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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
21章 第二次世界大戦
211/257

211話 自由党結成

ラジオ放送で正平は次のように話した。

「国民も良く承知されていると思うが、8月我が国はソ連をノモンハンで破った。これは勇敢な兵士と沈着冷静な行動をとった現場指揮官の功績であるが、何よりも国軍を後押ししてくれた国民のおかげでもある。ここにもう一度感謝を申し述べる。

さてこの戦いを振り返ると、飛行機や戦車などが非常に有効であることが再確認された。これからの戦争はこれらの近代兵器がなくてはならないものだし、国防の上でも重要性が増すことは明らかだ。国民の皆さんには引き続き近代兵器開発に予算を割くことをご理解願います。

更には、この度の戦いは陸海空軍の三者が初めて共同して戦ったものです。勿論陸海が協力して、これまでも日清、日露、そして先の世界大戦を協力して戦い勝利してきました。しかし、今度の戦いは国防省の下で、三者が一体となって戦かったものです。海軍が開発してきた最新の戦闘機が敵の飛行機を撃ち落とし、陸軍の戦車が敵兵を蹴散らしたのです。それを支えたのは空軍の操縦士の活躍でした。三者がうまく連携してくれたからこそ、今回の大勝利に繋がったのです。

私は陸軍大臣として国防省のもとで三軍が結束するように動いて来ました。今、ノモンハンの戦いで私の念願だった国防、三者一体の姿が実現できたと思います。私はこれを機に陸軍大臣を辞め、首相として専念することにします。


辞任するもう一つの理由は、本来の政治は選挙で国民によって選ばれた者が国会を通じて行うべきものと考えています。選挙の洗礼を受けたものが国民の負託を受けて政治を行うべきものなのです。しかし、私は226事件後の後始末をするという名目で、西園寺公により任命され、首相になりました。現役軍人として政治を行うしかありませんでした。

今、ここで陸軍大臣を辞め、現役を引退することにより、私も政治家として国民からの審判をうけることができます。私のこれまでしてきたことの可否を国民の判断に委ねることができるのです。

これからの政治を国民皆さんの判断で決められるようになります。」このように決意を表明した。

当然翌日からの反響は大きかった。

新聞各紙は正平の陸相辞任を第一面に大きく取り上げ、論評を掲載した。従来、新聞社は軍人が政治に関与すべきでない立場をとっている者が多く、その論評の多く好意的なものだった。

「塚田首相、英断!」「総理として当然の判断」「国民に政治判断を問うことは民主政治の基本」

国民からの投書には、塚田陸相の辞任を惜しむ声と今までの労苦に感謝の声が多くあった。


続いて、昭和会を自由党として改称して、党代表に正式に就いた。その就任の挨拶は次のようだ。

「自由党は誰もが、自由に行動し発言できる社会を目指す。誰からの命令でも国家からの指示でもなく、誰もが自由に職業を選び、誰もがどこにでも行けどこにでも住め、誰もが自由にものが言える社会を目指すのです。

自由とは勝手気ままな行動を意味しない。法律や道徳に反しない範囲である限り自由ということだ。

ルールの中である限り、誰もが自由に働き、自由に動け、自由に物が言える社会を作る。

その社会では、商売人は自由に物が売り買いでき、農民は自由に作物を作り売れる。良い物を作れば、お客さんから喜ばれ、儲けられる。自由な経済こそ、活力のある経済だ。

また言論の自由が保てない国は腐敗する。政権に不正や汚職がはびこっても誰もが批判できなければ、政権は自らの悪事に振り返らない。良い批判があってこそ、良い政治が行われる。自由党は例え我が党を批判する者が出てきても、これを弾圧しない。ただ、間違った報道は世間から厳しい目で見られ、新聞社であっても経営が傾くだろう。私は報道各社が良識のある報道をすることを信じ、あれこれ報道に関与しなかったし、これからもしない。


社会主義は国や共産党の命令で物を作り、売っていく制度だ。同じものを作り続けた方が生産も上がり、生産者は国から評価される。だから同じ物しか作られなくなる。

ノモンハンの戦いで日本が勝ったのは、ソ連が同じような飛行機だけだったからだ。日本は対地用の爆撃機や戦闘機など何種類も投入した。その状況に合わせ、投入する飛行機を変えていった。数では向こうが上だったが、性能では日本が上だった。結果的に日本の飛行機が空を制し、陸上でも日本が優位に立てた。

自由に物が作れ、自由に開発できたから日本の飛行機が優秀だったのだ。

自由に物が作れ、売れることは国力が増すことに繋がる。


勿論、長い人生には働きたくても怪我や病気で動けなくなってしまうことがある。家が貧乏で学校に行けず、良い教育を受けられない子供は、碌な職業に就くことができず、生涯貧しいままだ。不幸にも金運にも家庭運にも恵まれず、年をとって孤独な生活を送らなければならなくなる者もいるだろう。

自由党は不運が重なり、困っている人にも目を向ける。保険制度を作り、少額のお金を国民に払ってもらう代わりに、いざ病気や怪我をすれば安い治療費で治してもらえるようにする。年金制度を作り、年をとって働けなくなるときに備え、若い時から年金を積み立ててもらい、年老いた時に使えるようにする。奨学金制度を充実し、貧しい家の子でも学校に行けるようにする。

自由党は保険制度や年金制度を作り、国民に安心して働いてもらえるようにする。

自由党は自由な社会、自由な経済を掲げるが、弱者にも配慮し、手を差し伸べる。」


前から昭和会が“自由党”になり、自由経済を掲げることは知られることであった。そこに正平が保険制度や年金制度の導入も掲げたことは驚きであった。

新聞各社はこの就任演説を大きく取り上げ、自由党が保険制度、年金制度導入を言い出したことを高く評価した。その上、言論の自由にも言及したことで各社は好意的だった。

「自由党、塚田党首誕生。自由主義経済を掲げ、活力ある社会を目指す。弱者にも配慮する政策も掲げる」

このことは国民からも大きな反響を呼んだ。特に、女性、とりわけ主婦層は大きな期待が寄せられた。

「塚田首相になって、女性の参政権が与えられた。そして、保険制度や年金制度を言い出してくれた。首相ならきっとやってくれる」

そのような女性からの声が投書に多かった。

なお、党副代表には宇垣一成、幹部に昭和会の代議士、幹事長兼事務局長には安田留吉がなった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最後の文なんですが、 なお、党副代表には宇垣一成、幹部に昭和会の代議士、幹事長兼事務局長には安田留吉がなった。 これは、昭和会の代議士全員が、幹部になったってことですか?
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