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旭日に顔を上げよ  作者: 寿和丸
2章 少年期
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11話 陸幼の授業(改)

陸幼は一般の中学と授業内容はさほど変わらないが、特に数学や図学に力をいれていた。

「砲弾はどのように飛ぶのか、数学を使えば理解できる」教師が黒板に数式と弾道を図解して説明していた。吉岡からも数学は学んでいた。しかし陸幼ではその数学を使って、応用することを学んだ。

正平はこれが面白くて仕方なかった。地上のものはすべて重力の影響を受けている。それなら物の動きも全て数学と物理で掴める。一時は世の中の全てが数学や物理で解き明かされるのではないかと思うほど熱中した。

「どれだけ加速度を上げれば地球重力を抜け出せるか?」ふと思いついて計算した。それが後で正しいと分かった時、誰も褒めてくれることではないが、自分だけで解き明かしたことに満足をした。

「数学を使えば、この世界は全て理解できるのではないか」

後から見れば、大きな勘違いであったが、数字に興味を持てたのは後に大きな経験になった。

もし正平がそのまま、数学に熱中し、物理を極めようと考えたならひとかどの数学者、物理学者になったかも知れなかった。

ただ、正平には子供の時に受けた記憶があった。


「俺が数学者として大成しても、あの外国人は何も思わないだろう。日本を豊かに強くしないとだめだ」

正平には数学者になる夢はなかった。

それでも周囲の人間の評価はあがっていた。

「あいつはどこまで、頭がいいんだ。こっちまでたじたじになるくらいだ」物理の教師がぼやくほど正平の知識欲は盛んだった。

「風の影響を受けにくくするためには、どのような翼にするべきか」陸幼の授業を越えて、流体力学まで学ぼうとしていた。

正平にすれば吉岡と言う哲人の前で習っていたことにより、ある意味吉岡の考え全てを受け入れるしかなかった。

だが、目の前の教師は吉岡と比べればはるかに小さいものにしか映らなかった。彼ら教師は質問をぶつける最良の相手にしか見えなかった。


一つ正平の存在を高める話がある。

正平は数学や物理の授業は何時間、聞いても飽きも来ないのだが、隣の席の年長者は全く違って戸惑っていた。

教師の出される問題に四苦八苦し、完全に値を上げていた。

「お前この問題を教えてくれ」どうにもならなくなり、正平に教わろうとした。

年長者は三角関数の一つに、明らかに初歩的な勘違いをしていた。

正平は吉岡から実務的に施行する考えに徹しきれている。

何事もこれがどう生活に役立ってきて、どう使えるかを理解しようとする。

年長者は公式を暗記しようとして、応用面でどのように使うのかを理解してない。

正平からすれば何でもないない問題であったが、その年長の同級生には難問であった。

正平は彼が何で問題を解けないのか、彼の考え方を問うた。その結果、問題を解くうえで彼の見落としていたことが分かった。

「この部分が理解できなかったら、先に進めないぞ」

授業が始まって、ひと月経つ頃には同学年の誰からも一目を置かれる存在になっていた。


座学だけでなく体育でも正平の能力は抜きんでていた。

特に剣術の授業では学年で相手になる者がいなかった。陸幼に入学するだけあって、他の生徒も武術を経験した者も多くいた。

だが、正平は小さいころから熱心に剣術を習い、才能があると師匠からも言われるほどだった。

ほとんどの生徒が身体の小ささ正平といざ打ち合いになると、あっという間に「面」や「籠手」を奪われるのだ。

打ち合いどころか、竹刀を合わすことさえできない。

「塚田、お前は他の事をやって居ろ。お前には後で俺が稽古を付けてやる」他の生徒では誰も正平とまともに相手できないと見て、星野と言う教官が言って来た。

正平と他の生徒との技量差があまりに大きかったので、次の授業でそう言い渡した。

その日の放課後の休憩時間、正平は星野から稽古場に呼ばれた。

星野は授業で正平が並みの実力ではないと思っているので、はなから本気だ。

それが、いざ竹刀を持って対戦すると、正平の実力を思い知ることになる。

正平から切っ先鋭く「籠手」を狙われ、それを躱してもすぐに胸元に「突き」が入る。

流石に教官だけあって、一本を入れられることはないが、体の小さな正平に懐に入られてしまうと体の大きな方が持て余す状態になる。

「こいつはなかなかのものだ」

互いに手を抜くこともなく、二人での本気の稽古に代わってしまっていた。


体の大きな方が剣道には有利とされる。だが、正平にはそんな不利なんて全く気にも留めてない。

大柄な星野の懐にすぐに飛び込んでくる。かといって強引に力で押し返して引き離そうとすると、別れ際に「面」や「籠手」を狙われてしまう。

星野はその機敏な動きを受け止めながら、舌を巻いていた。

「こんな生徒始めて見た。剣術を相当やって来たんだろうが、あれは才能と言うしかない。武蔵とか小次郎とかはあんな奴だったんだろうな」

星野は正平に稽古を付けるのが面白くなっていた。

そのことは教師の間でも話題にされた。

「星野さん、塚田に直接稽古を付けているようですが、どんな様子ですか?」

「なかなか良い腕をしています」

「まさか、星野さんがてこずるようなことはないでしょう」

「いえいえ、私も何回かに一つはやられますね」苦笑いを浮かべながら答えた。

「それは凄い、天は二物を与えないとうが、例外はあるもんですね」


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