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物語2・25

 人生どうにもならないことはある。

 こんなに魔法が溢れていても、降っている雨を止ませることはできないし、暑いからといって太陽を破壊することもできない。

 というかそんなことしたら人間死ぬ。


 事前調査は今年に入って二十二回目になる。

 頻度を考えたら去年より多く、下調べが必要なのはきまって危なそうな依頼なので、多いというのはまったくもって望ましくない。減ればいいのに。

 魔物の出現、被害もあれやこれやも去年のほうが断然多いのに何故なのか。

 しかも全部、鋼山関連。


「いい加減この鋼山を立ち入り禁止にできないの? で・き・な・い・の?」


 鋼山のふもとで、ゾゾさんが男性騎士に詰めよっていた。

 ふぅ、日差しが暖かい。

 いい天気だ。


「これ去年も一昨年もその前の年にも言ったはずよね?」

「それはごもっともなのですが……色々事情が……」

「そんなのわかってるわよ。ふんっ、ただの八つ当たりよ! なによ八つ当たっちゃダメの!? 八つ当たるだけで済むならいいじゃない八つ当たったって!」


 潔い発言に感服する。

 あんなハッキリと八つ当たりを八つ当たりだって言う人いるんだな。


「みんなどこ行っちゃったんでしょうね」


 人生どうにもならないことはある。

 例えばそう、鋼山は立ち入り禁止にできない、とか。

 黒い木と灰色の木が生えそろっている、鋼のような山。

 空気は淀んでいて視界も悪い場所なのに資源がやけに豊富で、しかも魔物もいて、それで依頼が入って、という、言うなれば経済をまわす金の山。

 魔石のこともあり、原石を探そうとする人も最近は多い。

 そのせいで迷子、行方不明者続出。

 依頼も続出。

 ハーレは現状確認のため事前調査に出動。

 手に負えないので騎士も出動。

 規制をかけても無断侵入での行方不明やら魔物による負傷やらで今以上に世話がやけるだけで何にもならないし、この山で生計を立てている人もいる。

 むしろ立ち入り禁止にしてほしいと心から思っているのは、私たちのような職業に就いている人間くらいだろう。

 鋼山の所有者はおらず、ドーラン王国の領土内ではあるものの、今のところ誰も管理はしていない。

 皆の山、という扱いだ。

 だから国が規制したところで破った人間に罰はないし、まったく意味はない。

 昔は所有権があり王族が管理していたが、それはそれはとんでもなく管理が大変でお金も相当かかり面倒臭いとなり、すぐさま放棄。

 それ以降誰も所有権を欲しがらず無法地帯になり現在に至る。


 王族が、お金がかかる! 面倒くせぇ!

 と言うのだから誰も所有なんてしたくないだろう。

 

「退魔の魔法陣を敷いたので、当分はご安心ください。行方不明者については、引き続き破魔士にお願いしましょう。迷子が多いというだけで、無事に見つかることがほとんどですからね」


 第一小隊のメノン・マウェリという男性騎士が、腰を屈めて微笑む。

 今日は騎士団第一小隊の隊員一名と共に行動をしている。

 鋼山の状態改善を国が行なうということで、実際の現場を見るためにハーレからゾゾさんと私が派遣された。

 鋼山は誰の所有物でもないけれど、勝手に山へ手を加えることはご法度なので、破魔士であっても持続的な退魔の魔法陣を敷いて山の安全を確保しようとするのは許されていない。

 事故や人災があったときの責任のありどころがあやふやであり、責任を問う所有者もいないので、その部分だけは国が定めている。


「でも神殿の修繕の報酬金額が良くて、腕の良い破魔士が今はそっちに行ってるんですよね」

「けっこう作業に時間をかけているとか」

「できれば長引かないでほしいんですけど」

「また何かあれば協力しますから、遠慮せずに仰ってください」


 物腰柔らかで優しい言葉をかけてくれるマウェリさんに、今朝方『この兎鳥色女が! 串焼きにでもなって食いちぎられろ!』と酔っ払った破魔士から暴言を吐かれたばかりの私の心がジャブジャブ洗われる。

 あの破魔士を串焼きにしてやろうかと考えていた私は今、浄化された。


「本当に助かります。……さーて、あとは東の森の湖ですね」

「やだ帰りたい!」


 職員の間で風邪が大流行、現在ハーレは壊滅的な人手不足中。

 ヤダヤダ駄々をこねるゾゾさんは、今日で十連勤目。

 そりゃ駄々もこねるし八つ当たりもする。


「じゃあ魔法陣でパッと行きましょう」


 女神の棍棒を構えて説得。

 うん行く、と即答したゾゾさんが眠たそうに目を擦って腕に抱きついてきた。

 私も今日で七連勤目。


「我々はなぜこんなにも健康なんでしょうか」


 あと三日で自分もこうなるのかと思うと、今から憂鬱である。

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