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物語・30

 耳をつんざくような悲鳴を上げ、ロックマンの身体から飛び出した夢見の魔物は、サタナースの風の魔法に捕らえられて、ゼノン王子の雷の魔法が施された箱の中へと閉じ込められた。電磁波に包まれた箱の中であれば簡単には出て来られないだろうし、一応二重にということで魔法陣で鍵をかけている。箱はトレイズが入っていたあの木箱だ。

 箱の中で暴れまわっているのかガタガタと暫くはうるさかったが、観念したのか疲れたのか直ぐに魔物は大人しくなった。

 暴れるだけ無駄である。これに懲りて私を殺そうなんて考えがなくなればいい。

 でもあの執念深さはそうそう変わらなそうだ。

 ある意味勝利への執念深さとしては私も似たような所があるので分からなくもない。

 だからといって私を殺していいわけではないし、絶対許さないけれども。

 次に同じような魔物が出てきたらギッタンギッタンのけちょんけちょんにしてやる。その上で説教だ。


 サタナースは動きが止まった箱を手の平ほどの大きさに縮めて、それを片手で掴み上げる。


「ゼノン、校長呼べるか?」

「先生は確か雷だったな。待ってろ」


 王子が人さし指を耳に当てて目を閉じた。

 雷同士だと互いを呼び合ったり一方からの交信が可能だったりする。

 確かにこうなれば校長先生を呼んで、この場をどうにか収めてもらうしかない。せっかく校長先生だけが事情を知っているのだから、その状況を利用しない手はないだろう。

 と思いつつ魔獣召喚みたいにホイホイ呼ぶのもいかがなものかとソワソワするが、そこは見て見ぬ振りをする。

 便利なものは積極的に使えばいいのだ。

 むしろこの学校で一番偉い人が味方なのは心強くて何よりなのだから、臆することはない。


「もう大丈夫だからね」


 私は腕の中でぐったりしていたロックマン少年の身体を支えて、起こさないように慎重に床へ横たえる。魔物との繋がり、魔法も解けたのか、大人の彼との繋がりも途切れているようだった。今はただ静かに眠っている。

 未来のあいつもこのくらい可愛げがあれば……いいや可愛げを求めるほうがおかしいか。あれはあれだ。可愛くなったところで怪しさが増すだけだ。


 少年の年相応でない、幼くあどけない顔へ乱雑にかかった髪を、私は指先でそっと払った。





 数分後、実験室に校長先生が来た。

 慌てた様子はなくゆったりとした動作で入口から入ってくる。


「これはどうしたものか」


 実験室内の惨状を見て顎鬚を撫でている。

 倒れている生徒三人を上から覗きこんで、校長先生は何やら考え込んでいた。

 あまりびっくりしていない様子にこちらがびっくりする。

 なんでここまで冷静なんだ。王子が事前に話していたとはいえ、まるで近所の猫を見に来たおじいちゃんのような穏やかさだ。


「魔物が入り込んでいたんです」


 皆で今までの経緯を説明する。過去の私を狙っての犯行だということは伏せた上で話した。

 色々厄介なのでこの部分は話さないほうがいいだろう。あくまでも痴情のもつれ故の魔物も巻き込んだ事件、という体で話を進める。


 にわかには信じがたい出来事だったので目撃者ではない先生に受け入れてもらえるのか不安だったが(隠していることもあるし)、校長は疑う素振りを微塵も見せず、そうか大変だったろうに、と小さい子供にするように一人一人の頭を撫でてまわった。


 そうして撫でられながら、私達全員はきっと同じことを思った。

 うちの校長、誰かに騙されたりしていないだろうか。


「ここは私に任せて、君達は早く未来へお帰りなさい」

「でも校長先生、いきなり私達がいなくなったら不審がられてしまうんじゃ」

「そうならないよう、その番人の魔法があるのだろう? それに君達の変えたくなかったものは、未来ではとっくに叶っておるようじゃ」


 心配をする私たちをよそに、校長は、ほっほっ。と声を上げて微笑んだ。


 校長先生が言うならば、私達もここに居続ける必要はない。

 こちらに来た時に、番人が校長先生と私達に説明してくれたことを思い出す。

 過去で起きた出来事。

 あったことをなかったことにはできないが、未来に向けて修正すべく、記憶や状況を不都合なく元に戻すことができるのだと言っていた。

 未来と帳尻を合わせるらしいのだが、難しくて理解が追いつきやしない。支障がないのであればそれに越したことはないが。

 帰ったら時間の魔法や番人について色々勉強しようと思う。


「お前に聞いてやる。どこへ戻りたい?」


 ベンジャミンにだっこされている時の番人が、私へ向けてそう言った。

 番人が一緒に着いてきているので、戻る場所はあの森でなくても構わないのらしい。

 ついでに『格好いい時の番人様、わたくしは貴方の奴隷でございます』というあの馬鹿げた台詞も言わなくていいようだった。

 良かった。あんな屈辱的な言葉、冗談でも唱えたくない。

 ところでなんで私なんだ。ベンジャミンじゃなくていいのかと、何か企んでいるのではないかという視線を向けて問いかければ、申し訳ないことをしたからだとショゲた顔をして謝られた。

 確かに番人がむやみに誰彼構わず過去へ送らなければ防げた事態だ。魔物に説教する前に番人への説教が先である。


 しかし何にせよ悪いことした奴が悪いのであって、番人は別に悪くない。今までのやらかしはどうかとは思うが。


 番人に再び、どこへ戻るのかと聞かれる。


「もちろん――」


 未来にいるロックマンの元へ。


 番人の指示で、私達は手を繋いで身を寄せ合う。

 みるみる内に風が渦を巻き、私達を大きく取り囲んだ。


「校長先生、ありがとうございました!」

「未来でまた会おうのぅ」


 優しい声が聞こえる。

 光に包まれる中、校長先生は私達に向かって大きく手を振っていた。

 







 身体へ一気に重力がかかった。


「どぉ、うわっ」

「うっ、」


 どこへ出たのか、ふかふかな物の上に五人重なりあって落ちた。

 いい香りがする。ふかふかのこれは布団?

 番人にはロックマンの元へ行くようにとお願いしたはず。

 はたしてここで合っているのか。


 一番下にひかれていた私は、四人分の体重の圧迫による息苦しさに悶えていると、ふかふかの下に生暖かい熱を感じて顔をそのままに視線を上にやった。


「重い……重くて吐きそう」

「ロックマン!」

「早く、どいて……」


 ただでさえ白い肌を青白くしたげっそり顔のロックマンがいた。私達の下敷きになって、小刻みにプルプルとふるえていた。

 白い寝間着を身につけて長い髪を降ろし、気だるげな表情で、自分の真上から落ちてきた私達五人へ向けて手を払う動作をしている。

 目を細めて、シッシッとそれはもう鬱陶しそうにだ。


 私達はロックマンが休んでいる寝台の上に落ちてしまったようだ。

 というか昔魔法陣で転移失敗した時といい今回といい、何故いつもこいつの上に落ちるんだ。おかしくないか。呪われている気がする。


 私は慌てて上の四人と共に寝台の上から絨毯が敷き詰められた床へと転がり落ちた。

 はからずもゼノン王子の腹の上に腰から落ちてしまったニケがウギャアと声を裏返して叫んでいる。王子の腹に落ちるのは私も恐れ多くて発狂するだろう。


 一方で自分は腰をうってしまったのか、鈍い痛みが走る。

 床に散らばっていた皆は、各々上体を起こしはじめていた。


 私もそそくさと床から立ち上がるが、腰の痛みなど気にしている余裕もなく、寝台から上半身を起こしているロックマンに慌てて詰め寄った。 


「ね、ねぇ、ロックマンよね……?」

「うん。おかえり」


 彼の両肩を掴んで瞳を覗きこむ。

 長い睫毛一本一本を肉眼で確認できるくらい近寄ってから、顔を離して全体をまじまじと見つめた。

 女性にも羨まれるであろう、憎たらしいほどのその美貌に変わりはない。シミ一つないムカつく肌だ。

 だが問題はそこではなく。

 

「お帰りって……そんなことよりそれ、どうしたのよ!?」


 

 ロックマンの髪と瞳が、黒く変色していた。


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