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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
最終章
250/257

250話 休戦条約

ソ連との交渉は8月から10月までかかり結構難航する。まず極東地域の範囲で揉める。

まずソ連側は北樺太と沿海州だけの割譲案を提示した。

これに対し「日本はこの戦いで、膨大な費用が生じた。樺太と沿海州だけでは合わない。」とソ連案を一蹴。日本側は樺太、沿海州、ハバロフスク地方、チタ周辺の地域、つまりバイカル湖から東を主張した。

「バイカルからの東は極東地域に入らない。日本側の要求は余り広大すぎる」とソ連側が難色を示す。

両者は本当の狙いよりも要求を多く言う。その後、少しずつ譲歩し合って、妥協案を出してくる。外交交渉得てしてこうなる。

ただ今回の交渉は、ソ連側が早く妥協しようとする姿勢が早くから見られた。


独ソ戦はスターリングラード周辺で一段と攻防の激しさを増していた。

ドイツは最初に大勝利をしたが、その後はソ連軍の激しい抵抗に遭い、大した戦果もなく膠着状態だった。そこで次の戦略が建てられ、目標をモスクワと南コーカサスの二つに絞った。

モスクワは昨年攻勢をかけて包囲しようとしたが、ソ連軍の反撃に遇い、後退するしかなかった。もう一度攻勢をかけて首都を陥落させようとした。

南コーカサスは言うまでもなく油田地帯だ。ドイツには石油が不足しており、ソ連との戦争を始めた一因も石油欲しさからだ。ただ、南コーカサスは余りに遠く、ただでさえ長い兵站線をソ連に突かれ、失敗するおそれもあり、軍首脳はモスクワ攻略を進言していた。それをヒットラーは南コーカサス攻略を指示した。

ヒットラーはそれだけ石油が欲しかったのだ。

ソ連側もこのドイツの動きを掴んでいた。更にドイツ将校が乗った飛行機が墜落して、ソ連側に手に落ちる。その将校は南コーカサス攻略作戦書を携えており、ソ連側は詳細にドイツ軍の計画を手にした。

ところが、スターリンはドイツの狙いはモスクワ攻略にあると固執して、「南コーカサス攻略計画の入手」を敵の仕組んだ計略と決めつけた。

ドイツ軍首脳も計画がソ連に知れ渡ったことから断念しようとしたが、計画は実行直前だったためやむなく決行してしまった。

双方が手ひどい失敗を抱えたまま、新たな戦闘が繰り広げられたのだ。


そして南コーカサスに行くには、その手前のスターリングラードを攻略しなければならない。

スターリングラードはヴォルガ川西岸の工業都市で、ソ連の主要な軍備供給地でもある。ここを押さえられるのはソ連にとって命運を左右されることになり、是が非でも守らなければならない。

ここにスターリングラード攻防戦が行われることになる。

日本人からすると、一つの都市を巡る戦いと考えがちだが、ここはソ連だ。その戦場になった地域は、東京を中心に考えると、北は福島、西は山梨を越え、長野の一部、そして静岡伊豆半島まで入る、関東地方だけで収まらないほど広い。そんな広大な地域で、どちらも退くに退けない戦いとなり、悲惨で残酷な行為が繰り広げられていく。

後の調査で死者数はドイツ側が約85万、ソ連が約120万で、人口60万を超えたスターリングラードはたったの1万以下にになった。


その大事な時期に、ソ連は日本との停戦交渉を始めることになる。

「一刻でも早く、日本からの爆撃を終わらせないと、スターリングラードが持たない」それが本音だったのだ。

ソ連が懸念したのは日本の爆撃機がドイツ軍に連動して攻めてくることだ。

「日本の爆撃機の性能を見れば、ウラル山脈を越えてスターリングラードに侵入してくることは十分考えられる。そうなれば我が軍の防衛網は破られる」

ソ連はそれだけ追い詰められている状況だった。


結果、日本は北樺太と沿海州、ハバロフスク地方、そしてユダヤ人自治州を手にすることになる。日本としてはチタ市などが含まれるザバイカル州を手に入れたいところだったが、ソ連側もそれだけは断固として譲らない。

「譲るところは譲れ。ハバロフスクは諦めるが、チタは手放すな」それがスターリンからの指示であり、当局者はこれを実行したことになる。

それでユダヤ人自治州を譲ることで折り合うことになった。

ユダヤ人自治州はスターリンが国内のユダヤ人を集め、極東の地域に追いやる形でできた。面積は3万6千キロ㎡、南は黒竜江(アムール川)に接し、川を越えれば満州だ。スターリンは冷涼の地で農作物などあまり期待できない、この不毛の地をユダヤ人に割り当てたのだ。

正平は交通の要の地、チタが手に入るのを望んでいたが、外交交渉は相手のあることで叶わなかった。

「それでも、ハバロフスクを手に入れたことは大きい」十分満足できる結果だった。


ハバロフスク地方は面積78万8千キロ㎡、その最北端は稚内より北にはるか1900キロも離れており、北極圏と称しても良い山地だ。

日本の領土はパラオなどの南洋諸島からハバロフスクの北極山地まで、南国から北極迄を拡大する。それに加えて沿海州16万6千キロ㎡、北樺太4万キロ㎡、ユダヤ自治区3万6千キロ㎡などが足され、日本の面積は67万キロ㎡(朝鮮半島と台湾などを含めて)から170万キロ㎡一気に3倍近く増えた。

停戦と同時に日本軍は占領地の撤収を始めることになるが、それと同時にソ連には国民に日本との停戦が成立したこと、極東を割譲したことを発表することを条件にした。

「特に極東地域の住民向けに、ソ連政府から日本領土になった声明をだしてくれ。声明を極東地域の住民が受け入れたことを確認できたならイルクーツクから順次撤退する」

この条件にソ連が難色を示すかと思ったが、意外とすんなり応じ、ラジオや新聞に休戦条約が発表された。これにより、現地のロシア人の抵抗活動は少なくなり、占領統治が楽になる。


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