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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
2章 少年期
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8話 社会情勢(改)

この作品は私の妄想から生まれたもので、くれぐれも史実とは違うとご不満されないようにお願いします。正直作品の9割は私の妄想より生まれたものばかりです。それだけをご承知の上でお読みください。

塚田の少年時代、日本の防衛問題は朝鮮半島がらみが大半だった。清国は永く朝鮮を属国視しており、日本が朝鮮に干渉することを警戒していた。明治維新により近代化を進めている日本が朝鮮に進出するのを不愉快に感じ、艦隊を九州近海に派遣しあからさまな圧力を加えてきた。これに日本全体が刺激され清国との戦争やむなしという風潮になっていたのだ。

「清国はけしからん。戦争はやむなしだ」

「そうは言っても、清国は大きな国で日本が勝てるのか」

大人たちの論争は2分していた。正平はそんな大人たちを見ながら、吉岡に戦争の行く末を聞いてみた。

「私も日本と清国の軍事力については詳しくない。ただ、日本が開国し文明開化できたのに対し、清国は未だに西洋文明を受け入れようとしてない。これは国民意識が大きく違っているのではないかと思う。清国に行った人の話を聞くと、清の国民は己の利に聡いが国家意識に欠けるそうだ。言ってみれば自分勝手な行動をするということだ。これでは軍隊として団体行動はできないと見てよい。軍隊の規律が保たれるのか大いに疑問のようだ」

吉岡なりの見立てであった。それが正鵠を得ていたのは後に分かることだった。


もう一つ、当時の日本が最大の脅威と考えていた国はロシアだった。ロシアは2世紀前までは小さな国であったが、急速に力をつけウラル山脈を越え、西シベリアを支配下においた後も拡大を続け、半世紀前には沿海州を手に入れ、日本海に進出していた。ロシアは日本海側にも不凍港に艦隊を置き、日本海ににらみを利かせようとしており、朝鮮を支配して不凍港を得ることに執着していた。これに対し日本政府はロシアと殊更事を構える事態を避けつつ、外交努力により、朝鮮がロシア支配下に置かれる事態だけは何としても阻止しておきたかった。しかし、当時の李氏朝鮮は清国の衰えもあり、ロシアに近づこうともしていた。近代化を急速に進めていた日本は朝鮮に足がかりにして、ロシアの脅威を食い止めたいと企んでいた。ここに朝鮮は日本、清国、ロシアの三つ巴の草刈り場となっていた。


正平は将来何になろうかと漠然としか思っていなかったが、軍人に興味を持ちはじめるようになっていた。

陸軍幼年学校に入りたい気持ちになったのは、この時の社会情勢の影響が大きかった。

当然吉岡も正平の心境を分かっていた。

「幼年学校に行くにしても、まず体を鍛えておくことが重要だ。お前は何をしているのか?」

「子供のころから剣術を習っております」

正平の近所に剣術を教えてくれる人がいた。維新前には小田原で剣術師範をしていたと言う腕前で、吉岡と同じでこちらに療養に来て、暖かい気候が気に入りそのまま住み着いた。じっとしているだけではつまらないと子供たちに剣術を教えるようになったのだ。


「流石に侍の子だ。なかなか筋が良いぞ」その老人は小さかった正平を見て、すぐに褒めてくれた。

侍の子だと言っても、父はほとんど刀を持ったこともない役人だった。当然、剣術など教えてもくれてない。

「近所の老人が、暇つぶしに子供に剣術を教えているのか。まあ、無料だから別に構わない」正平が父に剣術道場に行きたいと言い出した時、笑いながら認めた。

老人は、正平を見どころがあると言って、他の子よりも厳しく指導してくれた。

それが、励みになり元剣術師範のもとに通うようになったのだ。

「いいか、剣と言うものは人を傷つける者でない。自分を鍛えるためのものだ。」

老人の指導は礼儀作法から、日常の生活の在り方までも教えてくれた。

正平が勉強の大事さを学び、大人に対し挨拶が普通に出来るようになったのはこの老人によってだ。


「剣術は今も続いているのか?」

「はい、週に一度程度ですが、教えを受けています」

「それは良いことだ。お前が軍人を目指すなら絶対に体を鍛えておかなければならないぞ」

その考えに正平は強く頷いた。

「ところで支那との戦争は知っているな」正平はまたしっかりと頷いた。

「どうして支那と戦争をするのか考えたことがあるか」

「支那が外交で無礼な態度だったからだと聞いています」

「世間や新聞ではそうだな」

吉岡は朝鮮半島を巡る政治状況をかいつまんで教えた。正平には初めて聞くことも多く、興味深いものだった。

「清国は王朝が出来て長く、次第に衰えるようになった。どうして長く続くと衰えるようになったか考えることはあるか」

「役人たちが腐敗し、民が困窮するからだと思います」

「うむ。その考えで間違ってない。もう一つの見方として、清国は満州人が支配する国家だ。大多数の者は漢民族でそのことに反発も持っている。

特に、『上に政策があれば、下に対策がある』と言われる考えが普及している。

役人が従わせようとしても、庶民が言う通りにはならないと言うことだ。

そのような国家は衰えてしまう」


小学校高学年になり、当時の子供は卒業したら丁稚奉公などにつくのが普通だった。正平も奉公のことを意識する頃、社会情勢は大きく変わっていき始めた。


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