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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
18章 産業振興と国土開発
182/257

182話 全国遊説

「ともかく、日本経済を良くしていかなくては新党を立ち上げても無駄に終わる。私の目的は産業を振興し、就業者を増やすことだ。日本はまだまだ自動車産業が立ち遅れているし、飛行機もこれからだ。これらの産業を伸ばしていこうと思っている」

道作りなどで、地方の深刻な不況は緩和されてはいるが、地方の貧困問題の抜本的な解決にならないことを勉強会のメンバーは知っている。公共投資は失業対策には役立つが、恒久的な解決策にならない。

アメリカのルーズベルトが行っている『ニューディール政策』は大規模な公共事業を行い多くの労働者を雇い、失業者を大幅に減少させた。しかし資金を公債発行に頼ったために、いつまでも公共事業をやり続けることはできない。ルーズベルトは大統領に再選されたころから、公共事業を減らし景気引き締め策に転換するしかなかった。このため、近年では『ルーズベルト不況』と呼ばれる深刻な事態になっていた。

メンバーはアメリカの実情を良く分析しており、日本経済を良くするのは立ち遅れている産業を強化するしかないと認識していた。


「自動車会社と飛行機会社へのテコ入れですね。現状はどうですか?」

大発ダイハツ、日産それに豊田に昨年から軍用車を多く発注させている。ただ、民間の需要がないのも事実だ。飛行機については100パーセント軍需頼みと言って良いでしょう。これからは如何に民間需要を伸ばしていくのが課題ですね」

正平が昨年打ち出した、『地方自治体への軍用車の貸与』策は多くの村や町が賛同し、全国的なムーブメントになっていた。今まで走れなかったような悪路でも4輪駆動の軍用車(くろがね号)なら問題なく動けた。どこにでも乗り回せたくろがね号は重宝され、町と村の往き来には欠かせないものとなっていた。ことに自治体が管理し、運営することで、住民の要請があればいつでも対応できた。当初は2人乗りしかなかったが、すぐに4人、6人乗りの車も開発され、住民の足代わりになった。故障する車もあったが、メーカーの懸命な対応と運転手の技量でカバーされた。運転手が陸軍で運転技術や整備技術を身に着けていたことも良かった。

しかし、地方の自治体に車が行きわたればそれ以上の需要は見込めない。まだ、くろがね号を欲しがる自治体は多くあるが、早晩行き渡るのは目に見えていた。如何に民間の需要を掘り起こすかが課題だった。

「日本の車はアメリカ車と比べて性能が落ちると思われていますからな、どうしても買い手が限られています」

「金持ちに限って、安物の国産車より、アメリカ車を買うことで自慢したがる傾向がある。そして貧乏人は車には手が出ませんからな」

「やはり、国産車奨励策を打ち出すしかないと思います」

「ただ、やはり車の性能を向上させないと、国民がそっぽを向きます。少々国産車優遇を打ち出しても、国産車の品質が悪ければどうしようもないです」

自動車産業振興を巡って、意見が交わされていく。


また、飛行機産業の民需部門は全くなかった。陸軍と海軍からの発注だけが頼りで、民間機の需要はない。何しろ東京-名古屋間で1日2便が運航されていたが、運賃は現在価格で20万円に相当した。利用客が少ないので運賃を高くするしかなかった。空路需要がこんな状況では民間航空機が売れないのは当然であり、アメリカなどで航空機が販売を伸ばしていたのとは好対照だった。

民間の需要を伸ばさなくては自動車、航空機産業は伸びていかない。そのためには国民が車を購入し、航空機を利用できるほど豊かになるのが先決だった。ただ、国民を豊かにするには、自動車などの産業を活発にしないといけない。

まるで、卵が先か鶏が先かの理論と同じだが、巧い産業振興策は見当たらない。

「結局地道に、産業を育てて、国民生活を豊かにするしかないでしょう。公共事業も大切だが、公債を乱発するわけにはいきません。身の丈の予算で、産業振興をするしかないでしょう。幸いに景気は少しずつ良くなっている。過度な景気刺激策をとらず、産業を成長させていくだけです」馬場が結論付けるように言った。


「まあそうだな、経済に魔法は存在しない。奇をてらわず地道に産業を育てよう。ただ、1年半後には選挙がある。このまま景気が続いていくように、増税は行わないつもりだ。それでいいな」正平は一同の顔を見ながら言った。誰も同意の表情を浮かべている。

「景気が良くなければ選挙は勝てません。財政健全化の主張をしたいのはやまやまですが、緊縮策は当面見送ります」馬場が答える。

「後、塚田さんに注文ですが、全国遊説を行ってもらえませんか?選挙に勝つためにはどうしても、人を動員していかなくてはなりません。人集めには塚田さんの人気が頼りです」安田が注文を付ける。

「私はあまり、演説が上手くないが、それでいいのか」

ヒットラーは生まれながらにして、演説上手でだからこそドイツ国民が熱狂するのだと思っている。それに比べ、正平は演説が上手くないのを自覚している。「ヒットラーみたいなことはできないぞ」

「塚田さんが壇上に立てばいいのです。塚田さんを目当てに人は集まりますから。それで、新党への期待を高めていけますよ。いやあでも、後一年半ですか、長いようで短いですね。相当気合を入れないといけませんな。」安田がつい本音を漏らす。

「何だ、さっきは自信ありげに、全国組織を作り上げると言っていたじゃないか。まだ気合が足りないのか?」水野がそう茶化すと、一同から思わず笑いが漏れた。

新党設立し、自前の政党で政策を推し進める。あらたな目標に向けて皆の決意が固まった。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんちゅうか、アメリカ式よりイギリス式の国造りのが日本の水に合ってるような気もするが
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