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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
18章 産業振興と国土開発
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178話 宣伝と閣議

その上で『軍都建設』の宣伝活動に力も入れた。

「この建設現場を公開見学しろ。新しい未来都市が作られていく様子を全国民に宣伝するのだ」

正平はナチスドイツの宣伝工作を真似しようと思った。ヒットラーは演説が上手だけでなく、宣伝工作が巧みで国民の支持を掴んだ。特にアウトバーンの建設では自らスコップを手にして、国民に道作りをアピールしていた。

「ヒットラーほど露骨な宣伝活動はできないが、国民に新しい国づくりが始まることを意識させるにはちょうどいい」


北支撤退、河本逮捕で相当な意識改革をしたとは言え、軍部や右翼には、支那に進出して利権を確保すべきと言う意見が根強く残っている。

日本の最大の輸出先は中国大陸であり、日本の企業で現地に工場を建設しているものも数多くある。

「支那全土が国民政府に押さえられれば、日本の進出した企業まで抑えられてしまう。軍隊を派遣してでも日本の権益を守るべきだ」そんな意見だった。

現に朝日新聞などは「支那出兵論」を紙面に載せてもいた。

永田鉄山の「華北分離政策」を未だに心酔していたのだ。支那に進出しようとしている者にとって、鉄山の考えは理に適っていると見えていたようだ。

「欧州は再び大戦に巻き込まれる」鉄山の世界観、歴史観はここまで見事に時代の推移を読み通していた。

ドイツの目覚ましい復興と拡大はヨーロッパを大きく変えつつある。

自信を取り戻したドイツ国民は再び失われた国土を奪い返そうとしている。

それが新たな世界大戦になりかねない情勢だった。

「それに備えて、日本も『国家総動員』にして強固にする。北支の地下資源を活用して、軍事資材の確保をしなければならない」

鉄山の主張は理路整然としていた。


更に軍部には日清戦争に勝利し、その後満州事変などを通して、圧倒していたことから支那軍を過少に評価するきらいがある。支那軍と何時衝突しても楽勝と思っていたのだ。

だが、正平はこの楽勝論に与しない。

「支那人もいつまでもやられてばかりはいないだろう。現状を憂いて日本と対等になろうと考えるものが現れ。いずれ中国は統一され日本と対峙するだろう。蒋介石などがその代表だし、軍備の増強を推し進めている。今までのように安易なつもりで支那に進出しては、痛い目に遭うぞ。日本は負けなくても大きな損害を被る。」

事実蒋介石はドイツやアメリカ、そしてソ連からも軍事援助を受けていた。

「昨年なんとか北支から撤退させることはできたが、関東軍を中心に北支に進出を未だに考えている者がいる。彼らの意識を他に向けさせる」

それだからこそ、国民にも軍人にも新しい国づくりが始まったことを認識させ、「華北分離策」を忘れさせようと考えた。

「どんどんここの建設現場を宣伝していくんだ。映画の始まる前にはここの建設状況を映し出して見せろ!」

当時はまだ、テレビの実験放送が始まったばかりで、最大の娯楽は何と言ってもトーキー映画である。

全国の映画館では上映される前に新都市の建設風景が映し出されることになった。巨大なビル建設構想と幅広で歩道や並木もある舗装された道が碁盤目状に交差する都市の構想が観客に伝えられていく。度肝を抜くような構想に人々は、否応なく目を向けていった。



青葉が茂り始めた頃、閣議を行っていた。

賀屋蔵相が報告する。

「速報ですが、税収が予想外に伸びているようです」

昨年、塚田内閣は増税策を一つも取ってない。そればかりか企業への税制優遇策を実施している。企業活動を活発化させ、求人を増加させて失業者を減らそうとしていた。税収の伸びは期待していなかった。

「今年度は、税収が期待できないと言っていたが?」

「ええ、そうでしたが、意外と民間需要が旺盛に伸びていて、企業活動が活発だったと判断されます」

内務省にも統計調査を詳細に行えと指示を出しているが、報告結果はまだ出てない。部門別にどの産業が延びているのか数字で把握しきれてない現状だった。

「ともかく、財政が健全化するのは良いことだ」

「公共投資を今後も増やし続けますか?」

「軍都や車専用道建設などの既定のものは実行していきたいが、それも財政の悪化にならない程度とする」

「私もその方向でよいと思います」

正平の内閣によって、始まった公共投資は車専用道路と軍都計画であったが、車専用道路はまだ着工したばかりだし、「軍都」には陸軍と海軍からの予算も含まれており、財政に大きな負担になってない。

正平が『軍都計画』に飛びついたのも、陸軍と海軍の予算を回せるからだった。名目上の軍事費は変わらないように見えて、実質上の公共投資にお金が回ることになる。


北支からの撤退により、軍事費が抑えられたことも財政の健全化につながった。あのまま日中の間で戦争にもなれば、戦費がどれだけ膨らんだか知れないのだ。

さらに、日本が北支から撤退させたことを中華民国政府も歓迎した。蒋介石は満州国への攻撃を匂わせながらも、それは国内向けのポーズで、内心では日本軍と戦いたくはなかった。佐藤外相が国民政府に対話を呼びかけて、すぐに実現したのもその表れだ。蒋介石と会談しても満州国の独立など容認はしないが、だからと言って満州国への攻撃の意図は全く感じられなかった。

「蒋介石は国内問題にいずれ没頭しますよ」佐藤外相はそう見立てた。

36年の西安事件で国共合作が成立したとはいえ、蒋介石の共産党への不信感は根強いものがあると佐藤は思っている。

「中国共産党は国内で破壊活動をしているようなものですからね。蒋介石が受け入れるわけはないのです」

共産党は貧農からの支持を取り付けるために、大地主から土地を奪って貧農に分け与えていた。その政策で農村部では共産党の勢力は伸びたが、反面財産を奪われたものにとって、恨みは大きい。勿論蒋介石もこのことを良く知っており、共産党への不信感を増していたのだ。

「このまま、日本との友好関係が深まれば、再び蒋介石は共産党に牙を剥けるでしょう」

佐藤外相の考えに正平も頷いた。


こうした日中政府間の友好的な雰囲気が支那人にも受け入れられてきた。この一年で日本製品のボイコット運動が下火になり、日本製の売り上げが伸びていった。税収の大きく伸びたのは中国への輸出が大幅にのびたこともあった。

「中国に対する日本の利権を守るため、日本軍を派兵」を主張する一部の軍や伝統右翼、そして一部新聞社への強烈な反証になった。

「支那への派兵をしなくても、日本の利権は守れる」正平の主張が裏付けられた。

日中の貿易黒字を見ると、日本軍派兵論者は黙るしかなかった。


「このままの財政運営、外交関係を進めていこうと思うが、異論はないか?」その問いかけに他の閣僚たちからも異論は出ない。

「北支からの撤退と河本逮捕は一種の賭けだった。あのまま北支に日本軍を展開させていたら、戦争になっていたかもしれない。河本の逮捕によって、国民は軍への批判を口にするようになった。これによって、軍部も過大な要求を政府に言い出せなくなって、軍の改革もようやくできそうだ」

4月になってから空軍を創設したうえで、陸海空三軍を統括する国防省案を奏上して、天皇から内意をえていた。

軍の再編に絡む法案を次の国会で上程する段階まで来ていた。


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