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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
1章 プロローグ
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4話 塚田正平(改)

この作品は私の妄想から生まれたもので、くれぐれも史実とは違うとご不満されないようにお願いします。正直作品の9割は私の妄想より生まれたものばかりです。それだけをご承知の上でお読みください。

塚田は伊豆の生まれで、山口出身でないため、陸軍中枢にはなれないはずだった。ただ、彼は日露戦争、第一次世界大戦にも従軍し、米国留学経験を活かし外交にも経験を深めていた。それだけでなく山県有朋には若いころから気に入られていたことも大きい。

その点を宇垣などの軍首脳部に高くされ、塚田は長州閥ではないものの、順調に昇進し、陸軍大将や陸軍大臣になっていた。

それに比べ荒木や真崎が中央から外され、冷や飯を食わされている。荒木たちは実績十分でありながら少し塚田よりも昇進が遅れた。

彼らは派閥を組み、他を排除する動きを見せたばかりか独善的な性格もあって、宇垣達の反発を買い昇進が遅れた。

塚田は派閥争いを繰り返している陸軍内部の動きを横目に見ながら仕事に務めていた。


正平が30代で経験した第一次世界大戦がその後の彼に大きく影響している。

第一次世界大戦はその後の世界観、戦争観を一変させるものだった。

飛行機や戦車、潜水艦など新しい兵器が投入され、国家の軍事力だけでなく、経済力まで争うものとなった。軍人の数や資質だけでなく、新たな武器を開発し投入できる工業力が物を言う戦争であった。人海戦術だけで戦争するのではなく、後方から軍隊に兵器や資材を送り込める産業がなければ到底勝ち目のないものだった。

「日本の産業力工業力を増大しなければ世界に勝てない」これは正平だけの認識ではなかった。

永田鉄山は1930年代初期当時の軍人の中では長期的視点に立って、主張した人物のひとりだ。

彼は次の大戦は国家総動員を必要とする国家総力戦になると考えていた。

「近代工業国家間の戦争は長期間続き、国民すべてを巻き込む消耗戦となるだろう。

またドイツにおいて、ナチス党が政権を握り、ヴェルサイユ条約破棄を主張した。

これは次の大戦につながるはず。」と考えていた。

ヴェルサイユ条約はドイツに莫大な賠償を負わせており、ナチス党がこの破棄を主張し、ヨーロッパは動乱の兆しを見せ始めていた。

永田は次の大戦を念頭にして、機械化などに軍事費を置くべきとも言っていた。その後の歴史を見ればほぼ彼の予測通りだったと言えよう。


塚田も今後の戦争は国家総力戦になり、それに備えて戦車や飛行機の開発を強め、多く配備しなければならないと考えていた。そのためにも北支の地下資源に注目した永田の考えには賛同したが、永田の北支を支那から分離させて、北支の地下資源を確保すると言う考えには安易だと思っていた。

(満州も北支にも多くの民族が住んでいる。他民族の日本人が入っていけば必ず、摩擦を生む。日本がこの地を支配するのは容易ではない)

「支那に進駐すれば、必ず現地の人間から反発を生む。地下資源を得るには、現地の人間の協力を得ないとうまく開発できない。君の考えは少し安易ではないのか」

塚田は永田よりも4期上の先輩で、直に苦言を言える仲だった。

「先輩の言われる通りです。私は必ずしも武力で地下資源を確保しようとは思っていません。武力を示すことで、蒋介石を威嚇して、我が方に有利に交渉しようと思っているのです」

「交渉を有利に進めるため、武力を示すだけなら君の考えに反対しない」

このように2人の意見は一致していた。だが、永田の薫陶を受けていた者達にどれだけ彼の真意が伝わっていたのか、疑問だった。

(交渉のために武力をちらつかせる)果たしてこれが現地の将校に分かっているのか。

永田亡き後の統制派は徒に満州、支那で戦線を拡大するばかりで、武力に頼りきりであった。

西園寺に言われるまでもなく、このまま統制派が軍部の中で力を増していけば、日本が危うくなるというのは確かな情勢と言えた。


西園寺の塚田への説得は続く。黒い眼帯をかけ、隻眼をじっと見据える正平に、西園寺は焦るかのように言葉をつなぐ。

「君に任せるしかない」

「私が受ければ、非常手段を取りますが、西園寺さんはそれを許しますか?」

その言葉を西園寺は説得に応じてくれると感じた。

「勿論だとも、何が何でも君を支持する」

今の内閣は、多くが官僚にありがちな日和見で八方美人の感があった。軍部の剣幕に押されて、軍事予算の拡大要求をあっさり認めてしまっていた。それでは北支に展開する軍を勢いづかせるだけで、撤収の目途が立たない。目下の急務である混乱を早期に収拾し、満洲と北支の戦線を収めることなどとてもできそうもなかった。

「頼むから引き受けてくれ」

そこまで言われ、塚田としては受け入れる肚を固めた。


この事態を切り抜ける自信などあるはずもない。ただ、彼が断われば、陸軍の軍備拡張を主張する統制派を封じ込める者がいないのも事実である。

陸軍は派閥争いを繰り返し、主流派となった統制派は支那で戦線拡大を引き起こそうとしている。

だが戦死者も多く出ているし、戦費も増大するばかりで、それに見合う利益が得られてない。それを言っても現地の軍人達にその理屈は通らなかった。

「北支の戦略物資を握るべし」

彼らは永田の言葉を使命に感じ、遺言のように思っていた。

「何としてでも、北支を奪わなければならない」

彼らを翻意させられるのは永田しかいない。その永田はこの世の人でなかった。


“暴走した民意は神でなければ止められない。どんな正しいことを言っても、馬鹿が多ければ馬鹿の話がまかり通る。馬鹿の話を信じた者は考えを変えることはない“


今の支那の現地組は馬鹿でしかない。目的を見失い、ただ、条件反射的に敵に応対するだけだ。

この地点を攻略すれば、どれだけのメリットがあり。どれだけの損害があったのか。

“常に情勢を見定め、検討しなければならない。”それが塚田のこれまでの考え方だった。

あのバカ達は少しも現実を見直そうとも、考えてもいない。

(私であのバカ達をどうやって収めるのか)

『理不尽』この言葉が脳裏に駆け巡る。もはや彼らを説得などと言う甘い言葉では納得させられない。非常なことでもやらなければならない。

いつも理詰めで考える正平には、このやり方が本意ではない。


家に帰り食事を終えた彼は、この問題で頭が一杯だった。

「理不尽だよな」思わずこの言葉が出てしまった。

「どうしたの?」妻のメアリが問いかけた。

「あ、ごめん独り言が出てしまった」

「正平、心配を抱え過ぎては駄目よ。成せばなる物よ」

成せばなるか。アメリカ女性の彼女がどこからそんな言葉を覚えてきたのだろう。ともかく妻のそんな一言で正平は新たな決意を固めさせてくれた。


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