7話 歴史を学ぶ(改)
この作品は私の妄想から生まれたもので、くれぐれも史実とは違うとご不満されないようにお願いします。正直作品の9割は私の妄想より生まれたものばかりです。それだけをご承知の上でお読みください。
正平が小学生にしては知識があり、呑み込みが早い。まるで乾いた砂地に水がしみこむ様に、知識を吸収していった。吉岡も子供だからと言って、難解と思われることも敢えて教えていく方針だった。東京から書物まで取り寄せてまで真剣に正平を指導し、それは小学校の高等科や中学で教えるもの含まれており、結構難しい内容であった。
「今、憲法制定の動きがあるのは知っているな」
「はい、民権論者の主張は新聞で知りました」歴史を教えていた時、ふいに憲法制定について話を変えた。当時の日本は憲法制定で世論が盛り上がっていた。
「なぜ、憲法制定が話題になっているか考えたか?」
「不平等条約を変えるためには、憲法を制定して、日本が文明国であることを示す必要があると言っています」大人たちの発言や新聞から得た知識だった。
こんなことまで理解していたのか、正平に知識欲に吉岡は改めて驚いた。
「その通りだ。憲法を作るのは不平等条約だけのためではないが、今はその説明はしない。ただ、憲法は昔にも作られていたことを知っているか?」
「えーと、武家諸法度(鎌倉幕府)のことでしょうか?」
「それもあるがな、聖徳太子の制定された憲法が日本で最も古い。世界でも相当古いものだ。
その話を少し言おう。この憲法は現在の西欧のものとはだいぶ違う。欧米のものは国民の権利を保障するものだが、聖徳太子のものは役人に対するものと言ってよい。ただ、今にも通じることが多くあるから、これを詳しく見る価値がある」そう言って、17の条項を一つずつ提示していった。その一つ一つまことに当然と思えるものばかりだった。
「太子は役人に公僕の使命を教えようとしたのだ。こんな古い昔に、これだけのことが書かれている。
いいか、こんな昔にもこれだけ優れたことが書かれているのだ。それが日本の伝統でもある」
吉岡は歴史おいても深く知識を持っており、正平に教えてくれた。
「今、憲法制定を言っている者の中で、太子の教えを熟読したものはいるのか?日本がどうして、長く歴史を繋いでこられたのか、分かっているのだろうか?
支那を見ろ!日本よりも古い歴史があるが、王朝は何度も変わっている。王朝が変わるたびに新しい王朝に都合の良い歴史は塗り替えられ、断絶しているのだ。法律も都合よく変えられてきた。
これは西洋諸国でも同じだ。革命でも独立戦争でも新しい政府が産まれれば皆、自分たちに都合の良い歴史に作り替えている。
天皇家が2000年も長く続いているのは、尊いからだけではない。天皇家があった方が日本の国にとって良かったからだ。もし、良くなければ欧州や支那ように王朝が変わり、歴史が塗り替わっていただろう。」
「日本は天皇制があり、そのことで政権が代わっても歴史までは塗り替えなかった。現在進められている憲法論議にその伝統が生かされているのか?
西洋の憲法の形だけ取り入れて、伝統を踏みにじってしまえば、何にもならない」
「塚田。お前は外人に負けたくないから、外国の文化を学びたいと言っていたな。だが、ただ、外国のものを取り入れただけでは単なる物まねに終わる。
外国を学ぶことは、日本との比較をすることでもある。
日本の歴史を理解し、そして外国の歴史を学ぶのだ。それをしないで外国の文明を受け入れたなら、祖先から受け継いできた伝統や風習まで壊れてしまう。
それは日本ではない。正しい国にはなりえない」
外国の知識ばかり学ぶのではなく、日本のことももっと理解するのだ。正平には新しい考え教えだった。
「日本の歴史を学ばずに外国の事を学んでも役に立たない。日本の伝統、風習は先祖が積み上げてきたものだ。それを古いもの、劣ったものと考えるのは早計だ。伝統風習にこそ先祖の隠された知恵が残っている。その知恵を理解すれば、より外国の文明が理解できる」
「日本の社会がどうなっているのか。表面的なことだけ知って、理解できたと思うな。どうして、日本人独特の教えが出来たのか、地方の伝統や風習がどうして今に伝わっているのかを考えれば、その地方の人の考え方が分かって来る。」
「祭りや行事だけを見ても、多くの重要なことが分かるぞ。この伊豆の地独特の風習がある。それをこの地方の人がどうして守って来たのか、理由を考えればよい。人々がどのように伝統を守って来たのか、またどのように伝統を変えるのか考えることだ」
その日の吉岡は熱く語った。
「お前が何をしたいか、何を学びたいか、それはお前のこと、この地域の事、日本の事を理解することでもある」
正平も外国の文明を学ぶだけでは良くない。その前に日本の事を良く知らなければならないと考えを変えていた。