第一章 第9話 異世界アイドルの卒業ライブ
「「「ガヤガヤ」」」「「「ワイワイ」」」「「「ザワザワ」」」
今日は外がいつも以上に騒がしい。というか、うるさい。
朝は静かに寝させてもらいたい。
「モカ、早く起きて」
「ココアさん、起きてください!」
家の中の2人もテンションが高い。
それもそのはず。
今日はあの人気アイドルギルド『海心』のメンバーのアイリスさんが卒業ライブを行う日だ。
それでも限度があるだろう。
「「「「ワイワイ」」」」「「「「ザワザワ」」」」
「........うるさい.......」
「モカ、早く行くよ」
「もう!?」
「当たり前でしょ。良い席が取れなくなるよ?」
「そーですよ!ココアさん、急いでください!」
2人に急かされて、早く行く事になった。
会場に着くと、もう既にお客さんで溢れかえっていた。
「・・・いや、マジで?」
「兄貴〜」
どこからか声がした。
この声は・・・・・・
俺は声の方向を見た。
「やっぱり兄貴でしたかー」
「楽しみですよね〜、分かりますよその気持ち!」
「出たー、変態ドM2人組み。ドM態」
「ぐへへっ、悪口を略すなんてさすが兄貴〜!」
「どこまでもついて行きます!」
「着いてくんな」
というか、本当に驚きだ。
卒業ライブは今日の19:00から始まる。今は朝10:00だというのにもう所狭しと人が居る。
すると、ギルド協会の管理人のトワさんも居た。
そのトワさんと目が合うと、トワさんが直ぐにこちらに来た。
「おはようございます。ギルド・ミルクココアさん」
「あ、どうも」
「あの、アイリス様からこういったものを預かっておりまして、こちらをお渡し致します」
それは、今日のライブの事が書いてある紙だった。
そして、文の下の方に、
『特別席を御用意しています。』と書いてあった。
「特別席?」
「はい。ステージから1番近くの、あの場所でございます」
それは1番前だった。朝早くから来てる人に申し訳ない。
それを一緒に見ていたガウンとゲインが何故か俺を見ている。
「兄貴〜」
「兄貴〜」
俺達も一緒に良いですか?とでも言わんばかりの顔をしている。
「カナ、ミルク、こいつらも一緒で良いか?」
「お姉さんは別にいようがいまいが気にしてないよ」
「私はどちらでも大丈夫です!」
「仕方ない、2人も来・・・・・・」
「行きます!」
「ありがとうございます!」
俺が喋り終わる前に返事が返ってきた。
俺達5人は、1番前の特別席とやらに行った。
そこはステージから本当に近く、握手が出来る場所だとか。
でもまだ昼前だ。あまりにも時間があり過ぎる。
「てか、朝何も食ってないから腹減ったわ」
「いろんな屋台があるから行く?」
「行く!」
ガウンとゲインを残して、俺達3人は屋台へ向かった。
アイリスさんの卒業ライブと言うだけあって、屋台も豪華だ。
前に討伐した『ユウウツボ』の唐揚げや刺身なども売っていた。
どの屋台にも行列が出来ている。
すると、カナが、
「迷子にならないようにお姉さんが手、繋いであげようか?」
確かにこの人数、ただでさえ大勢は苦手だ。それに、この異世界にはまだ慣れていない。
「あ、じゃ、お願い」
手を繋いでもらった。カナは顔が少し赤くなっている。
ミルクは目で何かを訴えている。
今日は討伐の事を考えなくて良いので気が楽だ。
屋台を転々として、やっと昼過ぎになった。
それでもまだ12:30。
あと7時間、どうやって過ごそうかと考えていた。
「これなら、午前中、討伐依頼でも引き受けた方が良かったな〜」
午前中に暇つぶしがてら、討伐をして、帰ってきたらちょうど良い時間になっていたのかもしれない。
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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
なんだかんだ夜になった。
ガウンとゲインと合流して、特別席に着いた。
この国の人全員が来てるのではないかと思う程、沢山集まっていた。
そして、
「「「キャーーー!」」」「「「アイリス様〜!!!」」」「「「アイリン!!!」」」
海心とアイリスさんが登場した。
アイリスさんが話す。
「皆さん、今日は私の為にわざわざお越しいただき、
本当にありがとうございます!」
「「「辞めないで〜〜!!!」」」
「「「アイリス様〜〜〜!!!」」」
「「「アリスちゃん!!!」」」
「私の我がままを受け入れてください。」
「「「アイリス様〜〜〜!!!」」」
「私が卒業しても、海心が無くなる訳ではありません。これからも、アイドルギルド、海心をよろしくお願いします!」
「「「キャーーーーーーー!!!」」」
「それでは、卒業ライブを始めます。聞いてください。『カイシン!』!」
パーーンッ!
ライブさながらの演出だ。すごい迫力がある。
会場は大盛り上がり。
気分が悪くなりそうなくらい、来ている皆の声が大きい。「空手の全国大会より迫力あるな....」
アイリスさんや、海心、他のアイドルギルドを見ていると、自分が凡人の様に思えてきた。
まぁ、凡人だけど。
異世界で英雄に慣れるだとか、都合のいい事は起こらない。
2時間にも及ぶ卒業ライブも、次が最後となった。
「それでは、最後になります。」
「「「終わらないでくれっ!!!」」」
「「「辞めないで〜!!!!」」」
隣にいるガウンとゲインも気持ち悪いくらい泣いている。
アイリスさんが言う。
「この曲は、海心として、最後に唄う曲です。それでも、私は、アイリスは終わりません!」
「「「「キャーーー!!!」」」」
「それでも聞いてください。『貴方は誰を想っていますか?私はあなたを思っています』!」
すると、他のアイドルギルド、『秘めた力』、『Meisou』、『Masaka』の全ギルドが集まった。
「「「「ギャーーーー!!!」」」」
皆、興奮しすぎて悲鳴になっている。
大盛況でライフが終わった。
そして、アイリスさんが前に出る。
アイリスさんにだけ、スポットライトが当たっている。
「皆様、1つ報告があります」
周りの人や、海心のメンバーすら、ザワザワしている。
「私は、海心を卒業して・・・・・・」
すると、何故か俺らのいる特別席にスポットライトが当たった。
「私は、ギルド・ミルクココアに加入します!!」
「にゃも!?」
「えーーーっ!」
「うそ、でしょ?」
「兄貴達の」
「ギルドに入る!?」
一瞬のどよめきの後、会場の全員が声を出したであろう。
「「「「「「えーーーーーーーーっ!!!!!!」」」」」」
地面が軽く振動を起こすほどの声だった。
俺はアイリスさんに聞いた。
「どういう事ですか?俺のギルドに?」
「はい。あなたがたは、信用出来ます。それとも私は邪魔?な存在でしょうか?」
「えっ、いや、あのっ、そのっ、パニックだ...」
自分の身に何が起こっているのか分からないほど、頭がいっぱいになっていた。
「私は、ギルド・ミルクココアに入れませんか?」
「ねぇモカ、もちろん・・・だよね?」
「ココアさん、選択肢は・・・ですよね!」
俺は何とか意識を取り戻し、気合いを込めて言った。
「返事は、YESかはいか喜んでかoff courseです!!断る理由がありません!」
「という、事で、皆様、我がままではありますが、私はギルド・ミルクココアに加入します!!」
一瞬の沈黙の後、拍手喝采が起こった。
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「「「おめでとうーーーーーーー!!!」」」
「「「お疲れ様〜〜〜!!!!」」」
「「「アイリス様!ありがとう〜〜〜!!!」」」
後ろにいた『Masaka』のメンバーの、オルフさんと一瞬、目があった。
そして、卒業ライブが終わった。
アイリスさんのおかげでまた有名人になってしまった。
帰りたいのに、会場にいる人達が俺達の元へ駆け寄って来る。
「よし!ガウン、ゲイン!仕事だ!」
「はい?」
「なんでしょう?」
「俺らに道を作って!俺らの壁になってくれ!」
「おやすい御用ですよ!」
「任せてください!」
ガウンとゲインはとても扱いやすい。そして、ドMなので、喜んで壁になってくれる。
こんな事、さすがにカナはしないだろう。
というか、こんな事、させたくない。
「ぐへへっ、兄貴が通りまーす!」
「ぐふふっ、退いてくださーい」
「流石に、キモイわ....」
やはり、ガウンとゲインは変態ドM2人組み。
略して『ドM態』だ。
何とか会場の敷地から出る。
出たものの、後ろを着いてくる人が多い。
「ガウン、ゲイン、こいつらを通さないようにできる?」
「分かりました!スキル・シールド!」
「スキル・ウォール!」
まさか、結構役に立つ『ドM態』だった。
1人として通さない。
「じゃあ、よろしく!ドM態!」
頑張ってくれる2人を後にして、俺達3人は家に帰る。
「はぁー、疲れた。何でこうなる?」
「とにかく、あたし達はアイリスさんに気に入られたって事でしょ?」
「これからどうするんですか?」
「そーだなー。ドM態のガードも、時期に切れるし、一気に押しかけて来られても困るしな〜」
「アイリスさんがここに来たらどうするつもり?」
「確かに、あんな凄い人がここに来たら、毎日の様に大勢の人達がここへ来ますよ?」
「その時はその時だ!よし!寝よ〜」
コンコン。ドアが鳴る。
一息着くのもつかの間、誰か家に来た。
ゆっくり扉を開ける。
「こんばんは」
そこには、アイリスさんと、かわいい少女が居た。
「アイリスさん!?・・・と、隣の少女は?」
「あ〜、この方は、アゲツネさんです」
「「「えーーー!!!」」」
俺が知ってるアゲツネさんは、盗賊で、言ったら悪いが、汚い格好をしていた。
それが、見違えるほどに綺麗な少女に変わっていた。
「アゲツネさんは、私の先輩ですからね。可愛いのは当たり前です」
俺は疑問だった。さっきまで卒業ライブの会場にいたはずのアイリスさんがもう、ここに来ている。
なので聞いた。
「あ、そーなんですか。所で、何でここへ?」
「今日は御迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした。今日は挨拶に伺いました。詳しくは、また明日、改めてお話致します」
そう言ってアイリスさんとアゲツネさんは帰っていった。
「メンバー増える流れ?」
「でもアイリスさんだよ?良いじゃん」
「いったい、どういう方なんでしょう?」
「んー、考えてもしんどいし、今日は寝よ。早く寝て頭を整理しよう」
「モカの言う通り、確かにそれが良いかも」
「そーですね!それじゃあ、おやすみなさい!」
本当にいつも忙しい。
なんだかんだ、異世界では有名人になったかもしれない。
それに、明日また来るという事になっている。
正直、俺は静かに魔王討伐もしくは和平に向かいたいのだが......。
今回も読んでいただきありがとうございます。
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