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物語・3


 草花で飾り付けられた壁からは優しい香りが漂い、まるで外にいるような気分になる。

 四人座りのテーブルは三人で座るのにちょうどいい。女の子は荷物が多いので(たぶん)余裕のあるほうが過ごしやすい。これからお菓子を沢山注文する私達にはこれまた嬉しい広さでもある。

 今日は休日を合わせていたので、小ぶりな杯に入った青茶をホッとひと飲みしながらゆったりとした時間を友人と三人で過ごしていた。


 ここは友人達と昔からよく行っている『踊り子草』という喫茶店だ。もはや顔見知りとなっていた店員のお姉さんは去年結婚したらしく、現在はお腹が膨らんでいて妊娠中である。あと一週間もすれば安全に御産するためのお休みに入るそうだ。お腹をポンポンと叩きながら、触ってみる? と言われたので恐縮ながら触れさせていただいたが、トンと手を蹴られたような動きに生命の神秘を感じて思わず涙ぐんでしまった。赤ちゃん、元気に生まれてくるんだよ。


「ニケは今日良かったの? 毎日忙しそうだったから無理しないでね」

「本当よ~身体壊したりしてない?」


 ベンジャミンと頷き合いながら優雅にお茶を飲む姿が絵になっている友人、ニケ・ブルネルの様子を窺う。マリスの指導のたまものなのか、綺麗で可愛い女の子が淑やかで美しく品のある女性に変化している。


 仕草が令嬢のそれなのだ。とても元平民とは思えない。

 ベンジャミンもそう思ったのか小声で「凄いわね」と耳打ちをされた。いやぁ本当に凄い。


「ちょっと疲れた」

「わー戻った」

「惜しいわ。あと三十秒で記録更新できたのに」

 

 手先にある時計をニケに見せて、ベンジャミンは緋色の緩く波打った髪を揺らしながら笑った。じゃれつく猫のような魅力的な瞳が瞬いて弧を描く。

 実はすでに何回かお茶をしており、暇を見つけてはこうやってニケの令嬢技術がどこまで進化したかというのを、本人の希望もあって見守っていた。けして冷やかしているわけではない。


「仕上げはゼノン王子様に見てもらいなさいよ~」

「殿下に失礼よ」


 釘をさすように、あの人は常に忙しい方なのよとニケは力強く言う。


「名前だけの貴族でも、堅苦しいことばかりよ。成り上がりだから、成り上がりなりに意地は見せないと」

「男爵も立派な爵位だと思うけど……」 


 ベンジャミンは不満げに唇を結ぶ。


「男爵だろうが伯爵だろうが、ろくに歴史の無い一家だし。元は商家だもの」

「今も商家でしょ」

「まぁね」


 おじさんとおばさんも気苦労は絶えないだろうが、ニケが家の地位を高めたいと望んだのは両親の為でもあるそうで、こちらが貴族ではないゆえに爵位持ちの商売敵に好き勝手されていた部分もあったのか、それに一泡吹かせてやることが出来るようになったと二人は喜んでいたらしい。

 本当は平民のままで頑張りたいという願望もニケにはあったらしいが、これでお見合いなんかしなくて済むかもしれないと嬉しそうに言っていた。彼女にとって爵位なんていうのはお見合い回避のための手段なのだ。彼女らしい大胆な選択である。カッコいいな。


 ニケは茶を啜ると、ハァと気持ちよさそうに息を落ち着けてお菓子に手を伸ばした。

 騎士の時の髪型とは違い、今日はそのブロンドの髪を珍しくほどいて遊ばせている。


「騎士団の方でも変な指令が出るしで、結構そっちもバタバタで」

「変な指令?」

「変な命令?」


 変な、に反応してベンジャミンと声が重なる。


「“時の番人”っていう、人形があるんだけど――」


 声を小さくしてニケは私達二人に顔を寄せた。

 時の番人。確かチーナが言っていたやつだ。ニケから聞かされた話はそれと同じで、過去にも未来にも干渉できる優れものだけれど、同時に危険性もあるというその人形……闇市で売られているらしいけれど、貴族の誰かが買い取って以来行方が分からなくなっているらしく、今は記憶探知で手あたり次第探っているということだった。


「例に洩れずなんだけど、そんな話私達にしちゃっていいの?」

「あら、これも立派な仕事よ。破魔士のベンジャミンに、ハーレの受付嬢ナナリーだもの。二人共情報が豊富でしょう? どこかで見かけたら連絡してちょうだいね」


 ようは私達にも見かけたらよろしくということで、これよこれ、と時の番人の絵を見せられた。鼻が大きい小人のお爺さん? がとんがり頭巾を被っている。どことなくありがちな見た目である。そのありがちな見た目だからこそ見つけるのが大変なのだろう。

 友人をも使うニケにいやらしくなったわねぇと、耐えようとしていたのかそれでも耐え切れず笑みが口角に浮かぶベンジャミン。使えるものは使ってでもその人形を探し出すという騎士団の方針を見る限り、本当に大ごとなんだろう。


 湯気が出ているポットに手をかざして息を吹く。

 こう……ほのぼのとした毎日を送っていると、もう面倒なことは起きて欲しくはないものだとゾゾさんや所長と同じく切実に思ってしまう。

 換気のために店内の開いている窓から涼しい風が入ってきて髪を揺らした。真剣な話をしていたニケも、それを笑顔で聞いていたベンジャミンも、一瞬目を細めてその風に身を任せる。


 良い風ね、本当ね、平和ね、そうね、こんなこと言っていると何か起きそうね、そうね、言わないほうが、そうね良いわね。


 ニケ、ベンジャミン二人の噛み合った会話が妙におかしくて私は笑った。


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