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男装令嬢のお昼時間

 アレクシアとエリウスは同じクラスで、同じ特別授業を受けている。

 特別授業は成績優秀な生徒や先生のお気に入りの生徒を集めてやる授業。一般的に高度な内容を扱っているのでふつうの成績だとついてはいけない。

 特別授業に出る=成績優秀は間違っていない構図。


 午前中の授業が終わりお昼の合図の鐘が鳴る。

 授業が終わりお昼だ。


 アレクシアは午前中でずいぶん疲れを感じている。

 先輩に足早に校舎まで連れて行かれ自分の受ける教師と会ったと思ったら、先輩の姿はなく。あともう少しだったのでショックだった。

 走らされて体力は使うし、朝の成果は出ないしとアレクシア的に十分疲れる内容だった。

 きちんと授業は聞いたつもりだが、朝の全力疾走のおかげで頭は働かずきちんと理解できたか不安だった。

 知らないことを知るのは楽しいのだが、今日の午前中はそこまで楽しめなかったかもしれない。


 王子としてひととおりのことを学ぶエリウスはそつなく授業は聞いているが、勉学自体にはそこまで興味はない。必要であるからやっている。

 愛しのいとこどのと同じ授業を受けられるので、それだけ頑張っているふしもなくもない。


「アレクス、だいぶ疲れているみたいだけど、だいじょうぶかい」

「……なんとか」


 深い深いため息を吐きながら問いかけに応じる。

 お昼は男装をする前からエリウスとともにしている。

 友人と呼べるひとはいなかった。なかなかさみしいものである。

 取り巻きはいたが、お昼をともにしたことはない。取り巻きは普通の授業を受けていたのもあるが。


「お昼にしようか」


 エリウスが席を立ち、アレクシアもそれに続く。

 特別教室に集まる生徒は勉学熱心なものが多い。

 アレクシアとエリウスの密な関係にはそこまで興味を示さず、軽く視線を送るくらい。

 取り立てて騒がないで眺めているだけかもしれない。



 場所を移動して――食堂に来た。

 先に集まっていた生徒たちは二人を見るなり大いにざわめくが、アレクシアたちは気にせず食堂の特別席へ移動する。

 エリウスのような身分の高いものや、生徒会の面々など許されたものたちの専用席。

 人の喧騒は聞こえてしまうが、人がよってくることはないのでひとまずは落ち着ける。


 アレクシアとエリウスが横並びに座ると、あらかじめ用意されていた昼食が並ぶ。

 エリウス用の特別な食事である。専属のシェフが用意している。アレクシアもそれをいただいている。

 一律の食事とは違いエリウスのために考えられたものだ。特別種類があるわけではないが、一般とは一線を画している。


「先に来ていたか」


 ガタガタと椅子を引いてアレクシアたちの卓に昼食を置く生徒――カロット・マイレウス生徒会長だ。

 おおらかな人でアレクシアが会っている中では体格がよいほうだ。

 その性格のためかより大きく見える気もする。


「会長、こんにちは」

「ああ、アレクス。少し顔色が悪いな」

「今朝いろいろありまして」

「ふむ、今日も朝からがんばっていたようだな」


 がんばっていたことをカロットは褒める。

 武官をよく排出する家の出なので体育会系な思考の持ち主だ。


「昼まで元気でいられるよう体力をつけておかないとな」

「アレクスにそこまで強要する必要はないとおもいますが」」

「それは違うぞエリウス。体力があるとずっと動けるしいいぞ」

「だからアレクスはか弱い……」

「今の仕事が慣れればそこまで疲れないと思いますので」


 不穏な流れになりそうだったので割って入る。

 そもそもアレクシアは女だ。男子生徒のような体力はない。ある程度は鍛えればなんとかなるだろうけど、絶対的な体力差は埋められない。


「時間ができたらアレクスの体力づくりを手伝おうぞ」

「……ありがとうございます」


 エリウスがなにか言いたげではあったが、会話に参加してややこしいことにならずすんだ。

 午前中に何があったとか、午後の授業はとか、放課後の生徒会の活動などぽつぽつと話し、昼休みは過ぎていった。


「アレクス」

「なんでしょうか」


 お昼時間が終わる頃、カロットはアレクシアを呼び止める。

 食事は片付けられ、そろそろ午後の授業の準備で移動しないといけないところだった。

 ちょいちょいと手招きされて彼の目の前に立つ。


「ちょっと失礼」


 カロットは少し屈み自身の手でアレクシアの前髪を上げる。じっくりと顔色を見る。

 前から横から上からとじっくりと。あまりにも至近距離なので見る人が見たらエリウスのときのように誤解されかねない。


 悪気はないと思うのでじっと会長の所作を眺めるほかない。

 エリウスとは違った顔の整いかたで、しっかりとした顔つきである。

 手も鍛えているそれでどことなく人を安心させてくれるかんじがしてしまう。

 手で癒やしをほどこすというのもあるが案外ありえるかもと思える。


「ふむ……」


 ひとりで自問自答しているのか、アレクシアにはなにも問いかけない。

 ただアレクシアをじっと見つめるのみ。

 やがて何かわかったのか、エリウス専属のものに話を始めた。

 なにがなんだかわからず呆然とする。


 エリウスのほうはというと彼が生徒会長でなければ、食ってかかるところだという感じで敵意を剥き出しているようだった。

 アレクシアはまあまあとエリウスをなだめる。


「すまないアレクス。顔色が悪かったので少し気になってな」

「わたしのアレクスに手を出さないでください」


 真顔で他人が聞いたら誤解される言葉を放つ。

 お前のものでもないだろうとエリウスを一瞥し、アレクシアに向き合う。


「普段食べるものを変更してもらうよう頼んでおいた。これで少しは疲れにくくなるだろう」


 食事で体調が悪くなることもあるそうだ。

 アレクシアの食べる食事はエリウスとほぼ同じなので、エリウス専属のシェフに頼めば調整してもらえる。

 疲れやすいのも改善されるかもしれない。


「エリウス、アレクシスによいものを食べてもらいたいのは分かるが、彼に合うものを出すといいぞ」

「――っ、わかりましたよ」


 ではなと元気のよい声でカロットは去っていった。午後の授業に向かうのだろう。

 アレクシアたちも授業の準備をする。


「さっきは会長となにをやっていたのかい」

「なにをっていうこともないけど。わたしを見てくるから見返しただけだけど」

「十分なにかあるよ、それは」

「そう?」


 がくりと肩を落とすエリウス。

 今度はエリウスが元気がなくなりそうだ。

 体力的な問題ではなさそう。

 エリウスはアレクシアの手をつかみ、手を結ぶ。


「できるだけわたしから離れないでほしいな」

「むずかしいことを言わない」

「生徒会に入れなければ、わたしのアレクシアが他の男と一緒にならないはずなのに」

「『アレクス』」


 名前の間違いはすかさず訂正を願いだす。

 あえて呼んだのはわかっていることだけど。

 とはいえ、男装する前より過保護になっているような気はしている。

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