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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
3章 日露戦争
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20話 203高地

正平が危惧したように、ロシア側もこの時点で203高地の重要性に気づいており、着々と強固な陣地を築くまでになった。

あらゆる手段・資材を投入し203高地を要塞化していたのだ。

周辺に障害物を築き、その内側に深く塹壕を掘り、堡塁の銃眼、鉄条網、塹壕と塹壕を繋げる通路まで確保していた。

堡塁の壁はコンクリートで固め、容易なことでは破壊できない程の体勢を整えていた。

更に士気も大いに高まっている。

「日本軍は無謀に突撃を繰り返すだけだ。我らの機関銃の良い餌食になるだけだ」

ロシアにとってみれば負け続けていた戦争で、旅順の攻防だけが唯一勝利を収めていた。それだけに守備に就くロシア兵士の士気は高かった。

「俺達が旅順を守り切れば、必ずバルチック艦隊が駆けつけてくる。そうなればロシアは勝てる」

そんな声が旅順の要塞の中では広まっていた。

人は希望があれば、前向きに行動できる。

緒戦から負け続きだったロシア兵も旅順要塞だけは闘志が沸き起こっていた。

「まだまだやれる」備蓄もあったし、交代要員も十分だった。


対する日本軍は東部方面から11月26日になって、28センチ榴弾砲により砲撃をして、突撃を開始した。

ここで不思議なことに気付く。日本軍はいつも26日なって攻めているのだ。

たまたま準備が整ってきたから攻め手のだろうが、余りに規則正しすぎた。

これでは守っているロシア側に「26日ごろ日本は攻めてくるぞ」と知らせているだけではなったのか。

そんな偶然なことなのかしれないが、日本軍は月末になって突撃を繰り返した。

そして、士気の高いロシアの守備は堅く、日本兵に的確な射撃を行い撃退していった。

日本軍に多大な被害が生じてしまう。

乃木参謀室の思惑に反してロシアの203高地の守備は手薄でなかった。

『旅順要塞へ全面攻撃すれば203高地は手薄になるはずだ』そんな思惑が裏目に出てしまった。

正平が懸念していた、攻撃を一点に集中しない問題がでてしまったことになる。


「このままでは埒が明かない。203高地に集中攻撃しよう」ここにきてようやく、乃木参謀室も203高地に集中攻撃をすることに決めた。

翌27日から、203高地に集中砲火を浴びせ、攻撃を加え始める。

だが、万全の備えをしていたロシア軍の防御陣地は固く、堡塁や塹壕に籠るソシア兵士に弱体化は見られない。

「どうなっているんだ。なんで203高地は落ちない」なかなか陥落しない203高地に参謀室も焦りを感じ出した。

「もっと、攻撃を増やすんだ」新たに増援に来たばかりの部隊も到着早々に攻撃参加させてもいる。

それでも203高地は落ちなかった。

「旅順の部隊はどうなっているんだ」見かねた満州方面の総司令官大山巌までもが駆け付け、直接指揮を執るまでになった。

「徹底的に203高地を攻撃しろ」遅ればせながら203高地の攻防に全兵力を集中させることとなった。

今まで反撃されると撤退し、散発的な攻撃は連続したものになっていく。

この攻撃は翌月になっても継続され、9日間続けられた。

日本軍は多大の損失を出しながら、一歩一歩前進していく。それに対してロシア側は少しずつ交代を余儀なくされる。

「日本の攻撃はこれまでと違う。」守るロシア兵も日本の執拗な攻撃に耐えられなくなる。

少しずつ塹壕を掘り進め、203高地を目指して行った。

28センチ砲の砲火により、ロシア側の守備要員の補充が困難となり後退を余儀なくされたのだ。

これにより、ロシアの堡塁や塹壕は徐々に破壊されていきだした。

ロシア兵にも多数の死傷者が出るようになり、造兵や武器の補充が追い付かなくなった。

12月5日になって203高地を守るロシア側も遂に撤退し始めた。

ようやくのことで日本は203高地を占領することができた。

「見えます、ロシアの船が眼下に見えます」この時山頂を確保した兵士の報告だ。


それからは急展開を始める。

重厚な28センチ砲が203高地に担ぎ上げられ、突貫工事で砲床が築かれた。

直ぐに山頂には観測所が設けられ、その観測に従って、港湾に浮かぶロシア艦隊に28センチ榴弾砲が火蓋を吹いた。

命中の成否を克明に知らせる観測班とその指示に合せ砲撃を調整する射撃手。砲撃の精度は高まるばかりとなる。

旅順港に停泊していたロシア艦隊は次々と被弾していく。

ロシア側からも応砲しようにも、203高地はロシアの艦砲でも射程に入らず、有効な反撃が出来ない。一方的に撃たれまくられる状態となった。

ロシア艦は無防備さをさらけだしてしまった。

後で分かったことだが、この砲撃でロシア艦に沈没するまでの被害は与えられなかった。

ただ、この砲撃の目的は敵艦を完全破壊するのではなく、使用不能に陥らせることだ。その意味において山頂に重砲が設置された時点でロシア艦船の命運は尽きていた。

ただ一隻、逃げ延びようとしたロシア艦が血路を開いて、旅順を出港するのだが、待ち構えていた日本艦隊により撃沈されてしまった。

事実上、203高地の砲撃が全てを決めたといえよう。


20日になって太平洋司令官東郷は乃木将軍と会い、旅順港の封鎖作戦が終了したことを確認する。

「もはや旅順のロシア艦は使い物にならん」そう結論付けた。

それは日本側がバルチック艦隊の到着前に周到な準備ができることを意味した。

ロシア艦隊は予想よりもはるかに遅れていた。

日本と同盟を組んだイギリスは様々な理由をつけ、イギリス港湾施設の利用をロシア艦隊に拒否していた。

当時のイギリスは海上国家として最強を誇り、多数の港湾施設を海外に保有している。

インド洋や南シナ海ではイギリスの保有する港湾施設ばかりで、ロシア艦隊が使用できる施設は少なかった。

友好国のフランスが持つマダガスカルとベトナムの港湾施設だけが使える状態だった。

ここでバルチック艦隊は長い遠洋航海で食糧や水、更に燃料などの補給物資を調達していかなければ、マラッカ海峡を通り日本近海まで到達はできない。

更に、新たに購入することになった戦艦などを加えるためにもマダガスカルで待つことになっていた。

日本海軍にとり様々な用件によって、着々と準備を整えられる時間が得られた。


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