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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
23章 新たなる展開
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231話 軍事演習

正平の考えはフーバーの影響を受けている。もしフーバーの言うように「ルーズベルトならやりかねない」なら、真正直に外交交渉をしても効果はない。

アメリカは日本の支那への干渉を何度も非難してきた。それだからこそ正平は北支から撤兵し、蒋介石政権と交渉を続け改善は進んでいる。それをアメリカにも何度も言い続けていた。

「アメリカは日本が中国から手を引けば、もう日本を非難する口実はない。」はずだった。

ところがアメリカの外交姿勢に変化はない。以前のように日米関係は冷え込んだままだ。フーバーの言うようにルーズベルトの狙いは別にあるのかも知れなかった。


そうなると日本のとれる道は、アメリカの日本への挑発が続けばソ連との戦争になりかねないと思わせることだった。それはアメリカにとっても避けたいはずという読みだ。

勿論、フーバーの予測が間違っていて、アメリカが何かの理由で日本への態度を好転してくれるかもしれない。だが、その何かが分からない以上は、アメリカにとって望ましくない、ソ連との緊張を強めることを敢えてやる覚悟だった。

「だからこそ、アメリカが圧力を掛けてくれば、日本はソ連と戦うかもしれないぞと思わせる。アメリカが日本に挑発をしてくれば、日本は一層ソ連に圧迫を加える。ソ連は身動きできなくなりドイツとの戦争は出来なくなり、イギリス単独でドイツと死闘を繰り広げることになる。それを分からせるのだ」

「そういうことなら、いろいろ準備しなくてはなりませんね」莞爾との考えは一致する。

そしてその準備として、陸海空三軍共同の軍事演習を行うことにした。


◇―◇―◇―◇―◇

41年1月。新年の祝賀ムードが明けきれぬなかで、北海道から南樺太において軍事演習を行った。

冬季にしかも北海道と樺太において演習を行うのはソ連軍を意識してのことだ。この演習は、ソ連軍が突如、北樺太から攻め込んで、南の日本領土を占領し、北海道にまで押し寄せてきたと想定し、それに対してどのように対応するのか、机上及び、実地において確認するというものだった。

陸海空3軍総勢10万人、戦車3000両、空母10隻、航空機5千の大規模なもので、これほどのものは海外でも行われてこなかった。

そしてこれは内外の報道機関にも発表し、いずれは映画館でも上映され国民にも知らされる予定だ。


正平は演習を開始する前に、国防軍の幹部を前に次のように述べた。

「欧州の戦乱に乗じて、バルト3国への圧力やフィンランドへの侵攻に見られるように、ソ連の隣国に侵略する姿勢は明らかだ。これに対して国際社会、イギリスやアメリカは何の非難も制裁も課してない。ソ連を対ドイツ包囲網に組み込みたいからだ。おそらく、このままソ連の海外侵略は続くであろうし、これを英米は黙認する。

日本はこの事態を看過することはできない。ソ連が日本のすぐ隣にいるからだ。ウラジオから飛行機を使えば日本の主要都市はすぐ爆撃される。北樺太からなら戦車で直ぐにも占領される。

ソ連と国境を接する日本はヨーロッパで起きている戦争が遠い外国のことと考えてはいけない。ノモンハン戦のように必ず、ソ連は日本の領土を伺って来るだろう。今回の演習はソ連の侵略に備えてのもので、国土防衛、国民の平和と安全を守るためのものだ。演習に参加する将校兵士はこのことを強く意識して欲しい」

はっきりとソ連を敵国と認識し、いつでも戦う準備をしておくという声明だった。


航空母艦からの戦闘機の発着訓練、揚陸艦で浅瀬に上陸する訓練、戦車部隊を上陸させ直ちに展開する訓練。など実戦さながらの訓練だ。

浜辺に物資を送り込む訓練など編トンに関することも行われた。

これらは机上では想定してない不都合なことが起こらないかを事前に調べて置く目的があった。

また一つのデモンストレーションとして、一機の大型爆撃機から一発の爆弾が投下された。都市を想定して仮小屋で建設された街並みの上空で爆破すると、いくつもの砲弾に分かれて地上に落下すると一斉に爆破し、あたりには巨大な衝撃波が襲った。その後の光景は様変わりだった。半径1キロ近く範囲で小屋は跡形もなく、わずかに自然に生えていた樹木がそこに残るだけだった。

日本の将校達もこの光景に驚きの表情を浮かべていたが、海外の軍事専門家はもっと驚いていた。

正平はこの演習が海外、特にソ連の軍事専門家に強く意識されることを承知している。様々な兵器や車両なども敢えて隠そうとしていない。「知りたいなら、見たいならどうぞお勝手に」というスタンスだ。

「たった1発で地形を一変させるなんて信じられない。日本は新型爆弾を開発していたのか?」

「これが多数の住民の住む都市に落とされたら、数万の者が一瞬で焼死する。」

「小さな町なら一瞬で消滅する」

そのような声があちこちで洩れる。


新型の戦車も披露された。急坂や窪地などの障害なども苦にすることなく、見学者の前を走り抜けるさまは驚異的だった。

「あの速さは我が国の戦車には出せない。何より、走行中の発射命中精度は異常だ」

「これほど大規模な演習が行われているのは、ソ連に対しての警戒のあらわれか?」

「ソ連は極東地域に日本軍に対抗できるほどの兵力を置いていない。ソ連を警戒するにしても大規模すぎないか?」

「ソ連に対すると言うよりも、日本の力を誇示して、ソ連への威圧を狙っているのではないのか?」

等々の推測がされた。

正平は彼らがどこの国のもので、母国にどんな報告をしようと構わなかった。その報告が母国に警戒を与えられれば成功と考えていた。


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