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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
20章 日本と世界への関り
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201話 ドイツを巡る動き

ヒットラーは、39年5月のドイツ軍当局者のハイレベル会議で、彼の本当の目標は「ポーランドの回廊」を獲得することであると明言する。考えを説明しながら、ポーランドを攻撃する口実として生存権の問題を使用した。

「 ヴェルサイユ体制はドイツ民族を分断するために作られてもので、到底受け入れがたいものなのだ。先の戦争でドイツが降伏したのに、連合国側は海上封鎖を解かず、わが国民は食料を得ることも出来ず、餓死をした者は多数に及ぶ。これはいかに連合国が冷酷で非人道的なことをやって来た証だ。その上で彼らは「二度と戦争を起さないため」と言って、ドイツに過剰な要求、ドイツ民族の分断を押し付けたのだ。彼らはドイツ民族を怖れ、ドイツが再び立ち直らせないようにあらゆる卑劣な手段を行った。

『ポーランドの回廊』もその一つだ。ダンツィヒには100万のドイツ人がいる。それなのに自由都市となって、ドイツの主権は奪われた。東プロイセンはドイツ領と言うのに、我々はポーランドの許可を得なければ往来を自由に出来ない。『ポーランドの回廊』によってドイツ民族は二つに分断されている。

私はポーランドにダンツィヒ・東プロイセンに繋がる道の建設をお願いした。今ダンツィヒと東プロイセンの同胞は困窮に喘ぎ、職を得ることも出来ず、食料さえも満足に手に入れられない。私は東に住む同胞たちを本国と同じように豊かな生活をさせようと思っている。ダンツィヒと東プロイセンと繋ぐ道は我らの同胞を救う道なのだ。

オーストリアを合邦した後、オーストリアがどれだけ豊かになったか思い出して欲しい。ズデーテンを併合した後、その地の住民がどれだけ幸福に暮らせるようになったか分かって欲しい。ダンツィヒと東プロイセンの住民も同様に豊かで幸せな生活をする権利を持っている。ドイツは絶対にダンツィヒと東プロイセンと繋ぐルートを持つ権利を有している。それを阻んでいるのが『ポーランドの回廊』なのだ。

私は『ポーランドの回廊』を得ようとしているのではなく、ダンツィヒと東プロイセンと繋ぐルートを確保したいだけだ。ルートができれば東の同胞たちの暮らしは良くなるし、『ポーランドの回廊』の住民の生活も豊かになるのだ。

私はポーランド政府に『ポーランドの回廊』に道を作らせてくれとお願いしているだけなのだ。ところがポーランド政府は一向に耳を貸さない。私は粘り強くポーランド政府と交渉するつもりだが、東の同胞の困窮ぶりを考えるといつまでもこの問題を放置しておくわけにはいかないのだ。

東のドイツ人の生存権を確保するためにいずれは『ポーランドの回廊』に手を打たなければならないと考えている」


これに対して、ポーランド政府は交渉の席においてもずっと強気な態度であった。

3月に行われたイギリスのチェンバレン首相の演説がポーランド政府に自信を与えているのは言うまでもない。

「イギリスはポーランドと共に戦ってくれると言ってくれた。フランスもそうだ。ヒットラーはイギリスとフランスを何より怖れている。イギリスとフランスが味方になってくれるなら、ドイツを怖れることはない」

もう一つポーランド政府が『ポーランドの回廊』を通るルートを認めないのは、チェコスロバキアの状況があった。

3月にドイツ軍が突如として、チェコスロバキアに進駐してきたのだ。それまでのドイツは脅迫めいた態度をとってはいたが、実力で他国を攻撃することはなかった。ドイツ軍のチェコスロバキア領への進駐はポーランド政府にとってドイツの武力侵攻に映った。しかもチェコスロバキアは解体され、スロバキアは独立をして、ドイツの言いなりの傀儡政権が誕生している。

ポーランドがドイツの要求を受け入れられなくなったのは解体されたチェコスロバキアを横目で見ていたからだ。


ヒットラーはポーランドの頑な態度に持て余すことになる。

この時点で、ヒットラーはイギリスとの阿吽あうんの協定を守りたい考えを持っている。

「平和的に東方面に進出するならイギリスとの対決は避けられる」ことを期待していた。

そう考えながらもヒットラーは別の対策も考えていた。

「イギリスがあくまでもポーランド政府を支援するなら、協定をいつまでも守っていくことはない。イギリスとの衝突も覚悟しなければならなかなる」そのような考えがもたげてきた。

「もし、イギリスと前面衝突になれば、イギリスとソ連との両面戦争になる。それは何としても避けたい」そしてヒットラーはソ連に接近して、秘密交渉を行うことにした。


その一方で、イギリスのチェンバレンもドイツとの協定は無に帰したと思うようになっていた。

「チェコスロバキアへのドイツ軍の進駐は明らかに協定を破るものではないか。ドイツがそのつもりならイギリスはあくまでもポーランドを支援する」

チェンバレンはドイツへの対抗策を考えることになった。それがアメリカとの強固な信頼関係だった。

アメリカはイギリスの植民地から独立したとはいえ、お互いに血のつながりを感じている。先の大戦でもイギリスを全面的に援助し、最終的にアメリカの参戦で勝利できた。もしドイツと再び戦火を交えることになれば、アメリカからの支援は絶対不可欠なものとなる。ドイツとの対決を前にアメリカからの支援の約束を取り付けたかった。ルーズベルトもイギリスに全面的に支援をしたいと思っているのは明白だ。

ただ、アメリカでは『中立法』が成立して、参戦はおろか武器や弾薬の供給もできないことになっている。アメリカ国民の戦争への忌避感は大変根強いものがあり、イギリスを支援することにも反対だ。このままではもしイギリスとドイツが戦いになっても、アメリカの支援を期待できなくなる。ルーズベルトがどんなにイギリス支援の必要性を呼びかけても、国民の戦争反対の声を前に、彼の声はかき消されている状態だった。そこで、アメリカ国民のイギリスへの親近感を強める狙いでイギリス国王夫妻の訪米話が持ち上がる。

ルーズベルトはイギリスのジョージ6世をアメリカに招くことにより、イギリスとアメリカの繋がりの深さを国民にアピールして、イギリスの支援が絶対必要なことを理解させる狙いだった。勿論チェンバレンもこれに同意して、国王夫妻の6月アメリカ訪問が決まった。


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