第一章 第11話 アイドル勇者『Masaka』
俺達は、アイドル勇者ギルド『Masaka』の元へ行く事にした。
その場所が、『海山城』という、海なのか山なのかよく分からない場所だ。
アイリスさんとアゲツネさんの話だと、そこはお城で、お堀には水があるという。
町外れの山へ着く。本当にこの辺は田舎だ。
その山は、さっきの山と違って、空気が美味しく、気分も晴れる、身体も軽く感じるようなスピリチュアルな山だった。
小鳥や他の動物の鳴き声がする。
自然のオルゴールの様な場所だ。
その山を登る。すると、開けた場所に出た。
そこには、アイリスさんやアゲツネさんが言った通り、お城で、お城までは1本の道があり、その周りは水で覆われていた。
「ここが、海山城....。こんな所に住んでるのか.....。さすがだな」
1本しかない道を進むと、上の方から優しい声がした。
「来てくれたんだね。今、門を開けるよ」
それは、緑髪の爽やかな見ためで優しそうなエルフの人だった。
その人を見てアイリスさんが声を掛ける。
「あーっ!『ウィン』さん!」
「あれ、アイリスちゃん?ライブお疲れ様〜。皆、中に入って」
その爽やかな見た目で優しそうな人は『Masaka』のメンバーで、『ウィン』さんというらしい。
その『ウィン』さんがこちらに来た。
「君がギルドマスターのココア君だね」
「あ、はい!」
「僕はウィン。よろしく」
「よろしくお願いします!」
とても爽やかで良い人だった。何故か見とれてしまう。
その『ウィン』さんが話してくれた。
「あの貼り紙を書いたの、僕なんだ」
「にゃも!?『ウィン』さんだったのですか?」
「そうだよ。僕達も君のギルドの事が気になってね」
「そーだったんですか?でも、何でこんなギルドが気になるんですか?貴方は勇者ですよね?」
そんな事を話していると、分厚い扉の前に着いた。
『ウィン』さんがそれを開ける。
中には、ライブの時に見た『オルフ』さんと、もう1人、髪色が紫で、角と尻尾がある、背の高い魔族の人が居た。
「紹介するよ。まず、僕らのギルドマスター、『オルフ』」
「あの、初めまして、ココアです」
「ああ!よろしくな!」
とても明るく、強そうな人だった。
「そして、こっちが、『ダンシャク』」
「にゃも!?は、初めまして、ダンシャク様」
「いや、私は名前がダンシャクというだけだ。様など付けなくて良い」
「まぁ、ファンの娘達はダンシャク様って呼んでるけどね」
ダンシャクさんは肌が白く、背もかなり高い。オルフさんとは真逆で、冷静沈着そうな人だ。
そして俺は本題に入った。
「あの、何で俺らを呼んだのですか?」
「僕ら3人が、君達に興味があるから。」
「一体、何が気になるのですか?」
「それは、私が答えよう。アイリスはかなりの有名人。そのアイリスがアイドルギルド『海心』を辞め、君のギルドに入ると言った。私も含め、ここに居る3人ともが何故だろうか?と思った。特にオルフは、アイリスをライバルとして尊敬もしていた」
「それで僕が貼り紙を貼りに行ったんだ〜」
ダンシャクさんとウィンさんが丁寧に答えてくれた。
俺はオルフさんを見た。
オルフさんが話し出した。
「さっきダンシャクが話した通りで、俺は、アイリスを良いライバルとして尊敬していた。そのアイリスがお前らのギルドに入ると言った。その時俺は思った。まさか、隠れた逸材なんじゃないかと。だから、ここに来てくれるなんてラッキーだ。早速試させてもらう!」
「試す?一体何を?」
「本当にアイリスが入りたいと思う程のギルドか、ギルドマスターなのかをな!」
オルフさんの話がトントン拍子に進んで、俺とオルフさんで簡単な模擬戦をする事になった。
なんだか広い部屋に連れていかれた。
そこは、まるで市民体育館の様な部屋で、広いスペースで、その周りには、観客席が沢山ある。
オルフさんが言った。
「この部屋では、スキル及び特性が全て無効化される。もちろん、武器も使えない。拳、足、とにかく格闘でしか勝負する事ができない。この空間でお前がギルドマスターとしてふさわしいかどうかを試させてもらう!」
皆は、席に座っている。呑気なものだ。
すると、『ウィン』さんがこう言った。
「オルフは戦闘時も格闘だから、正直、君には厳しいかもしれない」
ダンシャクさんも続けて言う
「オルフの強さはこの国では断トツだ。わざわざオルフの急な思い付きの、たんなる気まぐれに付き合わなくても良いぞ」
(そっか、この人達は俺が格闘の方が強いって事を知らないのか....)
「大丈夫です!頑張ります!」
「良し!ウィン、審判をしてくれ!」
「ココア君、本当に大丈夫かい?」
「はい!」
「それなら.....、よーい、始め!」
俺は組手の構えをした。右利きなので、左足を前に出す。両手で顔面ガードをする。
「見た事ない構えだな!行くぞ!」
スピードがかなり速い。でも何故か右のパンチが来るというのが分かった。
「決まったな」
「決まったね」
ダンシャクさんとウィンさんの声が聞こえた。でも、
「ニャッ」
「何!?」
「「「「「!?」」」」」
俺は軽く半身を切って技を避けた。
「凄い。あの一撃でだいたいの人は倒れるのに!」
「ああ、かなり期待できるな」
皆驚いている。
それに、正直、捌いて反撃も出来たが、まだオルフさんの実力が分からない。
「ふんっ!」
今度は左の蹴りが飛んできた。
受ければ吹っ飛ばされると思ったので、それはステップで綺麗に交わした。
先程のパンチもそうだが、波動のようなものが出てるのではないかと思う程の威力だった。
「この人、強いっ....」
「お前、結構余裕そうだな!」
「オルフ、結構焦ってるね」
「まぁ、自分の得意な格闘で、しかも最初の一撃が決まらなかったからな」
すると、オルフさんが高く跳んだ。
「狼落とし」
「オルフ!それは流石に・・・」とウィンさんが言った。
多分、かかと落としだと思ったので、ギリギリまで引き付けて避ける事にした。
「!?何故避けないのだ?危険だぞ!」ダンシャクさんも心配している。
そして、オルフさんが勢い良く降りて来た。
「にゃんとこせっ!」
俺は後ろに跳んだ。すると、本のコンマ何秒後だろうか。
ドーーーーーーン!
部屋が揺れた。
「おっとっ、危なっ!」
「まだまだ行くぜ!」
「...マジですか.....」
「狼乱射!!」
かなり強烈な威力の連続パンチが飛んでくる。
流石に全部は捌ききれない。でも大丈夫。
戦ってみると分かるが、右レバーや、顔面、溝落ちなどの急所に入らなければ、あとは意外と耐える事ができる。
なので、必要最低限だけガード。それ以外は軽く避ける。
ドドドドドッ!
「何故避けねぇ?」
「・・・避けきれないです」
(スキル無しでこれは反則だろ。やっぱ獣人の中でも狼だから強いのか....。)
「オルフ、やり過ぎだよ」
「その辺にしておけ」
すると連打が終わった。
生身の状態でこの威力、この速度、正直強い。
でも怯んではいられない。
「じゃ、次は攻めますね」
俺はステップを使って、右へ左へ移動した。
「・・・なんなんだ、その動き・・・」
俺はオルフさんに近付き、
「ワンツーロー!」
ドスボスパーン!
気持ちいいくらいに決まった。
すると、オルフさんが戸惑ったかのように、動きが一瞬止まった。
俺はオルフさんの顔面目掛けて・・・
「上段回し蹴り!」
「辞めーーっ!」
「にゃも!?」
危ない、蹴りこんでしまう所だった。ギリギリオルフさんの顔の前で止める事ができた。
オルフさんだけじゃない、この場にいる全員が驚いた表情をしている。
「お前、強いな! ビリビリってきたぞ!」
「いや、そんな刺激はないですよ。それに、オルフさんとまともにやると勝てないですよ」
「嘘つけ!そんなに強いのに騎士なのか?」
「あー、騎士になったのはまだ10日程度で、それまではずっと格闘でした」
まぁ、武器など使えない日本では日常で使えるのは格闘しかないけど。
すると、ウィンさんとダンシャクさんが降りてきた。
「ごめんね。オルフはこういう性格だから許してあげて」
「わざわざオルフのたんなる思い付きの気まぐれに付き合ってくれてありがとう。ギルドメンバーとして礼を言う」
「あ、いや、全然、大丈夫ですよ」
「まぁ、オルフはふさわしいかどうかじゃなくて、本当は君と、戦ってみたかっただけだから」
とウィンさんが言った。
「そーなんですか?」
「それと、オルフはアイリスの事が好き・・・」
「おい!ダンシャク!それ以上喋るな!」
「・・・・・・にゃも?」
「お前も聞かなくていいから!終わり終わり!今日はありがとな!」
「あはは、オルフ、照れちゃった〜」
「まだまだ子どもという事だろう」
「俺は子どもじゃねぇ!!」
「1番最年少ではないか」
「そーだが子どもじゃねえ!」
そして、ミルク達も降りてきた。
「ココアさん!流石でしたね!」
「モカ、あんた騎士辞めたら?」
「私の目に狂いは無かったようですね」
「確かに強かった」
「そりゃどーも」
俺達が帰ろうとしたその時、オルフさんに質問された。
「ココア!」
「名前!?」
「いや、まぁ、お前のギルドはどういうギルドなんだ?なんの目的の為のギルドなんだ?」
「魔王の討伐、もしくは和平を結ぶ為のギルドです」
「ははははっ。お前、やっぱ面白いな!」
めちゃくちゃ笑っている。
そんなに変な事を言っただろうか?
「なら旅に出る時教えてくれ!俺達も同行する!」
「・・・アイドルは、どうするんです?」
「俺達はアイドルでもあり、勇者でもある。だからその間は、アイドルとしては休業だ!」
「・・・・・・頼らせていただきます!」
「おう!」
「オルフはアイリスの事が心配なだけだ」
「おい!ダンシャク!」
「ココア君、またね」
「ちゃんと頼ってくれ」
「はい!それでは失礼します」
3人を後にしてやっと帰る事になった。
帰り道俺は皆に話しかけた。
「いや〜、ギルド『Masaka』の人達、風格あったな〜。貫禄?なんか凄くなかった?」
「はい!凄かったです!特にオルフさんがアイリスさんの事がす・・・」
「辞めろミルク!」
俺は急いでミルクの口を塞いだ。
「でも、モカも負けてなかったよ....。かっこよかった」
「あら、カナさん、顔が赤くなってますよ?」
「アイリスさん、余計な事言わないでください」
「もー、アイリスはそーいうとこ反応するよね〜」
(あれ、話、脱線してる....。)
とりあえず今日の収穫は・・・・・・・・・
1、アイリスさんが反則級の聖剣、エクスカリバーを持っている。
2、アゲツネさんもそこそこ強い。
3、ギルド・Masakaの人達が魔王討伐か和平を手伝ってくれる。
4、オルフさんはアイリスさんの事が〇〇!
以上が今日の収穫。
またぶっ飛んだメンバーが増えた。
俺みたいな異世界の人間がこんな凄い人達をまとめられるのだろうか。
正直、自信を無くす。
そして、帰り道、アイリスさんが急に・・・
「あーーっ!!」
「アイリスさん、どうしました?」
アイリスさんの目線の先には、
『ペットショップ』
「ペットショップ?」
「はい!昔から飼ってみたい動物がいて!」
近くに行ってみると、そこにはこう書いてある。
『きゃわわな犬、きゃわたんな猫、きゃわたそなスライム売ってます。』
俺とミルクとカナは最後の文字を見て言葉を失った。
「「「...........。」」」
それと同時に嫌な予感もした。
「あの、もしかして、アイリスさんが飼いたい魔物って....」
「中でゆっくり見ましょう!」
アイリスさんに手を引かれて中に入った。
そこには本当に可愛い犬や猫、そして、かわいい?スライムがたくさんいた。
アイリスさんが店員さんに話かけて、何か手に持って戻ってきた。
「可愛くないですか!今、流行りの豆粒スライムです!」
そして、そのスライムを俺の肩に乗せた。
「「あーーっ!!」」
ミルクとカナが止めようとしたがもう遅かった。
〜〜〜〜〜〜※※※※※※※※※〜〜〜〜〜〜
どのくらいの時間が経っただろう。
苦い思い出が蘇る。
そして俺も蘇る。
「ココアさん!大丈夫ですか?」
「お、お客様、大丈夫ですか?」
アイリスさんと店員さんが心配していた。
「ココアさん、ごめんなさい!あなたにスライム耐性が無いの知らなくて....。本当にごめんなさい」
「あ、いや、大丈夫ですよ」
「なので私、豆粒スライムと浮遊スライム、虹色スライム、巨大スライム、枕スライム、ノーマルスライムお手玉スライムなど、飼うの辞めます!」
「どんだけ飼うつもりだったの....」
「なので、代わりにこの子を飼っても良いですか?」
それは、真っ白な普通の猫だった。
「この猫ちゃんなら、ココアさんと毛色が一緒なので、直ぐに仲良くなれるのではないかと思ったのですが。それに、この猫ちゃん、スライムを直ぐに見つけ出す事ができるみたいなのですが、いけませんか?」
そんなに可愛い声、可愛い目をされたらもう断りきれない。
「俺の負けです...」
そして、今日の収穫が2つ増えた。
白猫と、アイリスさんはスライムマニアだったという事。
こうして、5人と1匹のそこそこのギルドになった。
なんだかんだ、白猫は俺の良い相棒になってくれそうだ。
今回もありがとうございます。
次話は、もっと楽しんで頂けるように、番外編になります。
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