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物語・12

 王子の少年姿にならって、私達も続いて変身をした。

 

 変身術を使う時は、基本他の魔法と同じ要領で、想像力が必要になる。また、想像するのが苦手な人は、変身する人物の特徴をこと細かく声に出して(生年月日や住んでる場所とか、体型とか色々)呪文を最後に唱える。


「プリナーデ」


 ニケは淡いブロンドの髪の長さはそのままに、可愛らしげな黄色の服を着た少女の姿に変身した。入学したての頃の、二つ縛りのニケが懐かしくて高揚感がわく。

 二つ縛りにしてみてと懇願すれば、王子同様頬っぺたを赤くするニケ。卒業してからも滅多にしなくなった髪型だからなのか、あんまり見ないでねと言いながらも渋々髪を結わえてくれた。


 背の低い彼女をヒシッと抱き締めた私だった。


「胸がちっちゃくなっちゃったわ! やだ~もう!」


 一方でベンジャミンはというと、昔から大人っぽいなと感じていた私だが、大人になってから彼女の姿を改めて見てみると、いかにそれが子供の視点からしか見えていなかったのかが分かる。

 大きな瞳のまわりには睫毛がばっちりとはえていて、猫の瞳のようなそれからは愛らしさがキラキラとにじみ出ている。血色の良い肌と赤い髪が重なって、元気いっぱいの美少女という印象だ。今まで彼女に告白した男達が少ないのは、絶対にサタナースのせいだろう。何度も言うが本当にあいつで良いのかベンジャミン。

 その隣で鼻の穴をほじくっている12歳のサタナースの姿について特に言及することはない。


「ナナリーはやっぱり、焦げ茶髪だと違和感アリアリよね」

「元の色なんだけどね~」


 指パッチンをして、瞬く間に小さな姿へ変身した私を見たニケが、肩上まで短く伸びた焦げ茶の髪をじっと見つめる。今となっては馴染み切った水色の方が、気持ちの部分でも確かに安心感がある。黒に近い色にしてみると、何だか他所のお家に行った時のような「おじゃましまーす」感が拭えない。


 全員が変化し終わってから約一分後、騎士が傍までやってきた。


「……? ここに大人がいなかったかい?」

「えー? いないよ?」


 下唇に人差し指をあてて首を傾げるニケが絶妙にいじらしい。

 傍に来たのは白い隊服を着た、鼻の頭にそばかすが散らばった人の良さげな男の人だった。


「殿下? ここで何をしておられるのですか?」

「友達が迷子になったんだ。ここまで連れてきたが、すぐに学校へ戻る」

「もうご友人ができたのですね。入学の儀まで時間がありませんが、馬車を呼ばれますか?」

「いや、いい。走れば間に合うだろう」


 着地場にある時計塔を見れば、入学の儀が始まる三十分前だった。

 騎士の人はすんなりと私達へ道をあけてくれる。

 さぁ急いでくださいと、小さな私達の背中をそっと手で押して促してくれた。駆け足で学校へ向かう中、後ろを振り返ってみると、手を振ってくれているのが見える。


 あっさりと通してくれたことに、これでいいのかななんて拍子抜けをしてしまった。


「島の門番の騎士とは幼い頃から顔見知りなんだが……。たまに話す程度でも、あのジュートという男は中々話が分かる男なんだ」


 走りながら王子は得意気にそう言った。

 そんな、だいぶ歳上の男性に対して「こいつは話が分かる男だな」なんて感じることの出来る王子が控えめに言って凄い。

 そしてその見た目で話されていると更にカワイイが入ってなんかもう凄い。


「やっぱり黒焦げ呼んで良かったろ?」

「今後一切殿下にあの変な装置使わないでよね。迷惑だから」

「はぁ? お前あいつの母親かよ」

「母親?! 誰も産んだ覚えないわよ!!」


 わーキャーわーキャー、サタナースとニケが後ろで喧嘩していた。ニケがこんなに言い合いをするのはサタナースくらいである。互いに男だ女だと思っていないのだろう。見事に子どもの喧嘩にしか見えなかった。


 




 学校が見えてくると生徒はもう全員中へ入ったのか、校舎周りには人っ子一人いなかった。

 そびえ立つ煉瓦造りの大きな正門を、五人並んで見上げる。


「この中から、あの令嬢の気配がするわい」

「分かるんですか?」


 気配がするという番人の言葉に反応する。


「ワシの魔法にかかっている奴なら当然じゃ。しかしこの校門、おかしな術がかかっておるな。この門だけじゃない、敷地まわりは全て防御に似た魔法がかかっとるぞ」


 番人の言う通り、この学校はたくさんの仕掛けがある。主に外部からの侵入者対策として術が施されている箇所が無数に存在しており、先生達には「生徒に危険はないが、ご両親達には気をつけるように言っておいてね」と言われたことがある。


「よしここは俺にまかせろ!」

「どうするの?」


 サタナースが意気揚々と腕捲くりをしだした。


「おい校長ー!!」


 大きな声で何を叫んだかと思えば、校内で一番の権力者『校長』を呼び出す。


 ちょ、なにしてんの!?

 何一番厄介な人おびき寄せようとしてんの!?


「おい静かにしろ、黙るんだ」

「いやだってよ」

「いいから大きな声出さないで!」

「だってそこにさ、」


 校長いるし。


「……?」


 サタナースの言葉に四人がピタッと動きを止める。

 瞬きを繰り返す私達に、サタナースは校舎側を指差した。


「……あ、ほんとだ」


 そこには入学の儀が始まるというのに、校門の内側ではき掃除をしている校長がいた。

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