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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
11章 混乱の幕開け
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94話 戦車部隊

正平が桑原から苦言を言われても陸軍でやりたかったことは、近代化、機械化だった。

正平が初めて戦争に出た頃は、自動車はあったものの、これを戦場で使おうと考える者はいなかった。

何せ、日露戦争時の自動車は始動するのも厄介な代物の上、すぐに故障していた。

「動き出すのに何10分もかかるようなもので使い物になるか。馬ならすぐに走り出す」それが一般的な考えだった。

戦場では故障する道具など見向きもされない。当時の車なら、馬か人足の方がはるかに効率的だった。


それからわずか十年過ぎた後の大戦では、戦車が登場した。

秘密を保つため“タンク”と呼ばれて登場し、敵陣の塹壕を踏みつぶし、乗り越えるなどの大活躍を見せた。

タンクが陸上戦の主役になると確信するようになる。

それでも、まだ戦車をどのように使うかは手探りの状態でもある。戦車をどのように戦場で使うかが勝敗の分かれ目になると考えられた。

「今後の陸上戦では戦車を主力としてどう使いこなすかが勝敗の分かれ目になる。今までの戦術論は消えてしまっている」それが正平の考えだ。


「新しい武器が戦術を一変させた歴史はいくつもある」

戦国時代、種子島にもたらされた銃は瞬く間に日本に広がった。日本の鍛冶師が大量の銃を供給したばかりか、様々な改良を行った。

ただ、銃が勝敗を左右する武器になると、天下に知らしめたのは織田信長の長篠の戦いの勝利からだろう。

当時最強と呼ばれた武田軍を破ったことで、鉄砲の持つ能力を引き出したことにある。

信長の鉄砲隊を三段に置いて、次々と弾を打ち出すやり方に、武田の騎兵は脆くも崩れさった。

新しい兵器が新しい戦術を作り出した好例だ。


戦車もどのように投入すべきか。

「今、自動車が戦争に使えることが分かった以上、世界各国は皆必死で新しい戦術を編み出そうとしている。日本が遅れるわけにはいかない」

正平のこの考えを大戦後ヨーロッパに行った頃より強く持つようになっている。

戦車で部隊を作り、一つの兵団として活用しようと考えた。

「戦車を数台程度で使っても威力はない。十台以上できれば100台近くの部隊を編成すれば大きな戦力になる」

正平は更に輸送などにもトラックを使い、更に装甲車の開発も念頭に置いていた。

大量の戦車で戦場を切り開き、装甲車やトラックで兵士や物資を運べれば、戦闘は一気に有利になる。それには各部隊の連携を整える必要がある。

正平の計画は大胆で多額の予算も必要となる。それだけに理解させるのに何度も会議をして、説得することになった。


それでも陸軍には自動車の必要性を理解できない者もまだいたのだ。

これは横道にそれる話だが、東北の福島と山形を結ぶ道は馬車が何とか通るほどの道しかなく、これを改良して自動車が通れる道にする計画が持ち上がった。

ただ福島―山形間は高い山に隔てられ、ここの道を広げるのは大量の機材や物資、人足を山に大量に運ばなければならない。そのために採用されたのが、鉄道を山まで敷設して資材の運送に使おうとするものだった。高い山の急こう配に鉄道は登れないので、車両を往き来させるスイッチバックを十何段も設ける必要となった。これは難工事となり、完成しても急こう配の運転は危険極まりなく、自己も多発している。しかも道ができるとその鉄道は廃棄されるのだ。

自働車を通す道を作るなら、幅を広げながらトラックで資材を運ぶ方が合理的だと思う。だが、その時の開発責任者は鉄道を信奉していたようで、トラックには見向きもしなかった。笑えないが当時の陸軍関係者にも鉄道に絶対の信頼を寄せ、他の輸送機関を軽視していた者がいたのだ。

鉄道の電化計画が持ち上がった時、陸軍から横やりが出た。電線を破壊されれば不通になるのが、その理由だった。既存の蒸気機関の方が信頼を置けるというのだが、蒸気機関は重くて勾配になると遅くなり、時には立ち往生までする。おまけに運転手の他に石炭を投入する者が必要で、どう見ても電車の方が良いと思う。


そのような旧来の考えに固執する者達に、正平は実際に戦車部隊を作り、その戦力を示したかった。

丁度、製造会社から戦車の試作機が出来上がり、千葉の駐屯地で披露されることとなった。

車両は3台しかなかったが、それでも土煙を掻き立てながら、突進する迫力に関係者は度肝を抜かされている。

「何と言う姿だ。こんな鉄の塊が本当に動くとは思えなかった」

その目を白黒している者達に「今までは豆の様なものだった。これからはもっと大型化し、装甲も厚くする」と宣言した。


その他にも正平は軍用機の開発を行い、航空部隊、ひいては空軍の必要性も説いていた。

以前からの軍用機の開発も進めていく。

「空から攻撃して戦端を開き、戦車で敵を掃討する」そのような構想を正平は早くから持っていた。

「敵陣の堡塁や要塞を叩くには空からの爆撃が有効だ。それには高空から急降下する能力と強力な銃器が必要になる」

残念ながらこの当時はまだ、ミサイルなどは開発されてない。

正平は戊辰戦争で河合継之助が使ったガトリング砲などに着目した。

「発射速度の速い銃器なら、敵戦闘機を撃ち砕けるはずだ」

ただ、ガトリング砲は大型で操作するのも専従の者がいる。これを狭い戦闘機にどのように配置するのか悩ましい点もある。

二人乗りとし、操縦士と射撃手を置く。機は大型になり、エンジンもそれに対応することになるが、すでに開発出来ている。

「戦車と飛行機をうまく連携させれば最強の軍隊を作り上げることができる」

正平はこれらの開発に踏み切った。


そして郷土防衛隊の新設も提案している。

郷土防衛隊とは台風や地震が発生した時に、いち早く災害救助に駆けつける部隊のことだ。

「兵隊は只、敵国から我が国を守るだけではなく、地震や台風から国民の生命と財産を守る使命がある」

この郷土防衛隊については震災の時の経験に基づいている。

「消防や警察では組織の規模が小さく、機材も豊富に持ってない。戦時はともかく平時においては災害救助も陸軍には必要だ」

これらの考えは多くを理解されたが、開発予備費として予算化されるに留まる。それでも一定の成果が出来たと正平は満足した。


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