プロローグ1 人間界編
プロローグ1は主人公の紹介みたいなものなので、読まずに本編に行っても大丈夫です!
11月の下旬。今日は『極真空手道選手権大会、全国大会』の決勝戦の日だ。
見た感じ、家に引きこもっていそうな細身の青年が、とてもガタイの良い、強そうな人達が集まる会場に胴着姿で紛れていた。
「ーーみんな強そうなのに負けたのか......。」
俺の名前は向島心愛
適当に生きていればどうにでもなる現代に生きる青年だ。
アナウンスが流れる。
「※ただいまより、第〇〇回極真空手道選手権大会、全国大会決勝戦を行います」
俺の身長は159cm、体重は47kgと女子並みに小さい。
そんな俺に対し、対戦相手はぼぼ全員が俺よりデカくて、年齢も歳上ばかり。趣味欄には極真空手と、デカデカと書いている。
「・・・・・・本当にデカいな.....。」
選手の名前が呼ばれる。
「紅、向島心愛」
俺は吸っと息をすい、気合いを込めてーー
「オスっ!!」
コートの真ん中に行く。
「白、瀬野剛」
「オスっ!!!!」
相手は『俺の方が強い』と言わんばかりの顔でこちらを見ている。
対戦相手も真ん中に来た。
主審が気合いを込めて言った。
「正面に礼! 主審に礼! お互いに礼! 構えて、初め! 」
試合が始まった。
やはり、相手も決勝戦に来るだけあって物凄く強い。
試合は、1ラウンド2分間。
なかなか勝負が決まらず、延長戦、再延長戦、再々延長戦にまでもつれ込んだ。
お互い息が上がっている。
そして、再々延長戦が始まってわずか3秒後ーー
パーン!ドタッ
「「「「ピーーーーーーッ!!!!」」」」
相手の頭に俺の蹴りが炸裂した。
主審が言う。
「判定を取ります!判定!!」
「「「「ピーーッッ!!!!」」」」
紅の旗が一斉に上がった。
「紅、1、2、3、4、5、紅、上段回し蹴り1本!」
相手はその場に倒れ込んでなかなか起きることが出来ない。そして、何とか立ち上がる。
最後の挨拶ーー
「正面に礼!主審に礼!お互いに礼!握手」
対戦相手の剛さんが小声で言った。
「強かったです。ありがとう」
アナウンスが流れる。
「※ただいまの判定は、紅、向島心愛さんの上段回し蹴りの1本勝ちです」
優勝が決まった。
この、極真空手とは、相手の肋を折ったり、折られたりと下手をすれば死んでしまう武道である。
そもそも空手を始めたのは5歳の時。
あまりにも小柄でひ弱だったという理由で親に嫌々行かされたのを覚えている。
「ーーもう15年のキャリアか〜」
そして、インタビューの時間。マイクを向けられる。
「向島さん、おめでとうございます。今回も優勝ですがいかがでしょうか?」
「えっと、嬉しいです」
「極真空手のちびっ子達に何か一言お願い出来ますか?」
「えっと、僕が思っているのは、極真空手は武道です。スポーツとは違います。日々の稽古が大切です……」
本当に柄にもない事を言った。
表彰式が行われた。トロフィーを貰う。
表彰式が終わりシャワールームへ急いだ。
サッとシャワーを浴び、グレーのスウェットに白のパーカー、黒のジーパンへ着替えた。
会場の外に出るともう日が暮れ始めていた。
今日は、俺の通っている道場の生徒全員で、俺の全国大会優勝パーティーを開いてくれるそうだ。
会場はホテルで行われるらしい。
ホテルまでの途中、階段に腰をかけ、夕日を見ながらボソッと呟いたーー
「はぁー。本当は、外になんか出たくないのに.....」
すると、何やら奇妙な黒い闇のような影が俺を包み込んだ。
「にゃもっ!? アニメ的展開? てか、普通にピンチかも!」
その渦は、ものすごいGがかかる。
身体が潰れそうだ。
「..............酔う.....」
そして、向島心愛は黒い渦とともに消えた。