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物語2・22

 ドーランに帰ってきて数日経った頃、ニケから三人で久々に遊びたいという手紙が届いていたので、今日は東の王都に来ていた。

 ベンジャミンもサタナースと時の番人を保護していたのもあり遊ぶ機会がなかなかなかったのだが、今日はサタナースが家で見ているからと一緒に遊べることになった。

 話を聞けば、番人はもうすぐ神殿預かりになるようで、あともうちょっとで外出の制限はなくなるのだと嬉しそうにしていた。

 しかし嬉しい反面、時の番人との生活も案外楽しかったようで、たまに神殿に遊びに行こうかななどと血迷ったことを口にしていた。

 おいおい嘘だろ。


「ええ!? あんなのといてよく疲れないね」

「おじさまに失礼よ。遊園地あそこじゃない?」


 ベンジャミンが進行方向を指さしながら腕をたたいてくる。

 東にある王都は近代的で栄えている。

 しかも三年前に開園したばかりの遊園地もあり、文字通りに「遊ぶ」が叶う場所だった。


 しばらくして入園切符を持ち遊園地に入った私たちは、駆け足気味になりながらすべての乗り物で遊びつくそうと躍起になり園内を練り歩く。

 大きな回転木馬やコルクを使った射的に観覧車、園内を移動する奇天烈な乗り物もある。

 遊び道具をたくさん詰め込んだおもちゃ箱みたいだった。超楽しい。

 食べ物も休憩場所もいたるところにあるので、基本食っちゃ寝が大好きな私にとって死んだら天国にこんなとこあったらいいなと思える素晴らしい場所だった。

 しかも東に来れば知り合いと遭遇する率がめっきり減る。

 生活区域でハーレのような仕事をしていると、どこかしらで顔見知りに会うので気楽で遊びやすいのもある。


「カリン・キューベルの舞台劇みたいだわ!」

「眠れない夜に貴方と~ふふふ~ん」

「二人で~ふふ~ん」


 その華やかな舞台の装飾とは裏腹に激しい愛憎劇が繰り広げられる作家カリン・キューベル脚本の『指融けの華』を劇場へ見に行ったことのあるベンジャミンと私は、手を取り合いくるくる回りながら劇中歌を歌った。

 ニケは恥ずかしいのか遠くに離れて他人のフリをしていた。

 だが三人お揃いで白地に花柄の控えめにブリブリしているワンピースを着ていたので残念ながら他人には見えていない。(ベンジャミンがどうしてもこれを三人で着たいと集合場所で暴れ騒いだ結果)


 あっちこっち移動して、まるで子ども時代に戻った気分だった。

 長い列に並ぶ人々や、景品なのか大きな兎鳥のぬいぐるみを抱き抱えた女の子に、花の形の飴や刺肉焼きを両手に握り締めて美味しそうに頬張る恋人同士、笑い声を上げながら駆けっこをする子どもたちの手には赤い風船が握られている。


「いいわよねぇ、東に住みたい~!」

「家賃高いし土地も高そうだわ」


 三人で回転木馬の馬にそれぞれ乗って楽しんでいるなか、世知辛い現実をニケがベンジャミンへ教えていた。

 私は音楽に合わせてチカチカと点滅する照明を眺めながら聞き耳を立てる。

 そして、えー金額どのくらい? という質問に応えたニケの回答に、ベンジャミンは黒目がどこかへ行き目が真っ白になっていた。


「ひと月だけで三百ペガロなんて……金持ちしか払えないじゃない」

「金持ちの街なのよ」


 この三人の中で一番お金持ちであるニケが言うのだからそうなのだろう。


「遊びに来るくらいが丁度いいのよきっと」


 ぐるぐるゆっくり回っていた装置が止まり、陶器のように光り輝く馬から降りる。

 ララに乗るのとはまったく別物だが、こういうものに乗ったことがなかったので終わりに少し寂しさを感じる。

 馬をじっと眺めている私にそれ持って帰れないからねとベンジャミンが憐みの表情で言った。






「ふっ。満足した」


 やりたいことはやったしこの世に未練はタラタラない。

 園内にある喫茶店の外の椅子に、後ろ首に手を組んでがに股で座り込む。

 欲を言えばあともう一本くらい串焼き食べたかったな。

 あれすんごい美味しかったもん。

 目を閉じてニヤけながら楽しかったひとときを思い出していると、お行儀悪いからその足やめなさいとニケに言われたのでいそいそと足だけ閉じた。

 口調も性格も若干というより平均よりすこぶる悪い私はもちろんお行儀も悪い。


「ニケはお茶会とかパーティーとか行ってるの?」

「招待状がちらほら届くから行ってはいるけど、誘う目的があからさまなのよ」


 ニケはうんざりといった声色で頬杖をつく。


「私が騎士団に所属してて殿下の側近みたいな扱いされてるから、殿下に近づきたい御令嬢たちが情報を求めて誘ってくるの」

「ああ……殿下って婚約者いないもんね」


 ニケに群がる令嬢たちの姿が目に浮かんだ。

 きっとあっちからもこっちからも手やら足やら引かれて揉みくちゃにされてるんだろうな。

 ゼノン王子のことを好きな令嬢ってあんまり感情を表には出さないけど、それが解放されたときの熱量は半端ないんじゃないかっていう勝手な想像がつく。


「お城で婚約者を見つけるパーティーやっちゃえばいいのに~。王国中から貴族の令嬢をごっそり集めて好みの女の人見つけて『この者を我が伴侶とする!』って言ってる殿下見てみたいわ」


 あっても呼ばれないから見れないけどとベンジャミンは笑う。

 さすがにそんな雑な探し方しないよと返せば、彼女の発言にニケはびっくりした表情になっていた。

 うん?


「もしかしてサタナースづてで聞いてるの?」

「何を?」

「そういうパーティーがあるのよ。今年の花の季節に」


 え?

 あるの!?

 ベンジャミンと声を揃えてひっくり返った。

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