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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
10章 改元
74/257

74話 メアリの決意

昭和は政治も経済も動乱の幕開けとなった。

大正最後の年の初に、首相加藤高明が急死して、若槻は元老西園寺の判断で首相になったが、議会政治においてこのやり方は正しくなかった。

本来なら、国会を解散して総選挙を行い、国民の任意を問うべきだった。そうすれば、普通選挙法が成立しており、25歳以上の日本男子によってはじめての国会選挙が行われることになる。その結果によって、首相が決まる慣例ができたのだ。西園寺の裁定は日本に議会民主制度が定着する良い機会を奪ってしまった。

このような選挙ではない、元老の思惑だけで首相が決められたことが後に影響することになる。

おまけに与党の憲政会は少数で国会運営は困難が予想されていた。案の定、与野党は国会内で激しい口論を繰り広げるようになる。双方において汚職事件が摘発され、更に野党政友会総裁になった田中儀一にも陸軍大臣時代の機密費横領疑惑が持ち上がった。第3党の政友本党は与党に協力して連立政権樹立を狙うべきか、政権交代実現の立役者になるべきか態度を決めかねており、一向に政局は安定することなかった。大正の最後の年、国会は紛糾した一年だった。


このような状況を変えるためにも、27年初頭にも若槻は政局安定のためにも国会を解散して、総選挙で、国民の裁可を得ておくべきだった。しかし若槻は選挙に勝てる自信がなかった。彼は「大正天皇の死去直後であり、政治争いをさけるべき」だと言って、政友会と政友本党を説得して国会を乗り切ろうとした。


「これって変よ!」メアリが口にする。

「だって、折角、普通選挙が出来るようになったのでしょう。何で総選挙しないの?」

メアリは天皇の死と政治は違うと言いたかった。天皇陛下が崩御されたのは悲しむべきことだが、国会の運営とは違うはずだ。いや、こういう時こそ、政局は安定しなくてはならない。いつまでも国会がくだらない汚職事件の追及ばかりしてないで、もっと重要なことを決めて欲しいのだ。

「君の言うことはもっともだよ。日本はまだ議会政治が成熟してない。国会がどういう場なのか、議員も国民も理解してないんだよ」

「それはどうしてだと思う?」

「一つには日本人は議論が好きでないことだね。日本人は『沈黙は金』『口は災いの元』など黙って行動することを尊ぶ風潮がある。口先ばかりで手を動かさない者を蔑むんだ」

「だから議論下手だと言いたいのね」

「うん。国会でも、法律の審議よりも、相手を攻撃することに熱を上げがちだね」

「それにはどうしたらよいと思うの?」

「難しいかな。これは政治家が、こんなやり方をしていては良くないと自覚しないとならない。おかしな政治をして、失敗を繰り返して分かることではないのかな」

「でも、そんな実験みたいなことをされたら、失敗を被る国民は堪った者じゃないわ」

「でもそれが民主主義の良さじゃないかな。民主主義の進んだ国で生まれた君にとっては当たり前のことでも、日本ではまだ普通に育ってない。ただ、民主主義の良さは間違ったことを国民が気づけば正せる手段を持っていることだと思うよ。」

「そうね、間違ったことに国民が気づくようになれば、政治も変えられるのよね。ねえ、私の行っている学校でも、政治のことをもっと話ができる場を作りたいと思うわ」

メアリは女子大で英語を教えているが、政治のことにも女性は参加していくべきと思っている。

「それは、良いことだと思う」

「本当に?あなたも協力してくれる?」

「ああ、協力するよ。僕は軍人だから政治活動はできないが、協力できることはあると思う」


夫婦で政治について語るうちに、メアリの決意が固まってきたようだ。

世界では女性の参政権を、1893年にはニュージーランドが、1920年にアメリカが、26年にイギリスが獲得している。

日本では、大日本帝国憲法により、男性だけに限定的に選挙権を与える制度から発足し、加藤内閣によって普通選挙制度になった。しかし女性は選挙権どころか、いっさいの政治活動が禁止されていた。

平塚らいてうや市川房枝らが1919年に新婦人協会を設立して、治安警察法の改正にとりくみ、22年に政治活動への参加などが成立しました。その後、24年に婦人参政権獲得同盟を結成していた。

メアリは日本にも女性の参政権獲得を目指すことにした。


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