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物語2・11(ゼノン視点)

 今回の結婚式は大陸の危機が去ってからのめでたい式典だとして、近隣諸国及び内陸部含め各国が海の王国への感謝と挨拶回りも兼ね、船で大陸海域を横断するのが目的でもあった。


 本国では国民の祝福のもと昨日正式な儀式を済ませているので、船では略式になり、乗船している者に国王はおらず、シーラでの式典に参加していなかった王子王女、宰相や外相大臣といった次世代を担うであろう人間ばかりが集まっていた。

 カーロラの結婚式に参列するとともに、まだ見ぬ海の支配者セレスティアル王との交流を期待している為である。


 その中でも唯一の交流手段を持つセレイナ王国がシーラと海の王国の仲介に入り、明日の昼中に海の上で対面することが約束されていたのだった。


「明日が楽しみですなぁ。待ち遠しい。……待ち遠しくて私のところの宰相は樽の中で寝ておりますよ」

「まぁ暇だからな」

「夜のパーティーには起きてくるかとは思いますがね」


 今日はまだその日ではないため、みな一様に思い思いの時間を過ごしている。

 豪華客船とはいうが、船という限られた空間に詰められている中では鬱憤を溜める者も多く、樽部屋と呼ばれる個室で休む人間はあとをたたなかった。

 酒樽となんらかわりない小さな樽の中は一足踏み入れれば広い部屋になり、船旅には便利な道具となっている。

 共に船へ乗っていたミスリナも船上での式が終わると、凧の下に大量に並んでいる樽の中へと入ってしまった。


「アルウェスすまなかった」

「?」

「お前、ギリギリまで期待していたろう」

「ギリギリまで? おや何の話です?」

 

 俺がアルウェスへ向けた言葉にベガが反応するも、当の本人はどこ吹く風という表情で何の話だかさっぱりだと大臣と顔を合わせていた。


 アルウェスのパートナーにと誘ったナナリーは、二ヶ月前に断りの手紙を送ってきていた。


 本当はパートナーというのはただのこじつけで、ナナリーを呼ばずとも本来はアルウェス一人でも支障はなかった。

 二人の今後を思えばこういう形で内外に知らしめていくのも良いだろうと思っていたのだが、それは浅はかな考えだったと言える。

 彼女は市井の人間だ。

 手紙では自ら「平民の私が殿下と手紙を……」と身分の差を感じて半ば遠慮していた節がある。

 それでも同年代の貴族子女よりは親しみのある仲だ。

 仕事が理由で断ったのも嘘ではないだろう。

 だが気兼ねないとはいえ、そんな彼女をこの中に引きずりこもうとしていたのは早まった考えだったと、ナナリーからの手紙を読んで思った。

 

「ゼノン! アルウェス~!」

「やぁベラ」


 本国での式典には出ず途中セレイナの港から乗船したセレイナ王国の王女ベラが、護衛を一名張り付け花を飛ばすような笑顔でやってきた。

 他国の王女の結婚式に出席するのは初めてだったのか、ああ本当にさっきのカーロラ王女綺麗だったわ感動しちゃう良いなぁ素敵、と惚れ惚れしていた様子だった。

 俺自身も他の王族の結婚式に出席することは滅多にない。

 大抵は国王と王妃か王太子夫妻が出るものだからだ。

 感動しているベラの気持ちはよくわかる。

 カーロラの事情(臣下を好きになるが諦めようとしていた)を知っている側としてはなおのことだ。


「会えて嬉しいわ。シーラ国務大臣も、カーロラ王女がおめでとう」

「覚えてくださっていたとは光栄にございます」

「こんな素敵なおじさまを忘れるわけないじゃない」


 輝く尊顔は南国一の宝とも揶揄されるベラの屈託のない笑顔を受けて、シーラ国務大臣ルイス・ベガの頬はうっすらと赤くなっていた。

 良い年をした男が美女の手玉に取られている姿に情けなさを感じつつ、そんな大臣の一面を見た俺は男としての親近感を覚えクスリと笑う。


「ねぇねぇ、ゼノンは調子が悪いの?」

「船酔いなんだ」


 初めて船という物に乗り、乗馬に飛行に何でもこなせる比較的肉体強者だと思っていたのもつかの間、今日改めて判明したのは自分が船酔いしやすい体質だということだった。

 酔いに効く薬を処方されているので今は幾分か気分がいいが、効果が切れた時の具合を想像するといい気分でもない。


「ええ!? 大変じゃない! 待ってて私が看病してあげるわ」


 心配だと言い俺の腕にピタリと張り付くベラは、もしや殿下を狙ってます? などというアルウェスの言葉に動きを止めてこちらを見上げた。

 頭一つ分小さい彼女の丸い瞳は相変わらず綺麗で真っすぐだった。


「私の王子様にピッタリなんだもの、お父様におススメしようと思うの。貴方はデグネアに忙しいみたいだし?」


 舌をチラと出してベラはアルウェスをにらみ返していた。

 きっと今俺は当て馬にされている。


 船に乗っているのは大勢の他国の王族貴族になり、その中にはヴェスタヌの重鎮もいる。

 朝からデグネアに歩み寄られ絡みに絡まれていたアルウェスを見て、二人はそういう仲なのかと思う人間も多少はいたかもしれない。

 他の女性に悪質な嫌がらせや彼自身に厭らしい媚びを売っているというならともかく、彼女に関しては素直に好意を持って近づかれ話をかけられているだけなので、元来女性に弱いアルウェスには中々対処し難い人物だった。

 ヴェスタヌの兄王子もいるというのに、彼はいいぞもっとやれという顔をしているからまた厄介なことだ。

 距離を間違えないようにとアルウェスも何度か注意をしているが、それが彼女の心に響いているのかは分からない。

 だがやはり周りからはそう見えているのかと、アルウェスは困り顔でベラに首を振った。


「良い友人だよ」

「ふん。その衣装も、いったい誰のお色なのかしら? そんな態度をとっていたら、いつか貴方の大事な方はどこかへ行ってしまうわね。そうしてわたくしはゼノンをこの手に」


 掴まれた腕がより締め付けられた。

 鍛えているはずなのだが骨が軋んで痛い。何故だ。


「そんなこと私がゆるしません!」


 後ろにある山積みの樽から、甲高い女性の声がした。

 そこに視線を向けたベラは、見えた物にフフとにこやかに笑い扇子を仰ぎだす。


「あっらぁミスリナ? 貴女ちょっと肥えまして?」

「なんっってことを言うのかしらこの方!? 貴女ねぇ、お兄様たちに散々色目使っていたの知ってるんですからね!」


 樽の中から腕と顔を出したミスリナが、烈火の如く怒りをあらわにしていた。

 そんな表情とはうらはらに、よいしょ、と両手でドレスの裾を持ち上げ樽のふちから足を床につけようともがいている。

 危ないからとアルウェスが手を貸せば、素直に手を握って「ありがとう」と、そして次にはベラへ睨みを効かせるのだった。


 ミスリナとベラ、この二人は以前から仲が悪い。

 犬も食わない喧嘩ばかりしており、ミスリナにとってベラは交流の機会があり食事を共にすることはあれどその場にいる兄たちをいつも取っていってしまう泥棒女だという認識で(式に来る前にそう妹に訴えられた)、対するベラはそんな良い男に囲まれているミスリナが羨ましくてつい意地悪をしてしまうという(前の食事会でこれも言われた)、誰が見ても子供の喧嘩に近いものである。

 兄妹揃って行儀関係なく騒げる友人が多いというのは俺達王族の気質なのか。


「貴女ほど気の合わない女性はいなくてよ」

「私が言いたいくらいだわ」


 その台詞を聞く限り気が合うような気がしてならないのだが余計なことは言うまい。


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