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眉目麗しき君

 さて、台風一過などという言葉が私のいた世界にはあったが今日はその言葉がぴったりとハマる良い天気だ。心配の種だった明日のルーナの誕生日も賑やかなものにできるだろう。寝るにはまだ早いし前回の続きでも話そうか。あれから私達は嵐の中を歩き隣の領地のイラノートという街を目指した。そこには[アッカムズナイト]というこの国でも五本の指に入る大きな傭兵の組合、1番聞き馴染みのある言葉で言うならばギルドがあるらしくそこに集まる傭兵を目当てとした店も多くそこで職を探すと良い。もし駄目でもチウト領主お墨付きのドラゴン退治の功績で組合に入ることは出来るだろう。と勇史卿は言っていた。辛い道中ではあったが嵐のおかげで山賊に襲われるようなことがなかったのは不幸中の幸いだった。途中で見つけた旅人向けの宿屋で1晩を明かすことが出来たことも高い出費ではあったが良い出来事のうちの一つであった。

「おはようございます。」

 といつもより元気なくルーナが挨拶をしてくる。返事を返しつつどうしたのかと訪ねるとなんとルーナはこの晩馬留場の近くの小屋で雑魚寝をさせられていたという。昨夜は嵐で止まる人も多かったからだろう。言ってくれれば私の部屋のベッドを貸したのにとも思ったが兄弟然としているとはいえ結局は赤の他人だ。言い出しづらかったのだろうと思うと、少し、寂しいきもちになったのであった。

 とはいえ取り敢えずは金銭的にも今日中にはイラノートの街につかなければならない。お互い気を取り直して先に進む。今登っている山ともう1つ山を超えれば街に着く。少し急ぎになるが予定通りにつくことは出来るだろう。しかしことはそうは簡単には進まないと言うのが世の常である。1つ目の山を超えた先、次の山の麓で運命は私達を引き合わせたのである。

 ■

 カラカラと車輪が回っている。ぬかるんだ道で車輪を滑らせたのだろう。この世界に来て馬車が転倒するという事態は多くはないが無い訳でもない。私も何度か見た事はある。しかし私はその光景に妙なデジャブを感じていた。なにかルーナと出会った時と同じものを感じる。馬は健在らしく道に座り込んでいる。丈夫だ。何人か人が放り出されているが全員命に別状はないようだ。私とルーナで安全な場所に移動させ怪我の手当をする。その中でも特に上等な鎧を着ている少女の兜を取ろうとした際、がバリと身を起こした。寝起きだからか頭を売った後遺症かしばらくぼーっとしていたようだが私と目が合うと即座に立ちあがり腰に手を当てる。恐らく剣を抜こうとしたのであろうが先程私が外してしまった。それに気付き即座に組手の体勢を取り大声でこう言った。

「貴様賊か!兇手か!否どちらでもいい!私を[単眼卿]タタラ シンの第2公女と知っての狼藉か!もしそうであるならば只で済むとは思うな!集団で来ようともこのツクヨミ!首だけになっても貴様らの喉を食いちぎってくれよう!」

 それは間違いなく戦士の気迫で明確な殺意は圧倒的であった。ルーナが私の腕を掴んで震えている。しかし目を覚まして直ぐにこれだけの啖呵を噛まずに言えるとはと思うと私は自然と拍手をしていた。

「…ッ!貴様!」

 当たり前といえば当たり前ではあるが侮辱と捉えたらしい彼女が私に殴りかかってくる。

「待ってください!」

 とルーナが私とツクヨミの間に割ってはいる。

「なんだ貴様、奴隷風情が思い上がるなよ」

 その言葉に私はカッとなりビクトリアに手をかけた。今思えばあれは流石にあまりにも短気が過ぎたとはずかしくなる。

 “master殿!今貴族との死闘は悪手です!”

 とビクトリアにも宥められる。

 “ツクヨミ様も!ルーナ様は奴隷ではありません!”

「ふん、姿を表さない臆病者め!私が賎しい奴隷印の放つ魔力に気づかないとでも思ったか!」

 ふたりの家族を貶された(と感じた)私は遂にビクトリアを構え臨戦体勢になる。

「ぼぼぼボク達はここで倒れていたあなた達を介抱していただけです!そそこの方達を見てもらえばわか、分かります!」

 本当は怖くて仕方ないだろうにルーナは震える声でツクヨミを説得する。ツクヨミが警戒を解かずに他の怪我人に近寄る。付き人らしい彼らは掠れた声で何とか事のあらましを説明してくれる。

 ルーナにばかり負担をかける訳にはいかないので私も構えを解き事のあらましと自分達の経歴をツクヨミに話した。

「なるほど」と暴龍撃退の認め書きに目をやりながらツクヨミは構えを解いた。やはり領主のお墨付きが1番効果があるらしい。

「どうやら私はとんでもない勘違いをしていたらしい。」

 そう言いながら兜をとる。

「すまない、そしてありがとう。」

 彼女の素顔を見た時私は息を呑んだ。貴族らしいよく手入れされた髪、やや日に焼けた健康的な肌、そして一番目を惹いたのが本来2つあるべき場所にある大きなひとつ目である。深い夜空を思わせる濃紺色の瞳はそこに映るものの心の奥底まで映し出すようで私は目を逸らしたくなる。しかし目を離すことが出来ないのはその目の持つ魔力であろうか。

 “Master殿?”

 ビクトリアの声で我に返る。

「驚くのも無理はない。ひとつ目はこちらには余りいないからな。それにしても」

 と、ルーナの方を見て微笑する。

「貴殿は兄思いのよい妹をもったな。」

「ぼぼぼ、ボクは男です!」

「何!?」と驚愕しマジマジとルーナを見る。ルーナも訂正した手前止めはしないがあまりツクヨミの目にマジマジと見つめられるとはずかしいらしくモジモジとしている。一通り見終えてしばらく黙り込むと「重ね重ね済まない」と先ほどより深く頭を下げた。

 オホンと咳払いをひとつ。

「貴殿らはこれから何処へ?もしこの先にあるアジフ殿の領地に向かうのならば礼と謝罪をこめて同乗を申し出たいのだが」

 存外律儀な性格らしい。私達もここで時間をとってしまったために徒歩では間に合いそうにもない。有難くその提案を受けることにした。

 馬車内で元来好奇心旺盛らしいツクヨミは色々なことを聞いてきた。話してみると出会い頭の威圧感はなく明朗快活で最初は恐々としていたルーナも街に着く頃にはだいぶ打ち解けていた。

 ツクヨミ達の目的地に到着し礼を言って歩きだそうとした時後ろからツクヨミの声が聞こえた。

「覚えておけ!私はこの領都で騎士団長になるぞ!」

 それは馬車の中で聞いたツクヨミの夢であった。ツクヨミの家は貴族の中でも低い位置にあるらしく領地を持っていない。そういう貴族の出の者は領主の元で騎士団に入るのが常だ。通常であればその家の次男が来るものだがツクヨミの家では男子は一人しか産まれず婚礼の決まった長女にかわり次女である彼女が来たのだという。彼女は戦場で華々しく活躍したという初代の単眼卿のように立派な騎士として騎士団長になり領地を貰うことが夢なのだと語った。

 ルーナが「頑張ってください!」と大声で言う。出会った当初の怯えはもうない。私もなにか言おうと振り向いたらどうも様子がおかしい。何故か馬車が動き始める気配がない。小首を傾げていると何やら付き人にとめられるのを振り切ってとうとう馬車をおりてツクヨミが私たちの元にズンズンと聞こえそうな大股歩きで近づいてきた。

「提案があるのだが」と冷静ぶっているがやや息を荒くしてツクヨミは言った。

「もし良ければ貴殿も騎士団に来ないか?」

 度肝を抜かれるとはこういうことを言うのであろう。

「貴殿の剣の構えを見てピンと来たのだ!素人の構えではないと!そうしてみたら暴龍を撃退したというでは無いか!貴殿ほどの逸材!商会や不良組合などで燻らせるにはあまりにも惜しい!私が紹介状を書こう!なに!認め書があれば疑うものなどまず居ない!ぜひとも入ってくれ!入るべきだ!入れ!」

 肩をがっしりと掴みブンブンと脳震盪を起こしそうなほど揺すられながらそうまくし立てられるとあまりの出来事に脳の処理が追いつかなくなる。いや、あまりにも褒められ過ぎたために少し調子に乗った面もあったかもしれない、元々断れない性格だったこともある。そのどれにしても私は次の日にはウルータル騎士団の門を叩くことになっていたことだけは確かだ。


 ん?ああ、騎士団と言っても基本は温室育ちの坊ちゃん貴族の方が多いからね。入るまで剣をまともに触っていないものも多い、だからあの頃の私でも“初心者にしては”なかなか良い腕の部類に入れたんだな。

 まあなんだ、そうして紆余曲折色々あって今に至るわけだがさて、次は君の話を聞かせてはもらえないだろうか。

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