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物語・6

 緊急会議と称された「ゾゾお見合い大作戦」なるものが開かれた。

 場所はハリス姉さんの部屋で、室内には人数の関係で十人にしぼられた恋愛の達人達が会議の中心にいた。終始赤い顔をしていたゾゾさんは心身ともに疲れはてたのか、今はげっそりした表情になっている。

 私は恋愛の達人ではないものの、貴女もしっかり見ておきなさいと先輩に言われたので、場違いだけれど部屋に入る許可をいただいた。

ゾゾさんのことはかなり気になるけれど私がそれを見たとしていったい何の勉強になるのだろうか。なんてとぼけたことは言うつもりはない。絶対に奴……彼とのことを言われているんだと思う。


 あああ、もうそんなこと今はどうでもよくって!


「お見合い? そんなことしてどうするのよ」

「私はあくまでも、単純にお見合いをこう……気軽に? 親の言うことも一度くらい聞いてあげようかなーって」


 ゾゾさんよりも先輩である女性陣がぐいぐいと彼女に詰め寄っていた。十人それぞれが根掘り葉掘り職質をかけているような姿は圧巻である。

 皆人の恋路となると張り切りようが凄まじいな。

 

「ご両親の望みは結婚だけれど、一番はゾゾに素敵な人ができることだと思ってるわよ。娘を持つ私が言っているんだから間違いないわ」

「そうそう。だからアルケスにもっと積極的になればいいじゃないの」


 だからなんで知っているんだとまた真っ赤になるゾゾさん。


「好きになったのはいつ?」

「だ、だからなんでそんなこと」

「アルケスだいぶ歳上だけど大丈夫? ジジ専?」

「歳は関係ないわよ!」

「やっぱり能力高い所に惹かれた? なんでも出来るものねぇ」

「能力が高くなくてもあの人格好いいんです!」

「格好いい?! あらもう正直だわ~!!」


 ニヨニヨ顔で見てくる先輩達にゾゾさんが圧倒されている。口走った言葉を思い返してか、更にゾゾさんは頬を赤くした。


 事前調査の時や花神祭の時といい魔物との戦いの時といい、常に一緒にいた所を見ていれば余程鈍感でない限り、少なくとも好意があるようには見えてたと思う。


「でもアルケスは、所長が好きなんじゃないかって最近思うのよ」


 ゾゾさんが呟いたその言葉に皆がピタッと動きを止めた。

 ご機嫌顔で見ていたハリス姉さんはそれを聞いて笑顔のまま微動だにしない。

 どうした、あんなに饒舌にノリノリで話していたのに。


「ほらね」


 頬の赤みがひいてから皆の様子を見たゾゾさんは、伏し目がちになる。


 ち、違うのよと慌ててココネ先輩が顔の前で手を振った。そんなこと思わなかったからビックリしちゃってと眉尻を下げる。

 

 アルケスさんが所長を?

 確かに一緒にいることは多いけれど、そんな感じには全く見えないしゾゾさんの勘違いではないかと思うが、ここの誰よりも人生の経験値が圧倒的に低い私では発言に自信がない。


「アルケスはそんなこと思わないわ。所長と一緒にいることが多いからって悲観しすぎよ~」

「でも、なら所長がここにいないのはなんでなの?」


 また皆の動きがピタッと止まった。


 確かに所長は終業後『私も混ぜて!』なんて張り切って乗り込もうとしてきていたけれど、ハリス姉さんに「いらない」と弾かれてしまい所長室でイジけていた。

 所長がそういう話に入っても違和感なさそうなのに、わざわざ寄せ付けないのも今考えてみれば気になる。


 ハリス姉さんは眉間を人差し指で押さえて、うーん、と唸る。


「私達よりあとに入った人は知らないと思うけど、所長にも大切な……恋人みたいな人がいるのよ」

「えっ、そうなの?!」


 え、そうなんですか!?

 ゾゾさんの声と頭の中の声が被る。

 ハリス姉さんは確か所長と同期なはずなので、そういうことも知っているのだろう。所長に恋人みたいな人か……。騎士団長? とはまた違う人なのかな。

 騎士団長のこと? と私とまたしても思考が一致したゾゾさんが食いぎみにハリス姉さんへ詰め寄っていた。最初の状態と真逆の光景である。どうやら興味がそっちにそれたようだった。

 でも何故だろう。所長のそういうことに食いつきそうな先輩達の口数が少ない。

 

 ハリス姉さんが窓の外を見つめた。 

 

「騎士団長ではないけれどアルケスもそれを知っているし、むしろ応援してたから。だから所長が好きとかじゃないから安心しなさいって。保証する」


 しかしまさか所長にそんな人がいたなんて。

 それが騎士団長でもないことに驚く。なんだかんだと騎士団長は所長をちゃかし、所長も所長でまんざらでもなさそうだったから。


「でも所長にそれを聞いちゃ駄目よ」

「なんでよ?」

「本当に嫌がるから絶対に駄目」


 聞いたらクビを覚悟しなさい。


 クビ。

 その一言をハリス姉さんは私にも凄みをきかせた顔で念を押してきた。


 はい。わかりました。

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