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物語・4


 久々に実家へ帰った。


 騒動以来初で、両親が帰ってきていなかったせいでもある。けれど今もまだ二人は帰ってきていなくて、家はがら空きだった。空き巣に入られたらたまらないので魔法陣を敷いてはいるけれど、いつまでこの状態が続くのか甚だ疑問であり不安でもある。

 私の両親が深い理由で海の国へ行っていることを知っているのは王様とアルウェス・ロックマン、それとごく一部の人間だけである。外聞的には考古学者の母の功績をたたえて大使として海の王国との交渉を任されたという、結構無理やりな理由で皆には知られているが、そういう理由が通ってしまうくらいのその世界での母の話なんててんで分からないため、どのくらい母が凄い人なのか正直ちんぷんかんぷんだった。母が昔から自分の話を濁して話すことが多かったせいでもあると、今更ながらあたってしまいそうになる。私も勉強一色でそちらには気が回らなかったのも原因だけれど。


 そもそもこんな理由になったのもロックマンが書き換えの魔法を全世界の人間に施したからだった。母が海のお姫様であることも、私が海王との血筋を持つことも隠すために皆の記憶をいじっている。

 ……そのおかげで、こうして私は普通に生活できているのだけれども。


 海の人達が助けに来てくれたのも私や王様、ロックマンの中では母と私が血の繋がりがあるからだという本当の理由を知っているけれど、他の人には『セレイナ王国との昔のよしみで地上を助けに来た』ということで通っているらしい。私が氷の始祖の力を持っているのも、母から受け継がれたものではなく天命だということで理解されているようだった。(本当に無理やり感がある)

 つまり、あの日あの時のやり取り(マイティア王子との)は、皆の中で違う会話に変換されているということである。


 今考えてみても、全くとんでもない魔法だと得意げな顔をしたロックマンを思い出した。彼に対しては様々な感情が渦巻いているけれど、やはり悔しいものは悔しい。どうやっても負けるのは、劣っているのは好きではない。

 それに結局私は恋愛において勝ったのか負けたのかも……。それは考えないでおこう。いつから好きだったとか、過去のことを振り返って聞いても仕方ない。


 母が言っていた。

 どんな風に出会ったか、どんなことで好きになったかは重要ではなくて、出会ってからどう歩んだのか、好きになってどうしたのか、そういうことの方が大事だって。


「でもさぁ、そろそろ帰って来てくれないと泣くよ……」


 誰もいない実家の食卓の窓から見える月を眺めながら、父が大切にしていたお酒の蓋を開けた。


 飲んじゃうもんね。





 シュポっと開栓の音がしたあと、ハーレの寮に届いていた手紙を整理しようとテーブルに並べた。


 赤、白、紫、茶色、と色んな色の封が広がる。

 手紙というのは何歳になっても貰ってワクワクする。でもその内の一、二通は税の支払いの手紙なので開けるのが少々怠い。お金も貯めてはいるけれど、その使い道になってもらう目的の二人が帰って来ないのでは意味がない。

 本当なら、余計なお世話かもしれないけれど両親の結婚式に使ってもらいたかったのだ。若い頃は苦労して結婚式もまともに上げられなかったと話していたから、それなら日頃の恩というわけではないけれど――私が二人の晴れ姿を個人的に見たいだけ――あのドーランの結婚式場で花に囲まれながら子供である私から感謝の気持ちも込めて祝福をしたかった。


 それなのに一向に帰って来ないものだから、余計に不貞腐れてしまう。今頃二人は海の国で何をしているのだろう。


「あ…」


 手紙を弄っていると、その中に見慣れた字で書かれた名前があった。

 マリスだ。


『元気かしら? わたくしは最近身体を動かすことに凝っています。どうにも腰回りにお肉がついてしまってどうしようもありませんのよ。おすすめの運動がありましたら是非とも教えていただきたいわ。お婿様探しも楽ではなくてね、ほほほ、誰かさんのせいなんて言いませんが? 相談ではないですけれど、近頃言い寄ってくる殿方がおりまして……困ったことにお顔が少々あのお方と似ているものですから、それに血縁も……。断っていますけれど流石にだいぶ年下は嫌ですの。似ているというのも減点対象ですわ。どうしたら良いかしら』


 どうしたら良いかしら。

 そこで手紙は終わっていた。

 

 言い寄ってくる殿方、あのお方と顔が似ている――? 血縁で、だいぶ年下。

 あのお方というのはマリスとの会話で出てくる男性と考えるのならば、ロックマンかゼノン王子だ。似ていて血縁があるならその二人の内の兄弟か親戚で、かつ年下なのだろう。しかも、だいぶ年下。ゼノン王子の兄弟は王女が一番下なので王太子と第二王子ではない。王子とロックマンも血縁はあるけれど、マリスが似ていて困ってしまうと言うならロックマンの方に似ているのかもしれない。……誰だろう。

 

「マリスは男性を見る目があるから、誰を切っても選んでもきっと正解だと思う。難しいね……。私も誰かさんにとは言わないけど? 負けないように頑張るから」


 実家の部屋の引き出しから便箋を取り出して、そう綴る。


 ここで助言なんかしても、マリスの意思には敵わない。結局は当人の気持ちが一番大事なのだ。それにお互い恋敵であることには変わりないので、気の利いたことなんて言うつもりはない。お互いそれに真剣に望む。ただそれだけのことなのである。


 さてあとは、と整理していると水色の封筒が目に入った。


「……」


手に取って名前を確認したのち、胸をおさえて二つ折りの手紙を開く。


『これを君が開くのは、届いてからだいぶ後なんだろうことは目に見えているから。図星だろうけど、ちょっとズボラなところは大目に見ておくよ』


「なんだと……」


 出だしの文章を見てから、封に書かれている差出人の名前をもう一度確認する。日付は1週間と三日前。


 【アルウェス・ハーデス・フォデューリ・ロックマン】


 ……ここにアーノルドが加わったらまぁなんて長い名前だろうか。


 マリスや他の友人ともだけれど、近頃は何故かアルウェス・ロックマンとも文通をしている。最初に送ってきたのはあちらで、二か月前に食事の誘いを手紙で受けた。カウンターでされるより周囲の冷やかしがない為直ぐに二つ返事で返したけれど、その後も世間話よろしく返信が来た。最後は必ず質問文で返されるので、返さないのもどうかと思い返信するが、また一週間後くらいに返信が来る。そうなってくると段々意地ではないけれど、ロックマン相手に敵前逃亡するのも私らしくないと――その考えは今でも消えない――質問文に質問文で返していくことかれこれ何通分。

 いつの間にか世で言う【文通】なるものをしていることに最近になってやっと気づいた。


 恐ろしい。なんて男だ。今までこういう手で女子を翻弄してきたに違いないと、怪しい目で水色の封筒を眺める。

 大目に見ておくよ、がなんとも私の中の沸点を刺激するけれど互いに今に始まったことではないので私こそ大目に見てやると思いながら続きに目をやった。


『直接言うことが出来ない僕もだけれど、時間があれば考えてみてほしいな。空離れのふた月目は、どこかへ出かけようか』


 手の力が少々抜けて、手紙が落ちる。

 落ちてから数秒後、床に寝そべった手紙を慌てて拾った。


 と、ととっと、


『唐突過ぎて死んでしまうかもなので勘弁してください』


 数日後、返ってきた手紙には『こちらこそ勘弁してください』と記されていた。


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