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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
24章 危険な賭け
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241話 ソ連との交渉

国内は軍部の一部に不穏なものがくすぶってはいるが、一応静かに過ぎていった。

しかし、ヨーロッパの戦乱は泥沼の様相を見せて、一層混乱している。

昨年6月ソ連との不可侵条約を突如破り、ソ連領内に深く進攻していたドイツ軍だったが、年を越してもソ連を制圧できないでいた。

一つにはドイツの誇る機甲軍団が冬将軍に動きを止められたことだ。あまりにソ連の冬が寒すぎて、エンジンなどの機械が動かなくなり、戦車や飛行機が出動できなくなった。

それ以上の理由として、ソ連軍の頑張りがあった。スターリンはヒットラーの裏切りを信じることができず、ドイツ軍の侵攻の情報を再確認するほど混乱し、別荘に引きこもるほどだった。しかし1か月後立ち直ると、強靭な精神力を発揮し、しぶとくドイツに対抗した。モスクワで焦土作戦を展開するが、自らは市内に残り戦う姿勢を見せて、市民を鼓舞し勇気づけた。持ち前の行政能力を発揮し、ソ連軍内の有能な若手を幹部に登用し、ソ連軍の立ち直しに成功した。若手将校もスターリンが問題点を良く理解し、適切な判断をしていることで信頼して、ソ連軍の士気は高まりドイツ軍に対抗した。

「国家を守れ!ソ連を守れ!」ソ連軍はしぶとく抵抗を続け、モスクワ周辺にまで迫ったドイツ軍を追い返した。

42年の初頭、ドイツとソ連の戦線は膠着状態に陥り、いつ決着がつくか分からない状態になっていた。それはスターリンが背水の陣を敷いて、全ソ連兵力を対ドイツ戦に当てたことを意味する。

極東に展開するソ連軍まで、スターリンは呼び寄せ、シベリアの東部はほぼがら空きの状態だった。


この状態を見て、正平と吉田外相はソ連に圧力を加えることにした。

外相はソ連大使を呼び出すと、「日本に、樺太全土と極東地域を割譲せよ!」と迫る。

ソ連大使も「そのような、国際法に反する脅迫は許されるものではない」と反論。

「もともと極東の地は1689年のネルチンスク条約により、清国の土地とされていた。それをロシアが清朝の末期の混乱に目を付けて、奪い取ったものだ。ソ連に極東の地を持つ正当な理由はなく、日本は清国を継承する満州国の保護国であるから、極東の地を保持する権利はある。」と吉田は強引な理論で主張する。

そして直ちに、ソ連政府に伝えよと迫った。


また年末から年初にかけて海軍に命じて、ソ連のウラジオ港に艦隊を派遣して示威行動をとるようにさせる。

「ソ連側が、これに狼狽して、日本船に攻撃を仕掛けたなら、直ちに激しい応戦しないで、ソ連側が先に仕掛けてきた動かぬ証拠を掴んで来い」

国内外にソ連が攻撃を仕掛けてきた証拠を示して、ソ連との戦争に正当な理由があることを主唱するつもりだ。

だが、ウラジオにいたソ連軍の兵力は日本が掴んでいた情報よりも少なく予備兵力を残していただけの状況だった。

当然、現地の司令官に日本艦船を攻撃する意思はなく、正平の思惑は外れる。

だが、この行動はソ連に大きな脅威を与えたのは事実だった。


東京駐在のソ連大使とウラジオの状況を聞いたスターリンは慌てた。今ギリギリドイツとの戦いに均衡を保っているが、ここで日本に攻められたら、シベリア東部は蹂躙しかねないと判断。

極東軍には先走った行動をとるなと厳命する。その一方で「粘り強く交渉をして、事態を長引かせ!」と駐在日本大使に督励する。彼は少しでも時間を稼ぎ、その間に外交により日本の圧力を緩和しようと考えた。

アメリカはソ連がフィンランドを攻めてカレリア地域を奪い取っても、少し抗議しただけだった。そして今、ドイツと戦っているソ連に最大の援助をしてくれている有難い存在だった。

「ルーズベルトなら日本に圧力を掛けて、日本のソ連侵攻を思いとどまらせようとしてくれる」そう判断した。


そのアメリカはすぐにアメリカ駐日大使が外相に面会を求めてきた。

「ヨーロッパで戦乱が起きている最中に、極東に緊張が高まるのは望ましくない。ただちにソ連への圧迫を止めてもらいたい」

「アメリカはソ連がフィンランドを攻撃してカレリアを奪い取った時は、大した抗議も行動もとらなかった。それなのに日本がまだ何の行動の取らない状態で、このような抗議を言ってくるのははなはだ不合理である。そのような国際常識に反するような言動は慎み、日本とソ連との外交問題に口を挟まないでもらいたい。」と吉田は一蹴する。


ここまでの、展開は正平と吉田の読み筋通りだ。

「アメリカ大使が面会を求めたのは明らかにソ連がアメリカに泣きついたからでしょう。ソ連も相当弱っている証拠です」

「スターリンが折れてくれるかどうか。極東全部までとは言わないまでも、樺太の北部は日本に譲ってくれればしめたものだ」

「去年から少しずつ圧迫を加えていますから、そろそろ回答期限を区切るのが適当でしょう。」

「それなら2月末までに極東を日本に割譲するか返答を求めよう」

二人でそのように打ち合わせをしていた。


だが、ソ連からの回答が来る前に、アメリカ国務長官ハルが来日する。

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