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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
7章 シベリア出兵
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48話 アメリカの態度変化

日本政府はイギリスやフランスからの要請、陸海軍の工作にも拘わらず正式な出兵には慎重だった。「現地邦人の保護」の名目だけでは理由に不足し、また単独の出兵はリスクが伴うので、アメリカの参加が必要と考えていた。

そのアメリカが出兵に反対なら、日本も英仏の要請に応じる必要はないと考えていた。

そこにチェコ=スロバキア兵の救出を理由として、アメリカが出兵に踏み切ってしまう。


中欧のチェコとスロバキアは中世では独立していたものの、16世紀以降オーストリアの支配下に置かれていた。その支配下を逃れようとチェコ人やスロバキア人の一部がロシア領内に逃げ込んでいた。そうした子孫とロシア軍に捕虜になった者達が、第一次世界大戦が起きるとロシア帝国政府に協力して、オーストリアと戦い独立を目論む。その指導者がマサリクでチェコ軍団はロシア帝国に信頼され、2月革命が起きた後でも革命政府に信頼され、拡大して、二個師団3万5千人を数えるまでになった。だが、ソビエト政府はドイツと講和してしまう。行き場を失ったチェコ軍団は西部戦線に向かうために政府の許可も得て、シベリア鉄道で東に向かう。シベリアを渡り、ウラジオストックから海路でフランスまで行こうとしたのだ。

シベリア西部の町、チェラビンスクでチェコ軍団は西に向かうハンガリー人達とすれ違う。捕虜として西に向かうハンガリー人がチェコ人に鉄斧を投げつける。これに怒ったチェコ人がハンガリーを殺してしまったのだ。そして町の当局はチェコの犯人を拘束するのだが、チェコ軍団が街を占領して仲間を奪い返してしまう。

殺伐した時代だから起きたことだが、石斧を投げ込んだ方も逆上して殺害した方も激情過ぎる。ましてそれが街を支配するまでの騒ぎになるのだから、治安が維持されることがどんなに大事か分かる。

ソビエト政府はチェコ軍団に武装解除を命じたが、軍団を拒否して、逆に政府軍(赤軍)を撃破してしまう。士気も結束も高いチェコ軍団に赤軍はなすすべもなく、事件からわずか3か月でボルガ川から極東までのシベリア沿線の町は、チェコ軍団に制圧されてしまった。


これに乗じたのが、イギリス、フランス政府だった。チェコ軍団を利用して、ロシア国内に再びドイツと戦う軍隊を構築しようとしたのだ。ここでマサリクもチェコ軍団にロシア国内にとどまり、共通の敵と戦うように命じる。ただ、シベリアは広く、情報が錯綜する。

東のウラジオにいる者達は、西シベリアで仲間たちがドイツ人やオーストリア人の捕虜から攻撃されているのではないかと噂が流れ、救援の要請が連合国に出される。

パリで連合国は日本代表にチェコ軍団の救援を要請されるが、日本はアメリカが動かないことには出動できないと断る。

そのアメリカにも連合国は救援を要請する。独立の支援を求めにアメリカに渡っていたマサリクはワシントンでウィルソン大統領に面会の機会を得た。ここでマサリクは救援を強く要請した。

ウィルソンは民族独立を訴えるマサリクに強く共感した。「民族自立」標榜する大統領にとって、チェコやスロバキアの独立の願いを無下に出来なかったのだ。フィリピンに駐在するアメリカ兵7000をウラジオへの派遣を決定する。


アメリカの派遣決定は日本の国内慎重論を吹き飛ばしてしまう。

山県でさえ「今が出兵への絶好機」とまで言い始めた。

寺内首相も「ウラジオだけでなくシベリア鉄道も占有したい」と言い出した。

原敬や牧野伸顕は外交調査官として出兵に強く反対した。

「政府はアメリカの提議に応じるよりもただ出兵したいだけではないのか」

「陸軍は最小の兵を送るだけと説明するが、いずれは拡大をしていくのではないか」

ここで政府委員の伊藤巳代治が「日本側からアメリカに修正案を提示するかたにすれば良いのではないか」と提案する。

これには原たちも拒否できない。しぶしぶ黙認する形になった。

伊東はアメリカの提案通り、ウラジオだけに派兵し、後からシベリア全土にも派兵していけば原も黙るしかないだろうと読んでいたのだ。

こうして、日本政府は8月にシベリア出兵を正式に決定した。


広大なシベリアに兵士や物資を送るのは困難と考え、シベリア出兵に慎重な考えだった正平はこれに面食らう。

出兵に慎重な考えの山県が急に考えを変えた理由が読み取れなかった。

「どうして山県さんが急に考えを変えたのか解せない。シベリアに兵站線を伸ばすのは大変だぞ」

ただ、正平は技術論では多くを発言しても、政治的な発言はめったにしない。しても、山県や桑原から意見を求められた時だけにしている。

「役人は政治に口を挟まず、上司からの支持によって動けばいい。上司から意見を問われれば、自分の見解を3つほどだし、どれに決定するかは上司の判断に任せるべき」と考えている。

政府や山県が決定した以上、その命令に沿って行動するだけと考えていた。


その正平の兵站を心配する懸念は思わぬところから現実化する。

富山県魚津市の主婦たちの井戸端会議で「米の値段が上がる」ことに悲鳴がでる。

「米を船に積みだすのをやめてもらいましょう」と役場や資産家の家に押し掛け抗議をした。

全国で、シベリア出兵によりコメなどの物資が調達される思惑から、米の値段が上がり続けていた。魚津の米騒動は瞬く間に全国に広がっていく。


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