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物語2・19

 セレイナの城に訪れるのは初めてだった。

 自国民でもないのに訪れることなんてそうそうないので当たり前なのだけれども、ニケたちが前回私を助けるためにセレイナの王の島まで行っていたらしく、ドーランとはまた違ったお城で素敵だったのだと聞いていたので、いつか見てみたいなと思っていた。


 森と呼ぶには少し違う、明るい色の植物や実がたくさん成っている木が密集した群生地帯を過ぎると、開けた場所に大きな大きな宮殿があった。

 王宮の庭の半分は四角い噴水で埋め尽くされていて、セレイナ特有の暑さが視覚効果で緩和されている。

 筋肉ムキムキの男の付き人がベラ王女を囲んで四方八方にいる。

 彼女の隣にいる私ももれなくその中にいた。

 歩くたびにムキムキ効果音が聞こえてくる。

 六つに割れた腹筋や果物かなにかが詰まっていそうな二の腕に、屈強さよりも神秘的なものを感じる。

 ドーランではこんなに上半身をさらけ出した男性はいないし、ここまでの素晴らしい筋肉を持った人間を見かけたことがないせいだろう。

 ベール越しだからバレないと思って筋肉を観察していたら、付き人の一人と目が合って照れ笑いされた。

 バレてた。


「門を」

「はい姫様」


 ぞろぞろと彼らを引き連れて堂々たるたたずまいで王宮の門をくぐるベラ王女は、さすが時期女王という風格を醸し出していた。

 中に入ると絵画や金の彫刻、全面水色の壁や外とは違った小規模な噴水があったり、城とは一つでいっても種類が全然違うのだと感嘆する。

 壁には渦巻きみたいな丸くうねった、ふにゃっとした文字が書いてあって、あれ、これどこかで見たような……。

 そうだ、海底の地下神殿。

 マイティア王子に連れていってもらった場所で見た変な文字。

 古代語でもない見たことのない文字だったから覚えてる。海の王国で見たものがここにもあるなんて、さすが隣国の友好国。

 ベラ王女はこの文字を知ってるのかな。

 彼女に聞くにしても今は筋肉パーティー真っ最中ど真ん中にいるので聞くに聞けない。

 そうして変な文字が書かれた壁を過ぎて、白海宮と呼ばれる別宮の通路の前につく。


「ここでいいわ。ご苦労様」

「またお呼びください」


 ここからは二人で行くと、護衛の人たちに解散命令をくだす。

 筋肉集団はベラ王女のことが大好きなのか、付いていけないことを寂しがってシュンと子犬のような顔をするも命令に潔く従って姿勢を下げた。

 大男たちが一人の美しい女性にすがる光景……よく考えればすごいものを見た気がするが、私は済まし顔でベラ王女の背中についていく。


「あの壁の模様って文字ですか?」

「旧古代語のことかしら?」

 

 旧古代語!?

 古代語に新旧あるの!?

 古代語を得意としていた私にとって寝耳に水、寝耳に滝だった。

 古代語の本が脳内で川に流されていくのが見える。

 お前、新だったのか。


「え、あっ、こだ……へ?」


 声が上ずって喋るの苦手な人みたいになった。


「この宮殿の書庫に旧古代語の資料があるのよ。よければ見ていっていいわ。もとはおばあ様の書庫で、今はわたくしが管理しているの」

「い、今知られている古代文字と、あの旧文字ってぜんぜん違いますよね。旧ってどう判明したんですか?」

「いえ……それが、ほんのわずかに共通点があったらしいの。気になるなら一部だけ貸してあげるわ」


 古代文字を勉強していたときは、そんなことどの本にも一文も書かれていなかった。

 そもそも古代語自体が古いから勝手に旧扱いしていただけで、それより古いものなんてあるわけないと思っていたのかもしれない。

 でもこうやって資料があるんだから古代語を研究している人は当たり前に知っている事実なのかも。

 でもそれだったら本にして出している人がいるだろうし変だな~と唸っていれば、セレイナにある資料以外ないのよ、とベラ王女が笑う。

 五代前のセレイナの王女が海の中で見つけた石盤に書かれていた文字らしく、魔法もきかないし重くて持って帰れないから何度も読んで紙に書き起こしたものがセレイナに保管されているのだという。


「王女が海の中で……」


 セレイナの王女様って代々おてんばなんだな。

 それだけはわかる。


 昔は考古学者にその資料の解読を依頼したこともあったそうだが、ふにゃふにゃで丸っこくて古代文字とは似ても似つかない渦巻きみたいな文字に、王室からの依頼とはいえ根をあげたのか「もうこれ誰かがてきとうに考えたなんちゃって文字なんじゃない?」という結論に落ち着いたうえ、肝心の石盤は海水に流されていてすでに行方不明、文字という立証もできず世間では特に話題になることもなく終わったのだという。

 そして相手にされずふてくされた王女様はあてつけで宮殿の壁にその文字を刻み込んだ。

 詳しいことはグィエナ王女の日記に記載。


 解読はまだ中途半端にしかできていないらしく、代々この王宮に住まう人間が暇なときにやる程度だった、と。


「もったいなさ過ぎる!」


 なんて、なんっって贅沢な。

 こんなの考古学者の人間からすればお宝みたいなものじゃないの!?

 未知なるものへの探究心がくすぐられるんじゃないの!?

 お母さんだったら……お母さん……ん?


『姉上は読めたようだが』


 確かあのときマイティア王子がそんなこと言ってたような。


「あの文字……前に、母が読めるってマイティア王子が言ってましたよ」

「まぁ! あれを?」

「海の王国にある地下神殿にこの旧古代文字があって、姉上は読めたって」

「そう……。あのお姉様大好き王子が言うなら本当なのでしょうね」

 

 ボソッと発言した王女を二度見する。

 今絶対にお姉様大好き王子って言ったよね。

 海の王国に行きたいときは行けるって言ってたからもしかしてマイティア王子とあれからも何度か交流あったんだろうな。

 はぁ~とため息をついてまたあの王子に連絡でもとろうかしらと呟いていた。

 

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