眺めた。


 ずっと知っている顔がうつっている。

 見慣れたというより、見飽きた顔だ。

 自分の顔だから飽きたところでどうにもならないし、鏡を見なければ自分の顔なんて見ることはできないけれど。


 長く伸ばした髪をおろしている姿はあまり好きになれない、と思っている。

 目の前の鏡の自分と向き合って、深いため息をつく。


 頭の上の左右を少しだけ結んでもらい、小さなリボンがつけられた。

 普段のアレクシアの姿だ。

 あとは髪のクセが抜ければいつもどおりだ。


 母やエリウスは好きだといってくれるこの姿。

 アレクシアは好きになったことはなかった。


 アレクスの姿になると、気持ちが軽くなるのか表情も少しだけ柔らかくなる。

 好きなものは好き、うれしいことはうれしい、と表情に出てきたとエリウスが言っていた。

 そういうものだろうかと、首をかしげるが生徒会の方々も同じ意見らしい。


 さていよいよお休みの時間かなというところで、部屋のドアをノックする音がした。

 こんな時間にやってくる人は一人しかいないけれど。

 どうぞと言うと扉が開かれて、エリウスが入ってきた。

 彼も寝る支度をすませているので、寝間着になっていた。


「おやすみを言いに来たよ」


 律儀に毎晩言いにきている。

 習慣というか儀式というか。


 普段の姿になっているのを確認すると、にこりと笑む。

 アレクシアをそっと抱きしめて、耳元でおやすみとささやかれる。


「おやすみなさい、エリウス」

「うん、おやすみ。ぼくのアレクシア――」


 お互い顔を見合わせて、もう一度言われた。

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