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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
23章 新たなる展開
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238話 党内の組織り

自由党の所属議員は昭和会や政友会から入党した議員を除き、ほぼ1年生議員ばかりで、国会国政については知らないことばかりだ。

当選したてのその議員たちを都内のホテルに集め、正平は次のように述べた。

「我が党は自由主義を御旗に集まった集団です。自由主義とは何か?人々に自由な考えや行動を認めようというものです。これは社会主義、共産主義との最大の違いです。

共産主義とは『1%の支配者と99%の奴隷を生み出す』制度だ。

今のソ連を見れば、共産主義の名のもとに、国民は集団農場や集団企業で働かされており、国民の殆どはみじめな生活環境に追いやられている。共産党の命令で職業や地位が決められ、賃金も決められている。国民の99%は奴隷として働かさせられていると言って差し支えない。


スターリンはソ連の豊富な農産物を輸出し、外貨を稼ぎ、軍需産業を育てようとした。そこで農家に農産物の提出を求めた。しかし農民にとっては折角収穫した農産物を国から安い値段で没収されることになり、出し惜しみして農産物の提供を拒んだ。そこでスターリンは農民たちを集団農場で働かせることにした。集められた農民の中にも、勤勉で働く者もいれば、怠け者もいる。どのような農民でも支払われる賃金が同じなら、働き者までやる気を失くし、怠け者になるものだ。その為に集団農場制度では農産物の生産は落ちてしまった。ソ連は農業国家であるが、穀倉地帯の干ばつや集団農業政策の失敗で、農村部でも餓死者を出すほど農業不振に陥った。


商売上手の者は良い品ぞろえをして顧客を満足させ店は繁盛する。反対に商売下手は顧客に十分満足する商品が届けられず店は潰れる。商売上手と下手なものを集めて集団で働かせたならどうなるか?共産党からの政策で、良く売れる商品でもあまり売れない商品でも押し付けられる。もっと良い商品を売ろうとしても共産党の政策に合わなければ、売ることができなくなる。共産党は大量に作れば、効率よく生産しようと考え、同じようなものばかりを造ろうとする。それが消費者に満足されるか、されないか関係なくだ。これでは商売上手の者でも良い商品がないので稼ぎが悪くなる。そして商売上手なものと下手なものを一緒に集めてしまうと、商売上手なものは下手な者達の分まで稼がなくてはならなくなり、やる気が失われてしまう。これが集団で働かせるのは無理な理由だ。


勿論集団で働くことで大きな力が発揮される。しかし何もかも共産党が計画し、国民に仕事を割りつけるやり方では、国民の労働意欲が失われてしまう。これが最大の欠点だ。人間は蟻や蜜蜂ではない。何もかもが集団で行動することができない動物だ。

自由に考え、行動するのは人間の本性だ。これが自由主義を掲げる我が党の基本であり、共産主義とは相いれないものだ。

ただしソ連の社会保障制度など見習うべきこともある。人には病気や怪我など不可抗力の災難が待ち受けている。もし不幸にもそのような災難にであったなら社会全体で生活を保障してあげるのは決して間違った考えではない。

諸君の中には健康保険制度や年金制度、生活保護制度など社会主義的な制度だとして否定的な考えを持っている人もいるかもしれない。だが、社会秩序を維持するためには生活苦にあえぐ人をなるべくすくなくすることが重要だ。生活に不安がなければ人々は真面目に働こうとするし犯罪に走らなくなる。犯罪が減少すればそれだけ治安維持にかける金も人も減る。社会保障することで全体として良い方向に回っていく。


諸君には自由主義と共産主義の利点と欠点を良く見極め、政策を論じあって欲しい。そして今ソ連の実情を少しだけ話したが、それ以外の他国の現状も見て、我が国の現状と比べ、我が国をどうしたらもっと改善できるのか考えてもらいたい。

少し前だが、地元に鉄道を敷設することばかり考えていた国会議員がいた。日本に何が必要かも考えず、ただ鉄道だけを地元欲しがったのだ。そんな国会議員によって、党利党略に走り、政友会と民政党は批判避難ばかりし合って、国政を蔑ろにしてしまった。諸君には国全体を考える議員であって欲しい。地元のことしか考えない議員は弊害である。諸君には国家財政、国家安全を念頭に、国防や外交を考え、国民の生命財産を守り、増やすためにどのような政策が必要であるか考えて欲しい」


そのような正平の考えのもとに、各議員には安全保障、外交関連、経済・財政、国土計画、社会保障、教育、交通・通信、行政改革など12の政策分野に分かれて研究会に所属し、議論を深めていくことが求められていた。

研究会は随時行われていくことなのだが、自由党の総合研修会が毎月行われることになり、その場で各研究会は政策の発表を迫られ、政策の是非を評価される。またこれに基づき自由党からの法案提出や予算案などに反映された。そのため、目ぼしい政策や何の発表も出来ない研究会は発言も出来なくなり、肩身の狭い思いをすることになる。勢いどの研究会も総合研修会の前後でよい発表をしようと活発に論議されるようになっていった。

各研究会は10数名の議員で構成され、関連する省庁から官僚や、正平の研究会メンバーが講師として赴きレクチャーする。これは自由党の国会議員と官僚とのつながりを強め、これらの官僚から政治家に転出する者も出る効果もでてきた。


自由党の国会議員は政策研究会の参加が必修となっていき、地元になかなか帰れない者が多く出てきた。それを解消するために、議員には秘書が付く他に地元の地方議会の議員とのつながりを持つことが不可欠となる。しかし各地方議会では政友会や民政党の力が強く、自由党所属議員は少数だった。地元に帰れず選挙区を廻れない議員ばかりでは次の総選挙では戦えない。

これに危機感をもった正平と安田幹事長は次の地方選挙の自由党候補者を公募し、複数の応募者が出た選挙区ごとに予備選挙をすることにした。これにより自由党は地方議会選挙にも候補者を擁立出来るようになる。

正平もラジオで自由党から立候補する人を呼びかけなどして、応募者は多くの議会で集まった。その応募者の中から、犯罪者や悪質な犯罪歴のある者、思想に偏りのある者を排除したうえで、殆どを呼び選出馬を認めた。予備選自体が自由党の格好の宣伝となり、地方議会選挙では自由党は多数の党員を議会に押し込むことに成功していく。

「なんとかこの1年で我が党も政党らしくなったな」自由党所有のビルに入って、正平は実感を込めて幹部に感想を漏らした


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