第一章 第2話 新たな仲間
窓の外から日本とは違う、騒がしい音が聞こえて目が覚めた。
「ーーそっか....。異世界転移したんだっけ....。」
異世界に来たのはまだ昨日が初めてで、なんとかギルドを結成することはできた。
とりあえず分かった事は、この世界はゲームの世界などではなく、異世界という名の現実世界で、攻撃を受けると人間界と同じで怪我をする。ただ、人間界と違う事は、緩和措置として、スキルや特性がある。
それでも、誰もが死ぬ可能性があるという事。
さらに、スライム耐性が無い俺は、スライムに攻撃を当てたとしてもスライムには通用しない、逆にスライムに触れただけで致命傷か即死。
俺にとってスライムは幽霊の様に厄介な存在である。
そして、俺は魔法攻撃にも弱い。魔法攻撃にも注意が必要だ。
逆に、ミルクはスライム耐性はあるが、物理攻撃に弱い。
なので、今日やる事はーーー
「俺らをカバーしてくれるタンク役の人を探さないと......」
「ひゃうんっ!」
何やら悲鳴が聞こえた。
見ると、ミルクがオドオドしていた。
「あの、ごめんなさい!怖い夢を見て....。」
この臆病そうな子はミルク。俺をうっかり巻き込んで異世界転移させた張本人だ。まだまだ子どものよう。
とりあえず朝ご飯を食べに、近くのお店に行く事にした。
「ーーっとその前に、種族を獣人(猫)に変更っと」
俺の身体からきゃわわなお耳としっぽがはえる。氷の騎士というだけあってほぼ白い。毛色までミルクと同じような白色に変化した。
「にゃもっ!? これ、イケてるかも!」
「ココアさん、なんで変身したのですか?」
「戦闘時はこの姿になる訳でしょ?だったらこの姿にも慣れないとね!」
なぜか獣人の姿は、人間の姿の時より身体が軽く感じる。
ーーーしっかり慣れないと!ーーー
そして、朝ご飯を食べるため、近くのお店に向かった。
お店に着いた。看板にはこう書いてある。
『魔物料理専門店』
「マジかよ....。どうする?」
「この本には、魔物料理も結構いける!と書いてるので大丈夫だと思います」
ミルクが持っている本には、ほぼ全ての事が記されているようで、ゲームで言うと、順路やトラップの位置まで分かるので、特に苦労することなくボスの部屋まで辿り着けてしまう、攻略本とそういったところか。
簡単に言うと、カンペだろうか。
とりあえず中に入る。
メニュー表にもギッシリと魔物料理が書いてある。
ミルクが本を見て言った。
「この中で美味しい料理は、毒蜂の毒抜きサンドだそうです!」
「にゃも? ポイズンハッチ?詳しく教えて」
「毒蜂とは街を出てすぐの森の中腹の少し開けた場所に生息している生き物で、1匹がとても大きく、しかも群れで過ごしている。その体内には毒のカプセルがあり、その中にはとても上品な味わいの液体があるので、綺麗に毒抜きして、その液体をパンに挟んで食べる料理らしいですよ?」
「蜂蜜サンドみたいなもの?」
「蜂蜜ってなんですか?あっ、調べますね!」
どうやら彼女の住んでいる魔法の世界には蜂蜜という文化が無いようで、ものすごく食い付いてくる。
とりあえずその毒蜂の毒抜きサンドを注文した。
「お待たせ致しました。毒蜂の毒抜きサンドでございます。」
魔物料理と言っても、見た目がカオスではなく、普通のサンドイッチが出てきた。
「うわ〜!美味しそう!いただきます!」
ミルクが早速1口食べた。
すると、目からみるみる涙が溢れてきた。
そして、
「おいっしーーーーい!」
出会ってから初めて聞く声の大きさだった。
「なんです、なんなんですか?この上品な味わいは。ほっぺがとろけそうで、口の中に入ると直ぐに消えてしまう!こんなの初めてです!食べなきゃ損ですよ!早く食べてみてください!はい、あーんっ!」
とてもテンションが上がっている。
俺も1口食べた。
「おい......しい.......。」
それは普通の蜂蜜とは何か違った。蜂蜜よりも甘く、口の中に入ると本当に直ぐに消えてしまう味わいで、凄く感動的な料理だった。
すると、料理人であろうか男の人がこちらに来た。
「美味しいですか?」
「はい!おいっしーーーいです!」
即答するミルク。
「それはどうも。俺の名前はイート。よろしくな。ただ、これももう出せないかもしれないんだよ」
料理人の男性イートさんは何だか残念そうな感じで言った。
俺は聞いた。
「何故ですか?こんなに美味しいのに?」
「まぁ、人気なんだが、毒蜂の討伐はとても大変で、仕入れが追いつかないんだよ。最近は、討伐できる人数も減ってきててな、1日に10匹しか手に入らないんだ。」
「毒蜂の数も多いのですか?」
「奴らは基本、群れで暮らしてる。一筋縄ではいかないな.....。だから今では討伐報酬が1匹50万ヨリの値が付いてる。俺ら料理人も、仕入れの値段が高いと困るんでなー。お客さんに提供する時、今は7650ヨリ、下手すりゃ1万ヨリを超えて、売れなくなるんだよ。」
「そう、なんですか。」
もったいないと思いながらも店を出た。
そして、俺達は壁役を探しにある所へ向かった。
それは、ギルドの管理人のトワさんが教えてくれた、壁役を鍛える協会、タンク協会だ。
ミルクが本を見て言った。
「壁役の方には、ドMが多い。まともなのはほとんど居ないと思えって書いてます」
「ーーー大丈夫なのか....?」
俺は少し不安だった。ゲームやアニメの世界の壁役は変なのが多く、まともな壁役の人は少ない。
もし魔王と戦う事にでもなって、壁役が挑発でもしたら、俺達はただではすまないであろう。
そうこう考えていると公園があった。
可愛い女の人がベンチで寝ていた。
その人の髪はグレーに少し白を混ぜたような色。
長さは肩までのセミロング。
耳が特徴的なのでおそらくエルフであろう。
すると、そのエルフがこちらに気付き、少し低めのトーンで言った。
「ねぇ、さっきから何ジロジロ見てるの?」
そのエルフは瞳の色は、左右で違う。
左目がゴールド、右目は透き通ったブルーの瞳だった。
俺は答えた。
「俺達、タンク協会に行きたいんです」
すると、そのエルフは一気に目付きが変わって、
「はぁ?本気で言ってるの?やめた方が良い。変人しか居ないから。」
やはり本に書いてた通りっぽい。
その女性はこちらに寄ってきた。
背は俺より少し高い。
「妹ちゃん連れて行くような場所じゃないよ?あそこは。 子どものくせにギルドでも結成するつもり?仕方ない、お姉さんが安全な場所まで連れて行ってあげるよ」
「にゃもっ!?俺はこう見えても20歳です!」
「えっ?あたしと同い年? てか、『にゃも』って何?」
何だかものすごくサバサバした人だった。
俺達は自己紹介した。
「俺はココアって言います。『にゃも』ってのは驚いた時とか、んっ?て時とかまぁ、いろいろ使えるんですよ!そんでこっちが・・・・・・」
「あの、ミルク、です。」
俺達は会員証を見せた。
「ふーん。にゃもにゃもうるさい獣人(猫)で氷の騎士と大人しそうな魔法使いさんねー」
「貴方の職業は?」
「えっ?お姉さんの職業?知りたいの?」
同い年だというのになぜかお姉さん目線の人だ。
それでも良いかと思い聞いた。
「教えてください」
「あたしは見ての通り、エルフ族。名前は『カナ』。職業は残念ながら壁役だけど、なんか文句ある?」
「えっ?じゃあ、タンク協会の人?」
「そうだよ。でもお姉さんはあいつらとは違うから。あの変人達と一緒に居るの本当に嫌!そもそも生理的に無理だから!」
確かに、見た感じどちらかと言えば性格はドSな感じがした。
でも、悪い人ではない。
すると、カナさんが言った。
「この国以外にも、いくつかの国があるのは知ってるでしょ?」
「はい」
「どの国も魔王に怯えてるの。だから早く倒さないといけないってのにタンク協会の奴らは攻撃なんて凄く弱い。だからあたしが強くなって、早く倒さないとって思ってんの。でもあいつらはそんなあたしを変人扱いしてくる。オマケこの目が怖いんだとか......。」
それを聞いて確信した。この人には俺達のギルドに入ってもらおうと。そこで言った。
「その瞳、綺麗だと思うよ」
「はあっ?」
「それと、俺達は、魔王を倒すか、和平を結びたいんだ!」
「和平....ね。面白い事言うね。子どもみたい」
「にゃもっ!? 子どもじゃないって!」
「あの、私も子どもじゃないですよ!」
カナは俺達2人を見て呆れた顔で言った。
「和平とかは夢の話だよ?」
「なんで?」
「魔王と魔女王って最強のやつが2人も居るの。そんで、どちらにもものすごく強い幹部が5人ずつ付いてる。合計12人倒すか12人と話し合わないといけないの。倒すならまだしも和平を結ぶために話合いとか、正直無理でしょ?」
確かに正論だった。
それに、幹部が話し合いに応じてくれるとも限らない。
俺はミルクに聞いた。
「今までの人は魔王を討伐してるの?」
「この本によると、幹部でも良いので1人でも討伐できたら元の世界に帰れる....と」
「1人じゃダメだ!戦うにしても和平にしても全員じゃなきゃ!」
「ねぇ、何2人で盛り上がってんの?和平は絶望的。討伐も大変なんだよ?ごっこ遊びや冷やかしなら早く帰りな。お姉さんが送ってあげるから」
俺は意を決して言った。
「あんた、ビビってんだろ?」
一瞬で顔つきが変わった。
「はぁ?どういうこと?お姉さんが?ビビってるって?」
「そうだよ!言うだけ言って自分では全然動かないじゃねーか!」
「っっ!じゃあさ、あんたのギルドはどうなの?たったの2人で勝てんの?」
「はっきり言って俺達は攻撃に関しては強い!だが、防御力が致命的だ!だからあんたに俺達のギルドに入ってもらいたい!」
「ーーーなら、強いって証明してよ?その後決めるから」
「分かった。着いてきてくれ」
俺達3人は森に向かった。
ミルクが言う。
「あの、ココアさん。もしかして毒蜂の所に行くんじゃ?」
「ご名答。」
「えー、辞めましょうよ!私たちまだスキルを試したことすらないんですよ?」
「手始めに丁度いいじゃん。それに選択肢はYESか、はいか、喜んでか、off courseだからね!」
そして、森に入って少し行くとかなり大きな蜂が1匹居た。
カナさんが言った。
「毒蜂じゃん!毒耐性持ってないと死ぬよ?」
「そうですよ!辞めましょうよ!」とミルクも言う。
すると、毒蜂がこちらに気付いた。
「1匹来たら後には引き返せない。駆除開始!」
俺は毒蜂に向かって走った。
向こうもこちらに突っ込んでくる。
こちらにしっぽが向いた。次の瞬間、
「ピュッ」
毒が飛んできた。
俺はジャンプで交わした。
「にゃもっ!?」
何と俺の身体は軽く10mは飛んだ。
とりあえずスキルを試す。
「凍結!!」
手から冷気が放たれ、毒蜂に当たった。みるみる凍りついていく。
「凍結完了!じゃあ、切るね!」
ザクッ。
俺は氷の剣で毒蜂を真っ二つにした。
それを見ていたカナさんが言った。
「ーーあんた、本当に強いんだね....」
俺達は森の中腹に向かった。
中腹の開けた場所に着いて驚いた。
巨大な毒蜂が100匹ちかくは居る。ここが巣のようだ。
「さすがにこの数、貴方にたおせるの?」
俺はミルクを見た。
「えっ?なに、なんですか?ココアさん!なんでこっちを見るんですか?」
「ミルク、唯一無二のスキル、全属性攻撃だ!」
「えーーっ!!使った事ないですよ〜!」
すると、1匹の毒蜂がこちらに気付いた。そして、周りの毒蜂もこちらに気付いた。
「頼むぞミルク!」
「わ、分かりましたよ!やりますよ、やればいいんですよね?」
一斉に毒蜂がこちらに近付いて来た。
ミルクが杖を大群に向けた。
「いきますよ。どうなっても知りませんからね!」
大群がこちらに向かって来た。
「今だ!ミルク!」
「ひゃうんっ!こっちに来ないで〜っ!!全属性攻撃!!」
カラフルな色の光線が大群目掛けて放たれた。そして、次の瞬間、、
ドガーンーーー!!
とてつもない爆風が来た。
「にゃもっ!? 爆風やべぇー!」
俺は爆風に軽く50mくらい吹っ飛ばされてしまった。
ミルクの方はカナさんが支えてくれていた。
2人の元に駆け寄ると俺は度肝を抜かれた。
あの巨大な毒蜂を1匹残らず倒している。
「ゔぅぅぅぅー」
ミルクは泣いていた。
「大丈夫?お姉さんが着いてるからね」
「 カナお姉さん、怖かったよ〜」
そして、カナさんがこちらを見て言った。
「2人のギルドになら入っても良さそうだね。特別に、カナって呼んでくれても良いよ?そうだ、お姉さんのステータス見せてあげるよ」
俺は全ての詳細を押した。
ステータスを見て驚いた。
カナ、ステータスLv10
水の守護者
スキル・威嚇・敵は、戦意喪失し、逃げていく。
スキル・蘇生・目の前で死んだ味方を1分以内であれば生き返らせる事ができる。
スキル・精霊召喚・ペガサスの青、緑、黄色の精霊を3体召喚できる。3体ともやられると再使用可能。
スキル・絶対防御・5分間、物理、魔法による攻撃を無効化する。15分後に再使用可能。
唯一無二のスキル・水の斬撃・攻撃を受けた敵は均等な間隔でバラバラになる。このスキルでほぼ全ての敵を倒せる。
特性・物理、魔法による攻撃を常に3分の1にする。
毒耐性・有り・毒による攻撃を受けない。
スライム耐性・有り・詳細
「にゃもっ!?マジで?俺らよりガッツリ攻撃タイプじゃん...。」
「ちゃんとカバーもできるから、怖くなったらお姉さんの後ろに隠れなさい」
「うん...。スキルも少し多いんだね」
「ステータスが上がればスキルも増やせるからね。常識でしょ?」
「うん.....。」
「えっと、モカ、だっけ?」
「ココアだよ!」
「ココア、貴方ってスライム耐性ないの?」
「ーーそれがどうかした?」
「ーーーふふっ」
カナが笑っている。笑っている姿を初めて見た。そして、こう言った。
「スライム耐性無いって人、初めて見た。そんな人居るんだね〜。スライムが出てきたら直ぐにやられちゃうだろうから、お姉さんの後ろに隠れなさい!」
「.................。」
俺は何も言葉が出なかった。
とりあえず討伐した約100匹の毒蜂をギルド協会に報告した。
すると、報酬金として、5千万ヨリが手に入った。
「よし、こんだけあれば家が購入できるな!」
「2日目にしてマイホームですね!」
「あのさ、」
俺とミルクはカナを見た。
カナは何だか恥ずかしそうに言った。
「あたしも、一緒に行って良いのかな?」
ミルクがカナに抱きついた。
「もちろんですよ!お姉さん!」
「仲間になったんだから家族みたいなもんでしょ?」
俺も照れながら言った。
「モカ、ミク、ありがとう」
「ココアだよ!」
「ミルクですよ!」
「2人とも、カナお姉さんが面倒見てあげるからね〜」
「だから、同い年だろ!」
3人で街に戻った。
これからは家探しをしなくてはならない。
今回も読んで頂き、ありがとうございます。
これからも書いていきますので、少しでも気になった方、感想や、評価、ブックマークなどよろしくお願い致します。