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物語2・4

 私は人の話を聞くのが好きだ。

 特に学校に通っていた時は、たまに大広間で開かれる校長先生のお話の時間が大好きだった。ご飯の話だったり、庭に咲いた花の話だったり、子供の頃の話とか、教員室でベブリオ先生とプリスカ先生が良い感じだったとか、他の生徒達は退屈そうにしていて寝ている子もいたけれど(先生二人の話に関しては皆聞き耳を立てていた)、いつもおもしろくてもっと聞いていたいくらいだった。

 人との会話も嫌いじゃない。

 だが同じことを言われたり聞かされたり、質問されるのは好きじゃない。

 こう、イライラする。

 分からないことを聞かれるのは何回だっていいけれど、分かり切っていることを何回も何回も聞かれるのは我慢ならない。


「重要なんだから、もっと絞り出してくれないと困るな」


 シュゼルク城、宮廷魔術師にあてがわれている広い一室。

 乳白色の壁に、大きな絵画、銀色の調度品。

 皮張りの赤いソファに座らせられた私は、部屋の小窓から吹く心地よいそよ風に目を閉じる余裕もなく険しい表情を保っている。窓からは今にも沈みそうな夕陽が見えた。


 足を組み、腕も組む。

 人差し指でトントンと二の腕をつつく。

 誰が見ても私の機嫌がよろしくないことは一目瞭然だ。


 一方書きとめ用の紙をテーブルに置き、黒い筆を片手に持つ金髪の男は、向かいのソファに座り、私と同じように足を組んでいた。魔術師用の制服なのか、隊服とは違う紺色の衣装を身にまとっている。

 編み込まれた長い髪が膝まで垂れていた。

 今日も眼鏡をかけている。


 その後ろには、この部屋の雰囲気を感じて居心地悪そうにしている宮廷魔術師の若い男性が、扉の傍で立っていた。

 

「これ以上私を絞っても何にも出ないわよ」

 

 この間から同じ質問ばかり。いったいそれで何が得られるというのだ。

 時間の無駄だ。無駄無駄。

 頬を目一杯これでもかと膨らませて、相手の男にそう物申す。


「いいや、国王達から尋問されないだけマシだと思ってくれないと。本当なら君の脳みそいじくられてもおかしくないんだから。そもそもあんな所でぽろっと言っちゃう君が悪いんだよ」

「わる、悪い……!?」


 ガタッとソファから腰を浮かせる。

 同時に、対峙している赤い瞳が上を向いた。

 私もそれに対してじろりと見返す。


「そぉ~もそも自分はどうなのよ、魔物の術のことだって解決してないじゃないの!」


 テーブルをバシバシバシバシ叩いて抗議する。

 しかし氷のような冷たい視線を寄越されるだけだった。なんて奴だ、あれは心を持つ人間の目じゃない。


 足を組み変えてじろじろと不躾な目で見てくる男、ロックマンに、私の握り締めた拳がプルプル震える。

 そのキラッキラの長い髪をわし掴んでぶんぶん振り回してそこの窓からポイっと放り投げたいとか、我ながら久し振りに激しいことを思った。

 少しだけ我に返る。

 この感情、どうやら好意とは別物らしい。


 魔物や始祖についての話をするようにと情報を求められて、私はシュゼルク城の部屋に箱詰めされていた。

 そりゃ私も申し訳ないとは思っている。

 あんなところでぽろっと、そう、ぽろっと始祖との会話なんちゃらと話してしまったうえに、目が覚めてからすぐにそれを報告しなかったから今こうして取り調べを受けているわけだ。

 だからといって自分が知っている以上の何かを提供できるほどの情報は持っていない。

 こんなに聞くなら心境術なりなんなり私にかけて、嘘をついていないか他に情報はないか確かめればいいのに、毎度毎度同じ質問ばかりでいい加減私の脳みそが沸騰してしまう。


「いやぁ。わからないことを聞かれても」


 ロックマンは手の平を上に向け鼻で笑った。


「くっ……」


 ちくしょうどこまでもとぼけやがる。

 取り調べが必要なのはこいつではないのか。

 夢見の魔物もなかなか口を割らないようで苦戦していると聞いている。

 死なないように拷問しているらしいけれど、それもいつまで続くのか。


「私だって破片飛び散ったのがあーでこーでとしか分からないもん」


 何度も同じことを話しているせいか、自分の語彙力が残念なことになってきている気がする。


 宮廷魔術師長であるロックマンは私の取り調べ担当のようなもので、この一ヶ月はずっとこんなやり取りをしていた。

 他の人では駄目なのかと、この前部屋に来ていた騎士団長に聞いてみてはみたものの、適任者は彼以外いないということで論外扱いだった。

 この部屋には何重もの魔法がかけられているのが分かる。肌で感じるのだ。

 そういうのも含めて(防衛とか)の人選なんだろうが、重いため息しか出ない。


「あと何だっけ? シュテーダルが氷の始祖に恋してたって話だっけ?」


 ロックマンは膝に頬杖をついて、気の抜けた表情で口を開く。

 そうだ。

 もう大半のことは話している。氷の始祖から聞いた話は一通り報告済みであり、この前も同じように話した。


「そうそれ! それで怒って悪さして、ああなっちゃったって」

「で? 他には?」


 身ぶり手振りで必死に説明する私をよそに、ニッコリ笑顔で問われる。


「だからないってばぁ!!」


 うがぁっ、と唸り両手で頭をわしゃわしゃ掻いた。

 前髪はどんどん荒れていった。

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