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物語2・24

 だ、が。

 治ったなら治ったと本人から一言くらいほしい気持ちもあった。

 騎士団に確認くらいすればよかった話だが。

 だって魔物から聞き出したの私だぞ。

 私が騎士団長にチクってなかったらそのままだったっていうのに、私への感謝が三千億ペガロ分ぐらい足りない気がする。

 船であんなことしてる場合か。

 ムイーシアさんと四六時中イチャイチャしていた分際で、まったくいいご身分である。


「嫉妬っていうより報酬もらいたい気分だよ」


 三本指を立ててテーブルを小刻みに叩いた。

 休日返上で聞き出したんだから、一日の給料分くらい巻き上げてもバチは当たらない。

 神様どうか、バチを当てるならぜひあの男にしてください。

 

「報酬……」

「こんな恨み話より、殿下の話のほうが気になる」


 私の感情どうこうはさておき、あのゼノン王子に急に婚約者を作ろうだなんてびっくりした。しかも令嬢を根こそぎ集めて。

 冷静に考えてみれば一国の王子様なのだから驚くようなことではないのに、下手したら本人は一生独身なままでいそうな雰囲気だったから、余計になぜ突然そんなことになったのかが気になって仕方がない。

 良い意味で、良い意味で女っ気が全然ないし(大事なことなので良い意味をいちおう二回言っておく)、そもそも女性に興味があるのかなとか好きな人いたりしないのかなとか、男性として見るには根本的なところが本当に謎に包まれている王子様だった。

 私生活が見えないというか、常に王子然としているので余計な情報が入ってこない。人のことをからかったりお茶目な部分があるのはよく知ってる。

 感情は二の次というような、本当に、王子様になるためにうまれてきたような人だと思ってる。

 私は全世界へ向けてこうお披露目したい。

 「うちの王子様すっごく王子様なんです! かっこいいし勇ましいしたくましいし浮いた噂は一つもないし将来は騎士団長確定だし品行方正で庶民にも寄り添ってくれる優しくて硬派で背骨に鉄の柱でも入ってるんじゃないかってくらい芯がしっかりしていて、たぶん背中に見えない羽根がはえてる妖精さんみたいな素敵な王子様なんです」

 と。

 

「なんで急に殿下の婚約者探しになったの? 年頃だから?」


 羽根をパタパタさせて飛んでいるゼノン王子を頭から書き消す。

 年頃って言っても、もう二十歳過ぎてるから世間での貴族の婚約および結婚年齢を考えれば遅いほうではある。

 学校を卒業したと同時に結婚する子もいたから、それを考えると王族にしては婚約者もいないなんて珍しいのかもしれない。

 

「王太子殿下がちょっと、体調がね」

「……悪いの?」


 ニケは渋い顔をする。

 あのアルマン殿下が?


「去年から心臓の発作で倒れることが多くて。公務に支障が出るくらいだから、その辺りのことはもう外に漏れていると思うわ。貴族の中でも知らない人はいないんじゃないかしら」


 そんな中でゼノン王子の婚約者探しを急ぐということは、つまり……。


「じゃあ急いでるのはお世継ぎのため?」


 今の王太子と王太子妃の間に子どもはいない。


「なるべく直系が増えるならそれに越したことはないのよ、きっと。もしかしたら王太子と呼ばれる人が、その、変わるかもしれないから」


 万が一を考えたとき、代わりになる人間を作っておくのが当然の行いであるのは理解できる。

 ……それなら殿下の婚約者になる人って、凄く重要になるのでは? 

 あんぐりと開いた口を手で隠す。

 ただの婚約者探しじゃないぞ、これ。

 それなら御令嬢方がニケを囲い込むのも納得だ。


「ノルティス殿下はリタ公国の公女様が妃だから、王太子になられる可能性はゼノン殿下よりたぶん低い……っていう声が多いの。王太子殿下が回復してくれるのが一番なんだけど。これはもう本当に、祈るしかないっていうのが辛いところよ」


 ドーラン王国の王位継承順位は生まれた順になるが、それが絶対なわけじゃない。


「アルマン殿下って人気だよね。この人が次の王様になるんだって、みんな疑いもないくらいだし……外相のノルティス殿下の対外政策で魔石の時も凄く助かって、頼もしかったし」


 現国王がこの人間が適任だと思えば生まれ順に関係なく次期国王に指名できる。

 けれど、それができるのは子供が複数いた場合で、王子王女がいるのに甥や姪を指名することはできないし、世継ぎが一人しかいなければ自動的に次の国王に決められる。

 逆に、子供がいなければ甥や姪を国王に指名することもできる。

 つまり今の国王に子供がいなければ、ロックマンが王様になることもあり得てしまうのだ。

 さらに国王に世継ぎがおらず、そのうえ国王の兄弟にも子供がいない場合には、継承順位に乗っ取って国王の兄弟か、血の繋がりが近い中から国王を指名することになる。

 とりあえず血が途切れていなければヨシ、という感じで、遠い親戚でも王族の血がちょこっとでも入っていれば場合によっては候補には入る。

 昔は王族殺しが絶えなかったと習ったが、この条件だと王様になれる可能性が複数の人間に与えられるのだから、そうなるのも無理はない。

 私だってお金持ちになる権利をちょっとでも獲得していたら活用したい。もちろん正攻法で、だ。

 国王は一夫多妻制が認められているけれど、そうやって子どもがたくさんいてもただただ面倒になるだけなので、権利として持っていて実際に後宮があっても、近年の王様は皆一人の女性としか結婚していなかった。

 子宝に恵まれなかった王様もいたけど、側室を娶ることなく自分の甥に継がせた例もある。


「ゼノン殿下本人はどうなんだろう」

「私も……わからないわ。そういうの全然顔に出さない方だから。アルウェス隊長あたりには話してるかもしれないけど。ただ、絶対に継承権のことで周りが揉め出さないようにしてほしいわ」

「揉める?」

「今のロックマン公爵だって、王子時代に毒を盛られたことがあるっていうのは有名な話だし」

「えげつな……」


 えええ、あの公爵様そんな目にあってたの……。

 権力は人をどうとでもできるというか、なんだか人が権力を操るっていうより、権力が人を操るっていうほうがしっくりくるかもしれない。


「ゼノン殿下が恩賞の権利で大臣を何人か切ったから、そういうのを恐れる人がいないとも言えないじゃない。逆恨みとか」

「あぁ……」

「婚約者探しは王の島の高度のこともあって、今はそっちから話題を逸らしたいっていうのもあると思うわよ。みんなの不安が溜まらないように」


 なるほど、そういう……。

 ドーランは色んなことが起きすぎているから、国王様の胃の負担は通常より計り知れないだろう。

 ただちに胃薬を大量に献上してさしあげたくなる。


「殿下が心配?」


 両手をこすりあわせて肘をつく。

 殿下とは、もちろんゼノン王子のことだ。

 遊びに誘ってくれたニケが今日は一番元気がなかった。

 やけに冷静で、もう少し羽目を外してもいいのにと思うくらい落ち着いていて、ん? と思ったくらいだ。

 いくぶん優等生気質なのもあって分かりにくいが、こっちは寮生活で衣食住を共に六年も過ごしている仲だし、伊達に十年も友達やってない。しかも親しい友達、親友だ。

 ニケが私を親友だと思ってるかは知らないし、別にそんな名前がついていない友達扱いでも全然構わない。

 ニケの元気は私の心の安念にも繋がる。

 何か困ったことがあれば相談してほしい。

 ……解決できるかは別として。


「国を守ることを最優先に考えてきた方だけど、どうかこのまま幸せにっていうのも難しいから。いつ争いに巻き込まれても大丈夫なように、殿下の身の回りや体調のことは今まで以上に目を光らせる覚悟よ」


 なんたって騎士団での側近ですから。 

 たくましく胸に手をあてるニケは、制服を着ていなくても立派な騎士に見えた。


 でも、心臓の発作か。

 病名は発覚しているのかな。心臓……心臓というと。

 出張を思い出す。


「心臓のっていうなら、ハーレに依頼に来てくれる人に薬師の人がいて……。その人が心臓に効く薬を作ってるみたいなんだけど、名前だけなら今教えておこうか? 王族ならもう腕の良い医者を雇ってるとは思うんだけど」

 

 心臓の発作がどういう原因で起こるものなのかは私もわからないが、ペトロスさんが心臓に関わる薬を作ろうとしているのを知っていたので、この情報が何か少しでも役に立てばいいと願う。


「本当っ? 殿下に話してみてもいいかもしれないわ。名前は?」

「ペトロス・アスクレーピオス・ヤロンっていう男の人。家はこっちじゃないんだけど、仕事で北のイギア工房にいるみたい。私から話したり紹介はできないけど、とりあえず」

「ありがとう」


 どうか王太子殿下の体調がよくなりますように。

 国民としても願わずにはいられない。


「そういえばベンジャミン遅いわね」

「あれだよ、下痢かもよ」

「そんなわけないでしょ!? お化粧直ししてたの!!」


 ベンジャミンが頬を膨らませて戻ってきた。

 口紅が若干濃くなった彼女をなだめつつ、私たちは夜まで遊園地を楽しんだ。

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