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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
22章 日米の戦略
222/257

222話 外交課題

近衛を引退に追い込んだことで、国内のドイツ同盟論は鎮まってゆく。まだ松岡などは新聞紙上で「ドイツと同盟を組むべし」と論陣を張る者がいるが、同調する声は決して大きくはなってない。

ただ、日本への非難の声は海外から出始めた。

昨年からアメリカ議会で日本への制裁論が議論されだした。

「日本は中国を侵略している。北支から撤兵したが、満州に多くの兵を残している。満州国は独立国だと言うが、実際の権力は日本人が握っている。満州国は傀儡政権で成り立っており、これでは中国を侵略していることに変わりない」と一部の議員が主張していた。そして、彼らは日本への制裁を言い始めたのだ。

その声にルーズベルト大統領の影が見え隠れしている。


「一体何で、アメリカ大統領は日本を敵視しているのか?」

正平の勉強会でもこのことがよく話題になった。

個人的に好き嫌いは誰でもあるが、大統領のような重要人物が個人感情で政策を決めることはあり得ない。あったとしても、オブラートに包みあからさまな表現はしない。それが、ルーズベルトはドイツがヨーロッパの覇権を握ろうとしていることに言及して、ドイツを非難するのだが、そのついでに日本への非難も忘れなかった。

2年前に「伝染病患者を施設に隔離しなくてはならないように、現代文明を破壊しようとする国家も隔離しなくてはならない」声明をだした。その時から、日本はドイツやイタリアと並び隔離されるべきと思われている。

ドイツが武力侵攻をするたびに日本まで引き合いに出され非難するようになった。アメリカ議会で日本非難の声明が決議されたのも明らかに大統領の意向があると見て良い。


「日本が海外侵略をやめているのに、なぜ執拗に非難を繰り返すのか?」その理由を単に大統領の感情と見なすのは理屈に合わない。

「なにか、狙いがあるのか?」その目的を探ろうと外交官たちが有力政治家に接触をするのだが、これと言った明確なものが出てこない。

「日本を敵視することで、どんなメリットがアメリカ、そして大統領にもたらされるか?」その答えが見つからない。

現在、ヨーロッパで戦争が起き、イギリス側を支援しようとしているアメリカにとっても、世界各国に協力国を増やそうと考えるはず。

正平は明確に中立を宣言した。「日本はイギリス、ドイツと長年友好関係を結んでおり、片側の国だけを支援すれば、他方の国を敵にする。そのようなことはやらない。日本はヨーロッパの戦争に中立を貫く」それはアメリカにも届いていたはずだ。

そんな日本を中立国からドイツ側に追いやる理由や目的は何か。アメリカ大統領の意図が全く読めなかった。


正平としては、イギリスやドイツと戦うことは合っても、アメリカとだけは戦争をしたくない。

「日本とアメリカの国力を比べれば1対12だ。前の大戦では軍事力だけでなく、国家の総力を挙げての消耗戦となった。アメリカと戦った場合、必ず国力の違いが如実にでる。日本は国家を総動員してもアメリカには勝てない」それが正平をはじめとした勉強会のメンバーの考えだ。

勉強会だけでなく、陸軍や海軍でも諸外国との軍事力の比較研究はしており、その結論として「日本はアメリカに勝てない」だった。

「勝てないアメリカとは戦争をしない」そんな持論の正平にとり、ルーズベルトの日本への悪感情は厄介なことだった。

このことは日本国民にもいずれ知れ渡り、これが、双方の国民感情を刺激することを正平は怖れた。

日本の国民感情もアメリカ大統領に敵意を抱きかねない。そうなれば一部軍人の言う「アメリカ怪しからん」の声が強まりかねない。

実際にアメリカを非難する声が新聞紙上でも散見されるようになっていた。


「何か日米双方の友好関係を良くする案はないか?」正平は外務省に何度も指示を出した。

34年にアメリカの野球大リーグの選手たちが日本を訪問したことがある。

この時、ホームラン王ベーブ=ルースは海外渡航を嫌がり、来日に消極的だったと言われる。そこで駐米大使館員は散髪中のルースの元を訪れ、どんなに日本人における彼の人気が高いか説明し、是非日本に来て欲しいと要請した。これを受けてルースは大笑いして承諾したと言われる。

アメリカ野球チームは日本各地を訪れ、熱狂的な歓迎を受けた。また2年後には日本でプロ野球リーグが誕生するなど大きな影響を与えいた。

日米の友好関係が深まったのは言うまでもない。

このようなことをもう一度行えと指示したのだ。


40年は東京オリンピックが開催される予定だったが、ヨーロッパの戦争勃発で中止となった。その代わりとして、日米でのスポーツ大会開催が検討されたが、アメリカ側が代表選手の選出が整ってないなど、事前の準備不足により不発となった。

そこで出てきたのは、アメリカの文化人やマスコミ関係者、経済人を招き、友好ムードを作り出そうとすることだった。

「スポーツ大会に比べて、効果が少ないのでは?」と正平はこの案にあまり積極的ではなかった。

ただ、アメリカ訪問団の団長にフーバー米国前大統領を要請することになり前向きとなった。

「前大統領の来日ともなれば、国賓級の扱いとなり、様々な催しができる。是非前大統領の来日を実現させてくれ」正平の願いは切実だった。

前大統領と言う立場は公的に見れば、何の役職もないただの個人に過ぎない。しかしアメリカにおいては前大統領と言えば尊敬される存在だった。

このような人物が来日するとなれば、アメリカ国民にも何らしかの影響が出ると思えたのだ。

正平は前大統領の訪日を心待ちにする。


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