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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
2章 少年期
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12話 将来の考え方(改)

そんな折、上級生から呼び出しを受けた。

「お前は生意気だ」学園内の林で4人の上級紙に囲まれていた。

正平はこの上級生たちが何で彼を呼び出したのか分かっていた。

先日、同級生がこの者達に絡まれていたのだ。上野と言う同級生は正平よりも2つ上で、茨城生まれで訛りが強かった。それをこの4人にからかわれていたのだ。

「その辺にしたらどうなんです」見かねた正平が止めに入っていたのだ。その時は何事もなく分かれたのだが、今、その仕返しがきた。

「生意気だと言われる理由は何です?」

「そういうところが生意気なんだよ」一人が飛びかかるばかりの姿勢で言い返した。

「いいでしょう。相手しますよ」

正平は落ちていた木の枝を丁度良い長さに折ると、片手に持った。


上級生たちはそこで戸惑ってしまう。取り囲んでしまえば、正平は大人しくなってしまうと単純に思っていたようだ。

それが木の枝とは言え、武器を持たれてしまうと、たじろいでしまう。正平の剣術の腕は校内で知らない者はない。上級生でも勝てる自信などない。

(どうする?)互いに顔を見合わせ合った。

下手をしたら全員叩きのめされてしまうかもしれない。

例え勝てたとしても、上級生が数を頼んで下級生と喧嘩した。そんなこと知られたら言い訳など何もできなくなる。


その時だった。

「誰だ!そんなところにいるのは?」聞き覚えのある教師の声がした。

上級生たちは慌てて逃げ出した。

「塚田か!ちょっと来い」後で聞いたが、部屋の上野が心配になって教師に報告してくれていた。

(上野の奴にしては、気が利くじゃないか)

負ける気はなかったが、喧嘩になったら相手の一人か二人は怪我をさせてしまう。そうなればこちらに非はなくても問題になるし、下手をすれば退学処分も考えられる。

上級生も後で絞られたようだが、お互いに教師から小言を言われただけで済んだ。


その後、成績優秀で、素行も問題ないことから、学年の指導付きになった。

指導付きとは年長の模範生徒の補助の役目で、下級生の中で成績優秀で、年長の者から選ばれるのが普通だ。

だが、学年で一番の年少の正平に指導付きの役目が言い渡された。

「塚田が指導付きになるのは当然だよな」それでも生徒の中に不満の声は出なかった。

勉強でも武術でも正平に適う者はいない。学年の全員それを認めていた。

そのまま上級生になっても正平の成績は落ちることなく、ほぼトップのまま卒業できた。


正平が陸幼を卒業した時期は日本が清との戦争に勝ち、朝鮮半島の支配権を得たのだが、せっかく奪取できた遼東半島はロシア・ドイツ・フランスの三国干渉により手放さなければならなかった頃でもあった。その上、ロシアは遼東半島の旅順に軍事基地を置いたので、事実上日本はロシアに遼東半島を譲った形になった。

日清戦争の勝利に沸いた日本国民はロシアなどの大国の横暴に悔しがるしかなかった。

「いずれはロシアと戦争するしかない」政治家や指導者を目指す者なら考えるまでになった。

ロシアはウラジオストックに軍港を持っており、ここで旅順が軍事基地になれば、二つの基地の中間点が朝鮮の釜山になる。ロシアがここを狙うのは誰の目にも明らかだ。

その釜山と日本の対馬は目と鼻の距離。誰もが大国ロシアの脅威がひしひしと感じるようになっていた。

「朝鮮をロシアの手に握られてしまえば、我が国の安全は確保できなくなる」

「このまま朝鮮をロシアのものにさせてはならない」

その点は誰もが同じ考えだが、ロシアは余りに大国だ。ロシアと戦をして勝てるのか誰もが不安に思ってもいた。


「塚田、お前はこのまま軍人として戦争にいくつもりか?」陸幼を卒業して帰郷の折、吉岡に面会するとそう聞かれた。

「はい」

「そのまま進むのが当然とは思うが、少し勉強の仕方を変えてみてはどうかな」

「軍学だけしても良くないと言われるのですか」

「今国民は、ロシアへの関心が極めて高いが、殆どが戦争に関してだ。ロシア人が何を考えているか知ろうとしてない。お前はいずれロシアとも戦うかもしれない。それなら、ロシアの歴史文化も知る必要があるだろう。お前はただの軍人になるようなものではない。戦争馬鹿にならないことだ」

その言葉が深く胸に残った。


陸幼から士官学校はほぼストレートのコースである。正平はそのまま何のためらいもなく陸軍士官学校にすすんだ。

そこで、正平は勉強態度を大きく変えた。

「なんか陸幼の頃の塚田と違ってないか?いつも授業で真っ先に質問して、教室でも声が大きかった。それが今じゃいるかどうかも分からない程、発言してないだろ」

「塚田の影が薄くなったのは確かだよな」

「まあ、確かに塚田は変わったよな。でも成績はダントツなのは同じだからいいじゃないか」

陸幼から同時に上がってきた者は正平の態度の変化に気づいていたが、それ以上気にもされなかった。

授業の他に、図書室でロシア関係の本を読む習慣に持つようになった。

「ロシアは広い」分かり切ったことだが、ロシアはとてつもなく広大でそして強かった。

(こんな国と戦って勝てるのか)士官学校の生徒そして当然の疑問だ。

ただ、吉岡からは「ロシア人の考えも知るようになれ」とも言われ、歴史や文学などの本も手に取った。

その上で分かったことだが、ロシア人の南への執着だった。


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