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魔導師は高所恐怖症  作者: 不知火
第1章 始まりのプロローグ
7/8

突撃!隣の挑戦状

「君、毎日何処かの授業時間で足を運ぶが...大丈夫なのかい?」


白衣の人物が言う。


男だ。白衣を羽織った緑と黄色の混じった髪の男。


黒縁眼鏡の下には顎に少し髭は生えているが、理知的な顔がある。いかにもって感じだ。


「大丈夫ですよ。去年もこんな感じでしたけど、きちんと進級出来ていますし」


「参加することに意義がある、とは考えないのかい?」


「思いますけど...ちょっと訳ありでしてね」


「だろうね。 ただのサボりなら今頃退学させられている」


「でしょう?訳ありなんですよ」


「そうか.....だが、本が好きなのはいい事だ。 本は過去の人物と対話することのできる数少ない媒体だ。あぁ本は良い......」


しばらく陶酔したように1人でうんうんいっていたが急に向き直った。


「すまない。少しトランスしていたよ。 名乗り遅れたね。僕の名前は星 夢恩(ほしむのん)だ。この図書館で司書として勤めている。下は呼びにくいだろうから星で良いよ」


「す、凄い名前ですね......」


「だろう? これ、僕の親父が考えたアナグラムなんだ。名字まで含めてね」


アナグラム......ほし、むのん ほしむのん ほし、ほし......


「あっ」


「気がついたかい? イかれてるだろう?僕の親父。普通名字が星だったからってこんな強引なアナグラム作らないさ。それを許した母さんも充分トんでると思うけどね」


並び替えるとほんのむし、本の虫だ。


「でも相応しい名前なんじゃないですか?」


「幸いにも本は好きだったからね。イかれてるとは思うけど気に入っているんだ。この名前。子供の頃は散々イジられたモノだけどね」


星さんと他愛のない話から本の話までいろんな話をしばらく話していると3時限目の授業も終わる時間になった。


「時間なんで、星さん。そろそろ行きます」


「おお、悪かったね。 実に有意義な時間が過ごせたよ。ありがとう。 こんなこと言ってはいけないかもしれないが、またいつでも来てくれよ」


「はい。また明日来ます」


俺は図書館を去った。







次はコーヒーではなくパックジュースが飲みたくなったので購買に行き、飲むヨーグルトを買ってから教室に戻ると、移動授業に行っていたクラスメイトたちは教室に戻って来ており各々で雑談をしていた。


定位置に戻ると宗一が話しかけてくる。


「やぁ。お疲れ」


「こっちのセリフだよ。みんな汗かいてるな。ハードだったのか?」


「うん。魔術機動と魔術実技だったからね。キツかったよ。そっちは何してたの?」


「俺か? いつも通り図書館で読書だよ。いやぁ楽で良いなぁ」


と話していると何処からか視線を感じる。そちらを向くとこのクラスの花形グループ。つまりシャルロットと愉快な仲間たちのグループだ。 そしてその視線は当のシャルロットから来ていた......ような気がする。


「って思い上がりも甚だしいな」


「どうしたの?」


「いや、なんでもない」


「そうか。なら良いんだけど」


すると教室の扉が開き、授業担当が入ってくる。


「お前ら席に座れー、授業始めるぞー」


これから魔術理論の時間だ。


そのまま後の日程も何事もなく終わった。










それから1週間後、今日も今日とて座学を受けて図書館に行き、また座学と過ごしていた。


最近シャルロットの方から視線が飛んで来ているような気がする......勘違いではないレベルだ。気が付かない内に麻薬でも吸って幻覚でも見ているのだろうか......


「よし。今日の日程は以上だ。 室長、号令」


挨拶も終わり、後はさっさと帰るだけ...あ、そういえばあの本読み終わったから返しに行こうか。


そう思いつき、鞄の中にその本があるかどうか確認していた、んだが......


何か背中に全方向から視線が突き刺さっている気がした。


ついにここまで症状が進行したかと思い、本を返したら病院に行って検査をしてもらおうと思っただけで振り返りはしなかったのだが、次は強烈な怒気を背後から感じた。


これは勘違いじゃ無いと思い恐る恐る振り返る......するとそこにはシャルロットが立っていた。


「ど、どうした?」


「貴方に話があるのですが」


「お、俺? 人違いじゃないか?」


「いいえ貴方です。成瀬君」


「最高のSランク魔導師様が屑のEランクになんの御用で?」


「自覚はありませんか?」


「自覚?」


な、なんだ? まさか最近視線を感じてチラチラシャルロットの方を見てたのが不味かったのか? というかなんで一回も話したことすらないのにこんなに怒ってるんだ?


「自覚も無い......ここまで進行してしまっていたのですね......。これが日常化して当たり前になっている、と。」


「な、なんの話だ?」


マジでなんの話だ?全く身に覚えが無いんだが。


「貴方、授業をよくサボっているよね? 」


「え、」


まさかその事か? いやでもコイツには関係ないだろう?


「どうして?」


「どうしてって言われても...訳ありだよ」


「ただのサボタージュじゃないですか」


「いやサボりはサボりだけどちゃんと理由があるんだよ」


「じゃあそれを教えてください。」


「なぜ言わなければならないんだ?大体話をするのすら初めてだろう?」


と言うとさらに怒気が膨れ上がるのを感じた。俺、ここで死ぬの?


「この学校は最高の学校です。 日本と言う国の魔術の発信地。 日本人の高名な魔導師の方々はみんなここから出ていらっしゃいます。 それ程に最高の教育を施してくれる素晴らしい学校なの。なのにそんな教育を受ける資格があるのにそれを放棄してサボタージュ? 勿体無いにも程があります。 それならばその資格を誰か他の人に譲ったほうが何倍も有意義です」


と、捲し立てられた。


まだ続きがあるようだ。


「ですがそのような事は出来ません。だからこそ、真面目に授業に出てはいかがでしょうか?」


諭すような声色。だがその声になぜか心が騒ついた。


「うるせえな......お前には関係ないだろ?」


彼女は言葉を失ったように固まる。


「天下のSランク様にはゴミの中のゴミ、蛆虫以下の最底辺のEランクの心中なんてわからないでしょうなぁ?」


煽った。 煽ってしまったのだ。 言った後にヤバいと思った。


ブルブルと握りしめた両拳を震わせている。 体内魔力が暴れて髪や服が浮き上がっている。


「もういい、もうわかりました。 やはり貴方の性根を叩き直すことにします!」


「性根を叩き直す? 一体どうやって?」


漢塾みたいな感じだろうか。


「決闘です! 貴方に決闘を申し込みます!」


「け、決闘!?」


「決闘だってよ......」「これまたどうして」「こっちが知りたいよ......」 「そういえばアイツ、あんまり授業に出ないよな」「確かに。中等部も居たはずだけどほとんど見たことないな」「中等部の時もあんな感じだったぞ」「あぁ......あんな感じに責められたい......」「ちょ、おま、気持ち悪いぞ!」


また変なのがいるが今はそれどころじゃない。決闘だと?


「そうです。 私が勝ったら一度だけ貴方に命令する権利を貰います。それで今後の授業に出席する様に命令します」


「待て待て待て待て。確かに決闘のルールはこの学校に存在しているが、それは双方の同意がなければ成立しない。俺は絶対了承しないからな!」


と言うと横から東堂先生が割り込んで来た。


「ほう。なかなか面白い事になってるじゃないか......おい成瀬、決闘に了承しろ」


「な、何でですか?絶対しませんからね?」


「ふむ、これは使いたくなかったが......」


「ま、まさか......!?」


嫌な予感がする。まさかそれを言われると逆らえないアレを使うつもりか......?


「 【上官】命令だ。 その決闘を受理しろ。成瀬」


「ギャァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


魔導師だって自由に活動している訳じゃない。逆に活動は制限されるのだ。


魔術が一般的となった現代、戦争の手段は兵器から魔術戦に移り変わった。国ごとに魔導師を束ねた魔導兵団を組織し、国防に当てたり他国との戦争に使ったりしている。


その為軍のような序列がランクとは別に存在しており、それは俺たち学生にも例外なく適用されている。


俺たちは【魔導訓練生】と言う最低の序列だ。


そして東堂先生は【魔導兵】の肩書きと同時に【魔導訓練生指導員】と言う階級も保有している。つまりは上官だ。序列は絶対。 逆らえば厳罰が待っている。


「わかりましたよ......受ければいいんでしょう受ければ。ただしEランクとSランクですから勝負になりませんよ?面白くも何ともないと思いますが」


「力の全てを出し切って負ける、或いは出し切る間もなく負けた場合は無しとするが......手を抜いて瞬殺された場合は......どうなるか、わかるな?」


ブルっと身を震わせる。全力でやれ、と。


「了解です。ただ、1つだけ」


シャルロットに向き直る。


「何ですか?」


「俺が勝ったら勿論お前に一度だけなんでも命令する権利をくれるんだろうな?勝負の正当な賭け金だ」



「「「「ええええええええええええ!?」」」」



これで引いてくれないだろうか......?


「わかりました!! 受けて立ちましょう!!」



「「「「ええええええええええええ!?」」」」


「ええええええええええええ!?!?」


売り言葉に買い言葉か即決してきた!?


まぁいい。勝てばコイツになんでも命令できる......


もし仮に勝てたとしたら......、アレ(・・)になってもらおうか。


ルールの穴を突けばギリギリ出来る......筈。


「よし、ならば善は急げだ。 今日はアリーナの使用願いは出ていなかった筈。 現時刻は15:30。よって30分後の16:00よりアリーナにて決闘を開始する。時刻までに控え室に集合しろ。アルトリウムは青側、成瀬は赤側だ。遅れた場合は不戦敗とする。双方準備に入れ」


そう言って先生は教室を出て行った。


シャルロットはこちらを燃える正義の目で見てくるのでこちらも睨み返した。


そして同時にこうも思う......


(やべぇ、どうしよう......)




今、物語の歯車は動き出すーーーーーー

本日はここまでとなります。

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