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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
9章 震災
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67話 震災復興

「人々の信頼こそ、陸軍に最も大事なことだ。この信頼をどうやって築いていくのか考えるのが一番なのだろう。

部下たちが懸命になって、宿舎の資材を集めてくれたのも、被災した住民を思ってのことだ。

部下は誰も命令されたからやるのではなく、少しでも人助けをしたい、人の役に立ちたいと思ったから、ここまでの資材が集められた。

自発的に人を動かせるようになると、ここまでできた。

俺はこの経験を必ず生かしていく。」

「陸軍が国民から信頼を受けるようになるのは、日ごろからの地道な活動に寄るしかない。もし、不祥事がでれば一瞬で信頼は損なわれるだろう」

「まだまだ陸軍が国民から信頼されるようになるには、時間がかかる」

正平には苦い思いがある。


大正時代は政党政治が花開き、大正デモクラシーと呼ばれ、人々が新しい日本を感じ始めていた頃だった。暴漢に襲われたとはいえ原内閣はその先駆けとも言える民主政治を示してもいた。政党政治家が初めて首相になった、これは画期的なことだった。その反面、陸軍は蔑視や憎悪の対象にもなっていた。

相次ぐシベリア出兵の失敗。そして戦争ばかりして何も役に立たないと見られてもいたのだ。

「尼港事件」が完全に陸軍の評判を落とした。

厳冬に孤絶したニコラエスク港町で起こった惨劇、その場所にいた日本人の殆ど、民間人軍人も全て、そして領事館にいた領事家族も無残に殺されてしまった。一人国内にいて生き残った領事の娘の叫び「仇をとってください!」を国民は涙を堪えずに聞くことは出来なかった。

「今すぐ、復讐に立ち上がれ!」国民は大いに憤る。

それなのに、陸軍の対応は、政府の優柔不断に引きずられ後手に回った。

「あれだけの失敗をしたのだ。国民の信頼が失われたのは当然だ」


軍人が電車に乗るとあからさまに嫌な顔をされることが日常としてあった。

「国民の命を守れない軍隊は頼りにされない。」

「国民から信頼されないような軍隊は弱い」

それは、先の大戦でも正平が感じたことだ。

「ドイツが強かった時は国民の信頼があった時だ。ドイツがあれだけ優勢であっても、国民の信頼がなくなれば脆くも敗れ去ったではないか。」

その反省を日本陸軍も刻んでおくべきと正平は考えていた。

関東震災はその汚名を削ぐ絶好の機会でもあった。


正平のしたことはわずかなものに過ぎなかった一方、政府も東京市も復興に全力で取りくんでいた。

震災が起きて山本内閣は後藤新平を内務大臣剣帝都復興院総裁に任命し、復興対策の陣頭指揮に当たらせた。彼は台湾総督なども務めた有能な行政官だ。大規模な区画整理と公園・幹線道路の整備を伴う予算規模13億円という大胆な計画を立案する。それは国家予算の約1年分にもなるため、財界等からの猛反対に遭い、復興院自体でも評価が割れた。結局、議会が承認した予算は5億7500万円に過ぎず、当初計画を縮小せざるを得なくなったのだが、東京の骨格を作るものとなった。


「震災で破壊されてしまった東京を新しい街にする」後藤の計画は画期的だった。だが、先進的過ぎるゆえに理解されにくかったのだ。

道路建設に当たって、東京から放射状に伸びる道路と環状道路の双方の必要性を強く主張し、計画縮小されながらも実際に建設されることになった。南北を軸としての昭和通り、東西を軸としての靖国通り、環状線の基本となる明治通りなど、建設が行われている。当初の案では、主要街路の幅員は広い歩道を含め70mから90m、中央または車道・歩道間に緑地帯を持つという大規模な構想であった。これが実現できたなら日本が自動車社会になっても、東京は都市機能を十分に発揮できるはずだった。

だが自動車が普及する以前の時代ではその意義が理解されることはなかった。

その他にも公園整備や緑地保護などの政策もあったのだが、後藤の当初の思惑には程遠いものとなる。後藤の計画が実現できたなら、東京は様代わりした近代的な都市に生まれ変わっただろう。


ただ反対派の意見も理屈に合ってもいる。後藤の案は余りに予算規模が大きかった。

復興の資金は多くを外債に頼るしかない。日本政府は自力で復興を賄えるだけの財政ではなく、復興の資金を外国からの債券で補うしかなかったのだ。

まだ日露戦争で借りた金を返しきらないうちに新たな借金をすることになる。反対派の意見はある意味当然だった。

この後、日本の予算の中で外債への金利負担が一定額をいつも占めるようになる。これは日本政府の財務状況を一掃窮屈にさせるものとなり、後々までの政策に響いてくる。

(計画そのものは正しい。だが、実行することは大変難しい)正平は後藤の計画が縮小されるのを見ながら、現実に実行することの難しさを感じていた。

「俺なら、どうやったであろうか?大風呂敷を広げたと言われようと大きな目標を提示するべきだったのか、それとも現実的に出来る範囲での計画にすべきだったのか?でもいつかは東京にも都市計画に沿って道路を建設するのは正しいことだ。今後日本でも自動車社会が訪れる。それなら震災で多くの家が壊滅した今、思い切って道路計画を始めた方が理屈に合っている。ただ人々をどうやって納得させるか、それが問題だな。」

大胆な計画ほど多くの人に影響を与え、反発を受ける。反発を怖れ、中途半端な計画案を出すなら、何もしない方がましだ。

それなら、どうやるべきか。

その時点では正平に答えは見つからない。だが、いつかこの問題解決していこうと考えた。


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